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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 5 運命の連結
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34 見えざる意図と穢れた意思




 分厚さだけはあるテーブルの縁は、長い年月を人と人の間で過ごしてきた結果として、黒ずんで丸くなっていた。

 ややテカって見えるその縁の向こう側では、二人の男が重そうな袋を幾つも抱えて来ている。

 対するこちら側はと言えば、気負うでもなくのんびりと立って待っていた。

 もっとも、俺達の後ろ側はどよめきと興奮で色々暑苦しいことになっているが。


「赤い布で口を縛っている袋は、一つに金貨が千枚入っています。青い布で縛っている分は、端数のものを入れた袋です」


 ゴスゴスと重い音をたててカウンターに置かれていく袋の数は、十や二十ではとうていきかない。よくもまぁ、これだけの金貨を所持出来ていたものだ。王都だからだろうか?


「……俺、あんな風に積み上げられる金袋、商業組合の商戦でしか見たことねーわ」

「私の家でしたら生のまま転がっておりますけれど、ロベルト様はお入用ですか?」

「いい! 欲しくない!!」

「結納でも新居建造用にでもご自由にお受け取りくださってかまいませんのに」

「新居、大型建築物限定!?」


 クレアさんは押して押してしておりますな。

 そしてロベルトよ。官能的な美女に張り付かれてるから、周囲の嫉妬が酷いことになってるぞ。

 ちなみに女性陣の視線をかっさらっているのは俺――ではなく、サリとオズワルドの美形若作り(おじいちゃん)コンビである。


「木箱ではなく袋なのですな」

「俺のいた時代とだいぶ違うな」


 おじいちゃん達! 年齢がバレそうになるフラグは駄目よ!


「商会で使い道は決めているのか?」

「一応は。とはいえ、皆様のお小遣いはお渡しする予定ですよ」

「ふむ。では、オレの分はレディオンに与えてくれ。別段必要ないからな」

「私も不要ですな。ご自由にお使いください」

「坊ちゃん! よかったですね! おじいちゃん達がお小遣いくれるそうですよ!」

「ありがとう! おじいちゃん!」

「「……おじいちゃん……」」


 二人して微妙な顔になったが、俺はニコニコだ。カウンターにある袋の山を見るだけで目尻が下がるとも。

 この世に生まれ直して一年と少々。前世ではほとんど人任せだったので味わえなかったが、金が積みあがる瞬間というのは良いものですなぁ!

 むふー!


「では、内訳に入らせていただきます。こちら、討伐依頼報酬として金貨十万枚。討伐個体報酬、オークキング金貨五万枚。オークジェネラル金貨七万五千枚。オークビショップ金貨三万枚。オークアーチャー金貨三万枚。オークナイト金貨三万二千枚。オーク六十一万八千百枚です」


 ひゃっほぅ!


「もし素材に関しまして回収してある物がございましたら、こちらでも買取をしていますがいかがでしょうか?」


 なかなか可憐な受付嬢は、そう言って窓口担当であるポムに買い取り用紙を見せる。その目がチラチラとサリ達に流れかけては、意志力を総動員してポムに戻しているのが地味に笑えた。


「金貨九十万枚超えとか……!」

「なんの依頼だ!? あんな高額依頼あったか!?」

「ベニーニョ山地のオーク討伐らしい。キングが生まれていたそうだ」

「あの大集落を陥落させたのか!? 嘘だろ!?」

「どこのパーティーだ……見たことねぇ連中だぞ……」

 

 俺達がオーク耳の山を持ち込んだ時から騒ぎになっていたが、ここにきて熱気も最高になっている。

 分かるぞ、人間達よ! 大金が積みあがってると体温上がるよな!!


「いえ。たぶんそっちじゃないと思いますよ、坊ちゃん」


 ほょん?


「ええと、素材ですよね? 皮なら三千まででしたら卸すことが可能ですが、製品化する場合、うちの商会が手掛けた方が冒険者の方のお財布に優しいと思います。ギルドとしてはどっちがいいですかね?」

「そちらの商会、ですか……?」

「ああ、私共は『グランシャリオ商会』と申します」


 あ。サリ達まで一緒くたに商会メンバー扱いしやがった。


「俺もかよ!?」


 ロベルトはいいんです。むしろうちで囲い込む気満々だからな!


「え!? あ……ああ!」


 受付嬢がポムと提出してある俺達の冒険者カードを見比べてギョッとなった。

 ……サリに見とれすぎて、ちゃんと俺のカードを見てなかったんだろうな。ロルカンでは名前で一発身バレしたのに。まぁ、仕方ない。


「ポム。卸してさしあげろ。ギルドに関わりのある職人とていよう。……それと、ギルドの口座に金貨を預ける。そうだな……八十万枚はそのまま入れておいてくれ」


 ちなみに口座はロルカンで開いたやつだ。なお、残金おいくらかを考えてはいけない!


「皮の売却代もそちらに入れておいてくれ。それと、ロルカンの支部長から紹介状を預かっている。急ぎだったので朝に渡すのを忘れていたが、組合で販売したい商品があるのなら、明日以降に商業東通りの端にある屋敷に来てくれれば、それなりのリストを渡せるだろう」

「ろ、薔薇露(ローズウォーター)は!?」


 お、おぅ。

 すごい熱意だ。女性はやっぱり、アレ、大好きなんだな?

