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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 5 運命の連結
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36 今という時 “あなた”という因果




 王都支部に設置した転移装置を通れば、ロルカンまでは一秒で着く。

 今回ロルカンに戻ったのは、俺、ロベルト、シンクレアの三名だ。

 ふふふ。ポム不在の遠出とか、もしかしなくても生まれて初めてだな!

 おお! なんという一人前感!

 地味に大人になったような気分になれるぞ! 死んだときの俺は三十才超えてたけど!

 ……あれ、俺の精神年齢、どこいった……?


 いや、細かいことは気にすまい。俺は常に未来に生きるのだ。過去だけど。

 なんとなく懐かしく感じるロルカンの支部は、俺が王都に向かった頃から比べると、微妙にバージョンアップしていた。

 まず、転移装置部屋が倍ぐらい広くなっている。

 そして置かれた転写水晶版(モニター)の数が増えている。

 以前は増設分を含めても七つしか無かったのだが、今はどう見ても二十はある。工業区や住宅区も網羅しているようだ。


 その転写水晶版(モニター)で見た街の様子にも変化があった。

 街のあちこちに冒険者が立っている。変事かと思ったが、のんびりした佇まいだから警備員だろう。

 商業区は全ての建物が完成している。あの時よりもさらに店が増えているようだ。


 一般住宅地はまだ建設ラッシュが続いているが、完成している所も多い。この短期間にどうやって、と思ったが、異様に多い大工の姿で察した。圧倒的な人海戦術だ。


 人口も増えている。旅人が増えたのだろう。加速度的に冒険者の数も増えているようだ。王都で聞いた話がそのまま現実になっているのだろうか?

 宿も繁盛している。新たに民家を改装した宿も増えているな。それだけの人間が訪れているのなら、税収もかなり増えているだろう。ジルベルト達が俺の支援の手を離れ、独り立ちする日も近いかもしれない。


「……」


 ……あれ。

 なんだろう? この、ぽかっと穴が開いたような感じは。

 普通なら喜ぶべきことだろう。

 いつまでも俺が影の帝王みたく存在するより、土台を完了させて後はジルベルトに全て任せるほうがいいのだ。

 俺は魔族で、ジルベルトは人の社会での領主だ。今更過ぎることではあるが、俺とずっと癒着しすぎるのは良くない。

 病気の時を支えた。――それぐらいの感覚でいい。

 病が癒えれば、人は自分の足で立って歩けるのだ。

 もう大丈夫になったと、安堵して喜ぶべきなのだ。

 ……こんな風に、残念な気持ちになる俺はおかしいのだろう。

 人の不幸を喜ぶ性格だったんだろうか……俺は最低だな……


「レディオン?」


 なんでもないよ、ロベルト。

 なんでもないから、そんなに心配そうな顔をしなくても良いよ。

 ちょっと自己嫌悪しただけなのだ。……どこまでいっても、俺は人の幸せを喜んでやれない魔王らしいから……


「――さぁ。まずはジルベルトの所へ向かうか!」


 無理やり気持ちに蓋をして、首を傾げているロベルトと何かを考える顔のシンクレアを連れ、俺はロルカン拠点を守っている部下二に挨拶してから外へ飛び出した。


 おお!? 道が綺麗になっている!

 それに開けた土地が増えている。古民家解体が進んだのだろう。交換や売買で入手した土地が一定数に達したとみえる。

 俺が想像していたより広い範囲で更地が増えているな。旧市街を改造できる日も近そうだ!


 おっと。面倒だから領主邸まで飛行術で突っ切ろう。一直線に向かえるから時間が短縮できるしな!

 ロベルトはシンクレアが抱えて飛ぶから大丈夫だろう。

 ……ああ、胸で窒息しかけるのはデフォルトか……

 死ぬなよ、勇者よ。『死因:乳』とか、たぶん勇者にあるまじきことだぞ。


 眼下を凄まじい勢いで景色が流れる。ほぼ一瞬で領主邸だ。

 あれ? 門番がいる。冒険者か?

