大森林の町にて
テストを兼ねての初連載投稿。短いですが。
王国は、北方大陸のほぼ中央に位置する内陸国である。
王国の北側には険しい山脈が連なり、強大な帝国とを隔てており、
東側には、北から南にかけて、大公国、教国がそれぞれ存在する。
さらに東には共和国も存在するが、国政は安定していない。
南側は教国に接して都市国家同盟とそれに無所属の小国群があり、
ここからさらに南へ向かうと、中央海を隔てて南方大陸が現れる。
最後に西側であるが…北部は大森林が続き、南部は大湿地帯。
王国から大河で隔てられたこの地は、長年開拓されることもなく、
「主なき地」と呼ばれている。
◆
「主なき地」には人間あるいは亜人種が住んでいない訳ではない。
国家を名乗れるほどの都市が存在しないのである。
大森林の中にはあちこちに小規模の町や村、集落が点在しており、
それぞれが街道と呼ぶにはささやかな道で繋がっている。
人口が少ない、という事は人間や亜人種「以外が」多いという事。
必然的にゴブリンをはじめとした敵対種族や害獣、魔獣は多く、
安全な場所ではなかったが、様々な理由で移り住む者はいた。
中には、未知の領域に好奇心を抱いた者もやって来る。
◆
「こういう場所にこそ竜がいると思うのよ」
「あやふやな思い込みで連れてこないで欲しいわ」
そんな会話をしながら、二人の女達が細く長い道を歩いている。
彼女のうち一人は吟遊詩人。もう一人は作家である。
大公国出身だが二人とも冒険者資格を持っている訳ではない。
一応は友人と呼べるこの二人は、最近創作活動に行き詰っていた。
大公国から教国、王国、都市国家同盟も小国群も歩き回り、
果ては政情不安な共和国にまで足を延ばして話の種を探したが、
旅立ってから三年、どこを訪れてみても頭にぴんと来ない。
帝国へ安全に訪れるには、大回りして旅をしなければならない。
あるいはあの険しい山脈「死霊の霊峰」を超える必要がある。
命などどうでも良いが、辿り着けずに息絶えるのは御免である。
残りは南方大陸か「主なき地」か。
都市国家同盟なら南方大陸の噂も集まるかと聞き込みしたが、
沿岸以外は砂漠が広がるだけで、その奥地はひたすら暑いと。
胸をときめかせるような話は全く聞けなかったのだ。
ならば「主なき地」へ行ってみよう。
害獣、魔獣が多いのは過去の情報からも確かなようだ。
伝説の生物や霊獣などがいるとすればここではなかろうか。
そんな根拠で二人は進む。いや、三人である。
金払いの良さについ頷いてしまった「冒険者もどき」。
元三つ星の女、斥候のリーリオである。
◆
リーリオも「もどき」とは言え、中途半端な仕事はしない。
「主なき地」で最低限活動出来るように、情報は仕入れていた。
今は大河を小舟で渡り、情報にあった町へ向かう途中である。
リーリオも、なりたくて「もどき」になった訳ではない。
組んでいた連中の恋愛沙汰に巻き込まれ、冒険者資格は剝奪。
人を殺すの殺さないのという話だったから、まあそれは分かる。
但しリーリオは恋愛沙汰の当事者ではなく傍観者であった。
なのに何故か問題の中心人物扱いされていたのだ。
今でも思い出すと大声で叫びたくなる。
ようやく目的の町に着く。聞いていた通り随分小規模だ。
情報収集の前に、宿を取ることにして二人にも了承を得る。
小ぢんまりした宿を見つけ、中で出迎えてくれた女将に、
女三人、夕食付一部屋でとりあえず三日間宿泊すると告げた。
二人に情報収集をしてくると説明し、顔を繋ぎに外へ出る。
事前に聞いていた小さい建物に「もどき」の連絡員がいるはず。
扉を一定間隔で叩く。三回、三回、二回。
「入れ」
中に入ればそこには…リーリオが二度と会いたくない顔があった。
「もどき」にならざるを得なかった原因。
恋愛刃傷沙汰の原因。髪型は変わったが、女魔術師カメリアだ。
こいつが大胆にも仲間内で四股したせいで、とばっちりを食った。
仲間だった男達は本気で殺し合い、冒険者は続けられなくなった。
リーリオは思わず殴りかかりたくなったがその寸前、
「連絡は受けているわ。この周辺では聞かないようよ。
南の大湿地帯のリザードマンなら竜の伝説があるみたい」
と先に切り出された。こいつ…わたしだと気づいてない?
今は仕事優先、と引きつりながら情報の礼と質問を返す。
「そ…そう。ありがとう。
リザードマン相手に気を付ける事とかあるのかしら」
「彼らなりのしきたりが色々あるそうよ。
まとめておいたから依頼主に渡してあげて」
リーリオは紙の束を渡された。本気で気付いていないのか。
疑問に思いながらも礼を言い、
リーリオは連絡の報酬を支払って建物を出る。
◆
リーリオが去ると、カメリアは長い溜息をつく。
意外と気づかれないのねぇ、と。
カメリアも彼女が元の仲間だったリーリオだとすぐ気が付いた。
彼女まで冒険者を辞めざるを得なくなった事には、
これでも責任を感じていたのだ。
実のところ、さっきは殺される事も覚悟していた。
いや、殺されてもいいと考えていた。親友だと思っていたから。
逃げてしまってここまでたどり着いたけれど、
後から仲間の男達は全員半死半生、彼女は逃亡したと聞いた時、
罪悪感で自ら命を絶とうかとも考えた。度胸がなかったが。
今回の仕事が終わり、もしもう一度ここにリーリオが来た時は。
その時は打ち明けよう。そしてどんな選択でも受け入れる。
けじめとして。




