俺の事情 吉野剛志の場合
チビのくせに生意気な奴だと思っていた。
初対面なのにやたら馴れ馴れしく、友人達を引き連れて駆け回る。
苛ついて掴みかかろうとすると、簡単にいなされる。
泥だらけになって遊ぶことに慣れていない俺たちを、馬鹿にしたように笑いながらも甲斐甲斐しく世話をする。
コロコロと変わる表情。
気に食わないながらも目が離せず、視界から消えるとつい探してしまっていた。
それがまたシャクに触る。
一緒にいた悠貴も同じように感じているようだった。
そんな奴が見せた昼間とは違う姿。
神楽を舞っている時の幻想的な美しさ。
舞終わった後の儚い美しさ。
子供ながらに感情が掻き乱され、涙が止まらなかった。
抱きしめたい。
ストンとそんな思いが降りてきて、俺はこいつが好きなんだ、と納得した。
そして、守りたいと。
それからの俺は前以上に剣道の稽古に励んだ。
小さいくせに、俺より強かったモモ。
あいつを守るにはあいつより強くならなければ。
両親はそんな俺を見守ってくれた。
「あの子を守るためには文武両道じゃなきゃダメだよ」
そう言われ、学業も頑張った。
そのおかげか、小中と生徒会役員にも選ばれた。
俺、綾彦、俊輔に蒼太と碧。
メンバーはその時々で違ったがその5人は一緒だった。
小さな揉め事はありながらも俺たちは楽しく学園生活を送っていた。
心に小さな隙間を感じながらも。
高等部に上がり、俺たち5人に加わったのが楡崎朱鷺。
不思議と存在感のある男。
あまり表情が動かない綺麗な顔立ち。
光の加減で赤っぽく見える印象的な黒い瞳。
時折長い睫毛が影を落とし、形の良いそれでいて柔らかそうな唇も相まって妙な艶っぽさもある。
体格は幾分細っそりしているが、立ち居振る舞いが洗練されていて弱さは感じない。
むしろ、俺より頭半分ほど低いはずだが、見上げているかのような感覚になる。
もしかすると何か武道をやっていたのかもしれない。
髪に癖があるのか、午後になると黒髪のあちこちが少し跳ねているのが愛嬌と言えば愛嬌なのか?
言葉使いはぶっきらぼうではあるが優しさも感じる。
俺は好感を持ったが、綾彦は気に入らないようだ。
まぁ、会長という椅子を奪われたから仕方がないのかもしれない。
俺たちで回す仕事にも慣れ、衣替えも済んだ初夏、学園にモモが来た。
あの時からずっと思い続けてきたモモ。
モモが俺のことを覚えていなかったのは残念だったが、これからは俺がモモを守れるんだと有頂天になった。
モモはそんな俺に嬉しいと微笑みかけてくれる。
その結果、生徒会の仕事を放棄し、楡崎一人に押しつけることになってしまった。
罪悪感はある。
しかし、この学園の風潮からモモを守るためにはこうするしかないんだ。
案の定、少し目を離した隙にモモは池に突き落とされるという暴挙にあった。
犯人は不明。
だが、目安はついている。
親衛隊か俺たちランキング上位者の隠れシンパだ。
本当にこの学園の風潮には苛立つ。
中高と男ばかりの学園での寮生活のためか、男同士の恋愛がまかり通っている。
生々しい話も他人事ではない。
俊輔や楡崎は好意を寄せてくる相手に、誰彼構わず手を出しているらしい。
だからだろうか、抱きたいだの抱かれたいだの、俺たちが移動するだけで騒いでる。
親衛隊の存在も俺は嫌いだ。
俺という偶像を作り出し、いちいち俺の言動に口を出す。
確かに些事を手伝ってくれることはありがたいと思っているが、煩わしさが先に立つ。
不用意に一般生徒に声をかけようものなら相手を呼び出し制裁する。
過激な行動をするものは風紀も使い排除はしたが、表に出ていないだけでまだいるだろう。
一応は隊長に釘を刺し、今後問題を起こすようなら一切の関わりを断つとしたため大人しくしている。
俺のところはまだいい。
俊輔と染井兄弟のところもそれなりに交流しているらしく、今のところは静観しているようだ。
問題は綾彦のところ。
もともと親衛隊を嫌っていた所為かドライに対応していたため、モモが来てからは殺気立っている。
それと、動向が把握できていない楡崎のところ。
あそこはよくわからない。
一番の大所帯なはずだが、なぜか団結力が強く、機密性も高い。
モモに対しての動きが全くないのが不気味だ。
モモからいっそう目が離せなくなった。
モモは今日もあの池に行くという。
俺たちが止めてもダメだ。
自分が行くことで浄化できるんだと言って聞かない。
仕方がない。
モモに危険が及ばないよう俺がしっかりと守ろう。