 まぁ、いい。頭上を飛び越えてしまったから挨拶は今度だ!

 パーンと大扉を開け放ち、俺の趣味で整えた広間を無視して階段を全力疾走! 勝手知ったる友の家とばかりに、ジルベルトの執務室へと特攻した。


「ジルベルト!」

「!? レディオン様!?」


 相変わらず書類の山に囲まれていたジルベルトは、俺を見るなり驚いて立ちあがった。その顔が無意識に笑みかけ、その腕が軽く開かれるのを見て俺は大喜びで飛び込む。


「おかえ――えええええ!?」

「ただいま!」


 おお! ジルベルトよ!

 我が家の挨拶『お帰りなさいハグ』を知っているとは重畳だ!

 笑顔の両腕開きはお迎えのあいさつである。お前はもう俺の家族だな!

 むふー!


「おお、レディオン様。お元気そうで何よりでございます」

「モナも元気そうでなによりだ。そちらに変わりは無かったか?」

「新街区の建造ラッシュと新規入居者で税収が大幅にあがりまして、レディオン様にご融資いただいた分も完納できそうな感じでございます。それに、事情あって(いとま)を出していた者達が戻って来てくれましてな。内政も整いつつあります。……優秀な方を長い間お貸しいただき、ありがとうございました」

「そうか……いや、お前達の暮らしが安定するのは、俺にとっても重要なことだ」


 笑って言うと、深く頭を下げていたモナがさらに深く頭を下げた。


「本当に……本当にありがとうございました」

「モナ……?」


 その姿に、俺は首を傾げる。

 声に嗚咽が混じっていた。

 俺を抱えたまま硬直していたジルベルトもモナを見る。

 タッ、タッ、と微かな水音がする。

 零れた小さな涙の跡を床に刻んで。


「……モナ」

「ずっと、ずっと、もう、これで最期かと、そんな風に半ば諦めておりました。出来れば坊ちゃまだけは、この地獄のような負の連鎖からは逃れて欲しいと……そう思いながら、ずっと……」

「……」


 顔を上げたモナは、皺だらけの顔をいっそうくしゃくしゃにする。


「夢を見ることすら、諦め、もはや、ただ命をすり減らしながら、ただただ、死に向かって時を刻むのかと、ただ、ただ……負わされる坊ちゃまが不憫で、それが、おお……」


 唇を震わせ、言葉を必死に紡ぐモナに、俺とジルベルトは共に手を伸ばす。

 モナの体は震えていた。

 その体は細く、小さかった。

 老いた体だ。

 けれどその老骨に鞭打って、ずっとジルベルトと屋敷を、この領地を、必死に支えていた体だ。

 ――こんなに弱く、老いた(ヒト)の身で。


「夢を……また、見れるのでございますなぁ……やっと、見ることが叶うのですなぁ……」

「――モナ」

「ありがとうございます。ありがとうございます、レディオン様。貴方のおかげで、坊ちゃまは、この領地は、助かりました。どれほどの感謝を捧げても、捧げ足りません」


 ふと視線を感じて意識を広げる。

 こちらを見る複数の目を感じた。

 俺が開け放ってしまったドアの向こうに、何人もの従業員らしき人の姿が見える。――彼らが、モナが先程言っていた『(いとま)を出していた者達』だろう。泣きながらこちらを見ている。なかには頭を下げたままの姿勢でいる者も。


 ――愛されているのだ。領主家は。

 ジルベルトも、モナも、彼らに深く愛されていたのだ。

 負債を抱え、養えないからと職を解かれたなら、恨みに思うのが普通だろう。

 けれど、ここにこうして彼らはいる。

 そのことが、ジルベルト達が愛されていることの証拠だ。


「モナ。俺は、とても運が良い」


 俺の声に、嗚咽を堪えながらモナが目をしばたかせた。

 その枯れた肩を叩いてやりながら、俺は笑む。


「この地に拠点を構え、お前達と知り合えた。きっと、他では駄目だった。『今』という時、『此処』という到達点に至れたのは、この地にいたのがお前達だったからだ」


 この領地やジルベルトを助けたのが俺だというのは、事実だろう。

 それを否定することはしない。確かにそれだけのことはした。

 けれど、同時に俺もまた、彼らに助けられていた。

 土地のこと。

 商売のこと。

 相手が彼らでなければ、躓いていただろうことは多い。

 そして――心情のうえでも。


「俺は、正直に言えば、お前達にとって恐ろしく、得体の知れない存在だろう。すでに知っていると思うが、俺の中には力がある。こと魔法に関して、他の追随を許さない程度には」


