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⑴ 深刻な事態

 私は、アノンさんと詩織を私の部屋へ招いた。

 本当はアノンさんだけで良いのだが、同じ放射線測定チームとして、詩織も呼んだ。


 2人をソファーに案内し、飲み物を用意して、私も向かいのソファーに座った。

 まだ、何の確証も無い為、他の皆には余計な心配を与えないよう配慮した。

 だが詩織は、いつもと違う私のようすを、感じ取ったようである。


 私はアノンさんに話し始めた。

「これは、あくまでも理論上の話しとして訊かせて下さい」

「はい」


「今回、兵器として使われたウィルスについて、教えてほしい」

 アノンさんは、少し驚いたような表情で応えた。

「……はい」


「聞きたい内容は2つあります。最初に1つめですが、あのウイルスが投下された場所に、ウイルス拡散を防ぐ目的で核が投下され、ウイルスを死滅させる。とのお話しでした」

「はい」


「しかし、ウイルスの広がりが速く、生き残ったウイルスが存在する可能性は無いでしょうか?」


 アノンさんは、言葉を選びながら慎重に答えた。

「西側の防衛システムによって、潜水艦から打ち上げられた核ミサイルは、ウイルスミサイルの投下地点へ10分以内に届いたはずです」

「……10分以内?」


「また、生き残ったウイルスがいたとしても、そもそもウイルスは単独では生きられません」


 ……そう、ウイルスは人や動物の細胞内でしか生きられない。

 ウイルスに感染した人は、咳やくしゃみなどによってウイルスを体外に出し、そのウイルスが他の人の体内に入り込む事で感染し、広がっていく。

 しかし、体外に出されたウイルスは、生きていられる時間が短い。

 その間に、別の体内に入り込む事が出来なければ、そのウイルスは死ぬ。


 私は質問した。

「あのウイルスが、単独の状態で生きていられる時間は、どのくらいでしょう」

「3日……長くて5日です」

 ……つまり、ヒトの体内へ5日以内に入り込めなければウイルスは死ぬ。


 アノンさんが、話しを続けた。

「それともう1つあります。あのウイルスは強い毒性を持っています。感染した人は数日で死んでしまう。しかし、死んだ人は咳等しませんので、ウイルスを巻き散らす事はありません。よって他の人への感染が防がれます。毒性の強いウイルスほど広がりにくいのです。仮に生き延びたウイルスがいたとしても拡散せず、収束するでしょう」

「なるほど、了解しました」


 詩織は、ただ黙ってきいている。


 私は話しを続けた。

「では、2つめの質問をさせて下さい」

「……はい」

「あのウイルスは、ヒト以外の動物に感染する可能性はありませんか……例えば鳥とか」


 アノンさんは少し険しい表情で答えた。

「それはありえません。あのウイルスの遺伝子情報からは、ヒトにしかうつりません。仮に、渡り鳥などにうつれば、その潜伏期間内で広範囲に広がってしまうでしょう。しかし、あのウイルスにとっては、ヒト以外が宿主になれる事は、ありえません」

「ありがとう、わかりました」


 アノンさんは、私に訊いた。

「なにか気になる事……あるのですか?」

「実は、モニターシステムのスレーブユニットを設置する為、地上に出た時の事なのですが」

「はい」


「真っ青な空が広がっていました。……でもその空に、鳥が飛んでいない」

「いや、単にたまたま飛んでいなかっただけでは?」

「はい。ただその後気になって、モニターシステムのカメラからの映像で、鳥や動物を探したのですが、今のところ、確認出来ません」


「それは……AMさんはウイルスによって、動物等が死滅したのではないかとお考えですか」

「単に、可能性の1つとして」


「いえ、それは、ありえません! あのウイルスは、ヒト以外が宿主になれる事は、ありえません! また、これほどの短時間で変異したとは、考えられません」

「……はい。わかりました。ご教授頂き、ありがとうございます」


 そして、この話しは終わり、解散した。

 まあ、アノンさんは専門家だから、私のような素人が勝手な想像を語るのは、混乱を招くだけだ。

 そんな事を考え、入浴を済ませてベッドに入ろうとした時、部屋のチャイムが鳴った。


 こんな時間に誰だろうと思いながら部屋の扉を開けると、そこに立っていたのはアノンさんだった。

 アノンさんは部屋に入り扉を閉めた。


 そして深刻な表情で私に言った。

「ヒト以外にも感染する可能性……あります」


「……えっ?」


次回:これからの事

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