 よろしい! ならば、王都進出記念として大盤振る舞いしてやろうではないか! 資金稼ぎもかねて!!

 俺は顔繋ぎをかねて被っていたフードを取ると、慈愛を込めて微笑んで見せた。

 くらえ! 俺の! (鏡前で百回練習頑張った)渾身の笑顔!!


「あるとも」

「――……」


 ……。

 ……あれ。

 なんで時間止まるの。

 待って。俺まだ時空魔法唱えてない。


「き」


 き?


「きゃあああああああああああああああ!!」





 俺はきっと、泣いていい。







「はーい。屋敷に戻ったのでお小遣い配りますよー」


 俺の手を引いて帰宅したポムは、とぼとぼ歩く俺を椅子に設置してから無限袋に収納していた袋を取り出した。


「たんに暴れて金貨千枚とか、正直、行商してるのが辛くなってきた……」


 ロベルトは金貨の詰まった袋片手に肩を落としているが、シンクレアは「うふふ。結婚資金~♪」と袋片手にくるくる舞っている。

 

「人の世では変異種(ヴァリアント)の被害は深刻だろう。報酬額の相場は知らないが、お前の力でなら冒険者として荒稼ぎすることも可能ではないか? 目立ちたくないそうだが、レディオンの傍なら、目立たずに過ごせると思うが」

「あー……うん、まぁ……魔王サマ等に混じってりゃ、目立たずにすむのは理解してんだけどよ……」

「というか、ごっそり報酬ピンハネしちゃってるんですけどね、うちの商会が。あの報酬額からすれば、金貨千枚なんてお小遣いですよ。代わりにロベルトさんには伝説級(レジェンダリー)特異級(ユニーク)を超える希少高遺物(アーティーファクト)を差し上げますから、勘弁してもらえると嬉しいです」

「あきらかにそっちの報酬のほうが価値高すぎだろ!?」

「今なら全て次期魔王作ですよ!」

「知ってた!!」


 ロベルト……俺の作った品、いらにゃいの……?


「いや、欲しいけど! 欲しいけどな!? 涙貯めたつぶらな目ぇ向けるのやめろくださいませんかね!? ……つーか、おまえホント頼むから自分をマイナス評価すんのやめような?」

「ふーふーふー。仕方ありませんね~。しょんぼりな坊ちゃんには甘いお菓子をあげましょう。チーズタルトですよ、あ~ん」


 あ~ん。


「クイニーアマンもありますよ。あ~ん」


 あーん!


「……食い気で回復すんのかおまえの気力は……」


 むふー!


「なに。年相応な姿ですな」

「まぁ、気力が回復したのなら、良いことだ」


 苦笑して、おじいちゃんは俺の頭を撫でた。

 む。サリはわりとナデナデが上手い。


「さて、レディオンに二、三話があるのだが、構わないか?」

「そういえば、言っていたな。良いとも」


 ポムからおやつにクイニーアマンを二十個ほどもらい、シンクレアに引きずられるロベルトを見送りながら、俺はサリと一緒に隣室へと移動した。






「さて、オズワルド。半日以上こちらに居たわけだが、この大陸で神族の影はどれほどあった?」


 部屋に入ると、唐突にサリはそうオズワルドに問いかけた。

 オズワルドは俺とサリに視線を向けつつ応える。


「王都近隣であれば、三柱の痕跡が強いですな。時空神の系譜が二柱、水神の系譜が一柱。……しかし、どうもこの国は、神族の介入が酷いように見えますな」

「……そうか。『粛清』の対象になるか?」

「関与が確定すれば、なりますな。『死の黒波』――あれがどうも、引っかかっております。レディオン殿。何か神族に関連しそうなものが見つかりましたら、私に連絡を」


 声に、俺は二人を交互に見た。

 もしかして、サリは――


「サリ……この大陸に来たのは、オズワルドに神族の禁忌を確認させるため……か?」

「半分は、な。おまえが神族を警戒していると知ってから、オズワルドにセラド大陸やおまえが意識を向ける先の『探査』をしてもらっていた。今のところ、オズワルドの『探査』が及ぶ範囲限定だが、セラド大陸に神族の影は無い。……おまえ達が最初の異変に遭遇したという、ヴェステン村に関しては未だに証拠になりそうなものが発見されないが」


 ヴェステン村――俺が初めて外に出たあの日の村。

 最初に『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』と遭遇した場所。


「ただ、調査を進めた結果、お前が最初に会ったという『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』の『素』となっただろう者の名は分かった」

「!」

「ペーター・キルステン。ヴェステン村とも、ベッカー家とも、(えん)もゆかりも無い男だ」


 俺は顔を顰め、次いで少しだけ黙祷を捧げる。

 『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』は、変異させられた魔族の肉体と猛毒大蛙ポワゾンモルテル・フロッグが融合したAMアノルマル・モンストルだ。