 たった一夜で作り上げた巨大な長壁と広大な街の建造。

 膨大な『死の黒波』の大半を死滅させるだけの魔法と、高位変異種召喚。

 大魔導士と、そう呼んで称えられたのは、大きくプラスに働いた結果の話だ。

 畏怖だってあっただろう。

 嫌悪だってあっただろう。

 街を救われた、という事実やポムの話術などで意識をプラスに向けられた人々と違い、ジルベルトやモナはもっと早い段階から俺の異常性に気づいていたはずだ。

 そう――屋敷を魔改造したあの時から。


「王都の王城に行って、よく分かった。俺の知識や能力が、こちらではどんなものなのか」


 小なりとはいえ、王の住まいですら、つけられている付与魔法は貧弱だった。

 面白い試みや変わったギミックなど、俺としても研究素材として楽しめる内容ではあったが、所詮はそれだけでしかなかった。

 全ての魔法が下位のもので、そのスペックは俺が施したこの屋敷に劣る。

 ロベルトがずっと言っていた言葉の意味が、ようやく分かった。俺の知識は基本的に魔族の常識や、前世で見た人間の強国の知識だけだ。そしてそれらは、全て、人の社会においては普通では無い。俺の行いは、正しく、普通一般の人々にとっては過剰なものだった。


「……けれど、お前達は、一度も俺を気味悪く思わなかった」


 強い力を持つ者が現れた時、人がどんな態度をとるか。

 俺は覚えている。前世で見た人々の姿を。

 怯えがあった。

 畏れがあった。

 憎悪があった。

 恐怖があった。

 そして同時に、その力を利用できないかという欲があり――

 危険物(・・・)を排除しようとする拒絶があった。

 けれど、ただの一度も、彼らはそうしなかった。


「ただ、真っすぐに、俺を見てくれた」


 過去の俺にだって、人間を信じた時期はあった。

 ――ただ、最後に裏切られただけで。

 抱いた思いは、踏みにじられた数多の命と慟哭に裏返る。

 信じたのは間違いだったと。

 すべて滅ぼしておけばよかったと。

 どれほどの憎しみをもって思っただろうか。今はその記憶が奇妙なほどに遠い。


 また同じ轍を踏むのか、と。

 また裏切られる道を行くのか、と。

 人に触れる度、言葉を交わす度、疑念が脳裏を過ぎることもあった。根っこからは信じられないと何度密かに思ったことだろうか。

 ……信じてなるものか、と。

 けれど――


「いつだって、俺を裏切らずにいてくれた」


 例えば、申し訳なさそうな目。

 温かい優しさを込めた目。

 感謝をたたえた目。

 いつか借りを返そうと強い意思を込めた目。

 その一つ一つ。

 語彙を尽くした言葉ではない、その偽りのない強い眼差しで、本心を伝えてくれた。

 そのすべてで、心情を救ってもらったのだ。


 彼らは知らない。――俺が人間を憎悪していたことなど。

 この世界で俺だけしか知らない。――ほぼ世界中の全てに敵とされたときの絶望など。


「……お前達が、俺を、化け物と呼ぶことなく見てくれたから」


 その眼差しで、行動で――その存在全てで、当たり前のように受け止めてくれたから。


「俺は、『今』という時を得られた」


 救われたのだ。俺自身も。

 全ての傷が癒えたわけではない。

 けれど分かる。――ひび割れた心の何かが柔らかく癒されたことは。


「ありがとう。モナ。ジルベルト。俺を、ただ、俺として見てくれて。きっと、問いたいことだって沢山あっただろうに、何も聞かずにいてくれて」


 上に立つ者として、得体の知れない者を内部に抱えることは、褒められた行為では無いだろう。

 けれど――たとえ、それしか生き延びる選択肢が無かったとしても――清濁併せ呑む彼らの行いが、俺を助けてくれたのだ。

 心の意味でも、人の世界への足掛かりという意味でも。


「お前達と出会えた。――俺は、その幸運と喜びを忘れない」

「……っっ……」

「……レディオン様……」


 精一杯の俺の言葉に、モナが声を詰まらせ、ジルベルトがかすれた声をこぼした。

 残念ながら、俺の対人言語能力は乏しい。敵愾心を煽るやり方なら心得ているが、それ以外は下手もいいところだ。

 上手く伝えれただろうか?

 どんなに俺が嬉しかったか。

 ――どれだけ有り難いと思っていたか。


「レディオン様。それは、私達のほうこそです」


 ……ん?


「貴方に会えなければ、私達はきっととっくに死んでいた。衰弱死して、家は親戚に奪われ、この街の治安や統治は、今のようになっていなかったでしょう。……あの『死の黒波』の前に、アヴァンツァーレ領は終わっていた可能性は高い」

「ジルベルト……」

「貴方が奇跡を起こしてくれた。貴方がこの地に降り立つ前から、店を構えてくださったあの日からずっと、私達は助けられていました。踏みとどまる力を与えられ、貴方と会ったあの日からは、生き返る術を与えてもらいました。もらってばかりの私達の為に、何度も救済策を出してもらいました。……どうして、貴方を気味悪くなど思えるんですか。貴方はいつだって、私達のことを案じてばかりいたのに!」


 余りにも強く言われて、俺は迫力に押されて狼狽えた。思わず肩に手を置いていたモナの後ろに逃げ込みそうになる。


「疲れた体が早く癒えるよう、お風呂に入れてくれました。体が早く回復できるよう、特殊な料理を振る舞ってもらいました。壊れそうな屋敷を直してくれ、常に全力で仕事をしても疲れ果てないよう、様々な改造を施してくれました。食事も、休息も、睡眠も、全て貴方が整えてくれた。街だってそうです。貴方以外の誰が、あれだけのことをしてくれますか。不幸ばかりが続いて、神々でさえ見放したような場所だったのに!」


 ――思い出す。この地の評価を。

 重なった不幸で破綻した土地だった。

 その不幸の連鎖の中にいたジルベルトは、どんな気持ちだったろうか。

 ……俺がかつての自分をふと重ねてしまったほど、辛かったに違いない。


「人を癒し、街を癒し、助け、発展させ、おかげで私達はかつての家人達を呼び戻すことも出来ました。泣く泣く手放して、ずっと、帰って来てほしかった家族に等しい人達をもう一度家に呼び戻せたんです。誰のおかげですか。全部、貴方のおかげではありませんか!」

「……ジルベルト」

「ずっと、私達は守られていました。何故この地だったのか、何故私達によくしてくださるのか、それは私達では分かりません。それでも、貴方がしてくださったことだけは知っています――貴方は、私達をずっと守り導いてくれた。私達では推し量ることもできない心と、想像することもできないほどの強さで」


 すすり泣きながらモナが大きく何度も頷いている。

 俺はどうしていいか分からず、ジルベルトから目も逸らせず、おろおろしながらその場に棒立ちになっていた。

 だって、どうしたらいいんだろう?

 憎まれ疑われ拒絶されることには慣れていても、こんな風に『人間に』言われることには慣れてない。

 なにより――なんで、泣かれているのかが、分からない。


「まるで幼子を見守る父や母のように、ずっと大事にしてもらったんです! 分かりますよ! 何も言われなくても、その程度のことは!! そんな貴方を気味悪いだなどと言う人がいるのなら、私がその人に決闘を申し込みます! 父母に等しい人を貶されて、黙っていられるはずがない!! 貴方を化け物と呼ぶ者がいるのなら、その者が私達の敵です!」

「本当に、化け物かも、しれない、だろう?」

「それなら、私達だって化け物になりますよ! 貴方がくださった、沢山の愛情に賭けて!」

「――」


 俺の頭の中が真っ白になった。

 後ろの方で誰かがプスッと空気を漏らした。

 ポム――違う!――ロベルトか!!