 ――あのAMが出るということは、必ず同族が犠牲となっているということなのだ。


「……その犠牲者(・・・)と、他の連中に繋がりが『無い』のか」

「そうだ。あの『ノルン』が独自にスカウトして罠を張ったのか、それとも別口で動いている何者かがいたのか、そのあたりはこれからさらに踏み込んで調べないといけない。……だが、一度、おまえに話を通しておくべきだと思った。この時点で、何か、気づいたことはあるか?」

「いや……」


 呟きながら、頭の中で考える。

 ヴェステン村で『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』と対峙した――あれが、何を意味するのか。

 父を狙ったものだろうと、俺は思っていた。

 あの近隣の村は全て父の保護下にある。異変があれば必ず父は動く。


 俺が知りうる限り、父の命を奪うのは海人族だ。

 それ以前の父のどの時代に危機があったのかは知らない。

 けれど、あのAMが出て、最も危険なのはやはり父のはずで――……


「……いや、待てよ……」


 脳裏に閃いた光景に、俺は思わず呟いていた。

 思い出せ。思い出せ。

 あの時、父が外に出たのは、俺がいたからだ。

 俺を朝乗りに連れて行くためだ。

 本来なら――そう、前世なら――俺という荷物が無かったのだから、父はとっくに門を超えて遠乗りに出かけていたことだろう。それ以前に、今と違って仕事主体で動いていたのだから、領地にいなかった可能性が高い。

 父では無い。

 直接の標的になっていたのは父では無い。


「ヴェステン村……」


 グランシャリオ家の西。

 広大な平地の中に在る小規模な村。

 母様の実家近くにあって、大豆の生産地。

 

「……大地にかけられた呪い……」


 テールが言っていた。

 屋敷近辺の大地に奇妙な呪いが息づいていた、と。

 そして、三か月程前にも似たような波動を感じた、と。


「人では無く、土地を狙った……?」


 『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』と猛毒大蛙ポワゾンモルテル・フロッグの『卵核』――量産し、溢れかえらせようとしていたモンスター・トラップ。

 猛毒大蛙ポワゾンモルテル・フロッグは、その血肉で大地を(けが)す。

 『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』はそれ自体が天災級の穢れだ。


 だが、何故だ。

 あの近辺の土地に何かがあったという記憶は無い。

 それとも、ただ俺が知らないだけだろうか?


「……サリ」

「なんだ?」

「大陸に、すぐに、帰ってくれ。嫌な予感がする。父様に連絡を。鍵は、おそらくヴェステン村近隣にある」

「……だが、村の者には何かあるようには見えなかったぞ。魔法での探査も行ったから、怪しい者がいるとは思えない」

「違う。人でなく、大地だ」


 胃の奥が捻じれるような、奇妙な痛みと気持ち悪さを感じた。

 ああ、あの日から、いったいどれだけの日が経っていたのだったか。

 テールが近辺の浄化をしてくれていたが、ヴェステン村にまでそれが及んでいるのかは確認していない。

 調査に行っていたサリ達が異変を感じていない以上、致命的な状況にはなっていないだろう。

 だが、放置は出来ない。


「テールにも声をかけてみる。そのペーターとやらがうちの領地とも関係のない者なら、何故うちの領に来てあんな風になったのかも調べないといけない。……大地の力を穢し弱めることで、何かを引き起こそうとした……その予測が正しければ、ヴェステン村近隣には何かがある」


 おそらく、父はおろか現魔王(サリ)ですら知らなかった何かが。


「……分かった。では、オレ達は急ぎ戻ることにしよう。――オズワルド」

「畏まりました。……レディオン殿、この『無限袋』に、来訪の理由の半分を入れてあります。あとでご確認を」

「ああ。……いや、俺も……」


 一緒に戻る、と言いかけて、口が動かなくなった。


「? どうした?」

「レディオン殿?」


 唐突に動きを止めた俺に、二人が訝しむ。

 俺は小さく息を吸った。一度。二度。それで硬直が溶ける。

 けれど、動けない(・・・・)


「……すまない。俺はまだ、この大陸を離れられないようだ」


 分かる。

 これは、『死の黒波』を予感した時と同じだ。

 まだ、この場所を動くことは出来ない。


「? ああ、別に気にすることは無い。そもそも何か気づいてくれればと願い、かなったんだ。あとはこちらで手を回す」

「……気を付けてくれ。連中にまともな考え方は通じない。あんたに何かがあれば、魔族は路頭に迷うんだ」

「おまえに言われると、微妙に苦笑せざるをえなくなるな。そっくりそのまま返そう。オレは後継者を失いたくない。ちゃんと体を大事にするんだぞ?」

「分かっている。けれど、サリ……本当に、気を付けてくれ。あんたがいるかいないかは、魔族の存亡に非常にかかわることなんだ」

「……」


 俺の様子に何かを察したのか、サリは苦笑を消して真剣な顔で俺を見据えた。

 俺はサリの目を見返す。

 時間にして何秒か――サリがなんとも言えない笑みを浮かべて頷いた。


「努力しよう。オレの幼子が、迷子になって泣かないように」


 頭を撫でてくれる手は、やはり暖かくて心地よかった。






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