 おまえ、そこで、吹き出すか!?

 いや違う、そうじゃなく、言葉、何か、ああ! 何も出てこない!!

 なんでだ!? 呪文しか浮かばないぞ!?

 なんでだ! 精神攻撃か!? 俺は今混乱しているな!?

 別人格(ディン)さん、出番ですよ!


『愛されてんなー』


 ありがとう!

 そうじゃない!!

 

「……分かってやれよ、レディオン。お前は、確かにこの街で、この街の連中をまるごと大事にしてくれたんだ」


 おろおろしている俺に、ロベルトが苦笑を浮かべながら言う。ちょっと口の端がぴくぴくしているのは、さっき噴き出した余韻か。


「ロベルト」

「自覚してくれよ? 出来るだけ傷つかないよう、出来るかぎり救い上げれるよう、何の関わりも無いはずのお前が、領主さんや家令さん達を助けて支援して、あほみたいに強い魔法やらなにやら力づくな面もあったけど、ひたすら自分の全力で必死こいて力を尽くしてくれたんだ。――なぁ、それって、傍から見たら、無償の愛じゃねーか」

「待て……それは、違うだろう。だって、ロベルト、俺は」

「お前がどんなことを一番意識してたかなんてのは、この際あんまり関係ないぞ。打算があったっていい。お前、自分で言ってただろ? 自分は商人だって。だけどな、商売でやる範囲を超えたお前の言動は、お前が思っている以上にお前の本性を浮き彫りにしてたんだよ」

「本性、だと……!?」


 まさか――まさか、髪の毛増えてくれとか、お腹空いたとかか!?


「多分、お前の残念脳だと違う結論出すんだろうけど、そういうのもひっくるめて、お前はお前が思ってる以上に、お人よしだよ。情が深くて、涙もろくて、感情移入しやすくて、必死になりすぎて自分のことを後回しにしてしまう、残念で残念な王様だよ」


 残念の重ねがけやめて。


「商売がからんでようとなかろうと、お前言ってたじゃないか。ジルベルトが可哀想だ、って。助けるのは当たり前だって。――理解できないなら、それでもいいさ。ただ、俺は知っている。ずっと、見ていたからな」

「レディオン様」


 何故か今まで見たこともないような穏やかな顔で言うロベルトの隣で、同じような微笑みを浮かべたシンクレアが口を開く。


「人の思いを、そのままどうか受け止めてあげてくださいませ。他の誰でもない、貴方が過ごしてきた時の全てが、そこにあるのです。全ての物事の結果は、必ずその人の元に至るのですから」


 良いものも悪いものも須らく、その因果の元へと至る。

 かつての俺が、最終的にそうであったように。

 ならば、モナとジルベルトの思いは、俺の今生の行いの結果だ。

 つまり――俺は……


「俺は……ちゃんと、お前達と、繋がれていた、のか?」


 独りよがりでなく、誤解でもなく。


「貴方が拒否されない限り、私達はずっと貴方に繋がっています」


 人である身と、魔族である身なのに?


「それでも、お前達は、まだ、俺が何なのかすら、知らないだろう?」

「知っていますよ」

「!?」


 流石に愕然とした俺に、ジルベルトは微笑(わら)う。


「例え貴方が何であろうとも(・・・・・・・)。私達は貴方の本当の姿(・・・・)を知ってます。だから、何も言わなくても大丈夫です。もし何らかの事情で必要性が出た時以外で、教えられる必要もありません」


 そう言ってジルベルトは――いや、ジルベルト達はひどく印象的な笑みで言葉を紡いだ。



「もう、私達は知っていますから」







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