⑷ サプライズ
このシェルターに潜ってから2ヵ月が過ぎた。
水耕栽培によって、レタス、キュウリ、トマト等の野菜が順調に育ち、今ではここで新鮮な生野菜を食べる事が出来る。
まさに女性達のおかげである。
そして今ではこのリビングの一画が、家庭菜園となっている。
実に素晴らしい。
私は、リビングの広いテーブルを利用して、シェルターのマニュアル等を広げて計算していた。
このシェルターは、120人が3ヶ月間として設計されている。
それを私たち7人で利用するのであれば、単純に計算して約4年間の利用が可能との認識である。
しかし、食料については単純に計算出来るが、エネルギーについては単純な計算とはならない。
エネルギーを節約する為、私たちが利用しているエリア以外の電源は落としているが、それでもエネルギーは、2年間持たないとの計算となった。
この事実を全員に伝え、認識の共有を図らなければならない。
だが、このシェルターに潜ってから、3ヵ月後には地上に出られるとの予測である。
仮にそれが半年後となっても、まあ、大きな問題にはならないだろう。
そんな事を考えていると、女性達がリビングに入って来た。
先頭にC子さん。大きなケトルを持っている。
その後ろに詩織。トレーに乗せた4人分のカップと紅茶セット。
続いてアノンさん。真空パックされた焼き菓子を運んで来た。
どうやら女子会を始めるようだ。
女子会と言えば女子だけのお茶会である。
私が居たら寛げないと思い、リビングから退室しようとテーブルの上を片付けはじめた。
すると、彼女達から見えない所で、B子さんが私に手を振っている。
私がB子さんに目を向けると、B子さんは口の前で人差し指を立て、私に手招きする……なんだろう。
私は静かに席を立ち、B子さんの所へ行った。
それは、B子さんからの内緒話しだった。
明日の7月12日は詩織の誕生日。
サプライズとして、詩織の誕生パーティを企画しているとの事。
そこで私にも、協力して欲しいとの事だ。
私は了解し、その内容を教えてもらった。
その後、B子さんも女子のお茶会に加わった。
すると、今度はC子さんが席を外した。
なにやらこっそりと、女性3人が手分けして、明日の準備をしているようだ。
そんな彼女達を見ていると、本当に詩織は皆から愛されている。そう感じた。
私は自分が利用していたテーブルの上を片付け、このリビングから退室した。
・・・・・・
次の日を迎えた。
詩織は今日、自分の誕生日である事に、気付いているのだろうか。
昼食後、詩織を私の部屋へ招いた。
そして雑談した。
これが、B子さんから頼まれた私の役割である。
詩織に対して、何か用件がある訳ではない。
よって中身の無い話しが続く。
しかし詩織は、私の話しを興味深く聞いていた。
私は思うのだが、実は中身の無い話し、下らない話しなど、ないのではないか。
要は、その話しを自分の中で、どのように料理するか。
誰かが言っていた。
不味い料理はあるが、不味い食材は無い。
問題はその食材を、どのように料理するかである。
そんな事を考えているうちに、予定の時間となった。
突然、部屋の電気が消えた。
「どうしたんだろう。リビングへ行ってみましょうか」
などと言って、用意していた懐中電灯をつけ、詩織をリビングへ誘導した。
暗いリビングの中で、15本のロウソクが明かりを灯している。
「パン! パン! パン!」
クラッカーが音を立てた。
詩織の頭上に紙テープが広がる。
「おたんじょうび、おめでとー」
みんなからの拍手とお祝いの言葉に、詩織は両手を口に当て、目を潤ませている。
テーブルの上には、大きな手作りケーキが用意されている。
私は話しをした。
「今日はA子の誕生日という事で、女性の皆さんが誕生会を企画してくれました。シェルターに潜っている状況ですが、今日は明るいひと時を過ごしましょう」
そして詩織が挨拶した。
「誕生日を祝って頂くの……物心がついてから初めてのような気がします。感激のあまり、頭の中が真っ白になってしまいました。皆さん本当にありがとうございます」
みんなで暖かい拍手を送った。
そして、誕生会が始まった。
沢山のオードブルが用意されている。
ただ、私は飲めればいい。
BMさんも、CMさんも、今日は珍しく詩織に色々話し掛けている。
それに対して、詩織は、めちゃくちゃ緊張してるではないか。
そんな様子を、私は微笑ましく見ていた。
誕生会はお開きとなった。
その後、皆で一緒に後片付けを行い、解散となった。
詩織は、リビングから退室する一人一人に、感謝の気持ちを伝えている。
そして、このリビングは私と詩織の二人きりとなった。
照明を消して、一緒に退室しようとした時、詩織に声を掛けられた。
「レイさん」
「……はい」
詩織は私の目を真っ直ぐ見て言った。
「あと3年、待っていて下さい」
私は詩織を包み込むように、抱いて応えた。
「はい。待っています」
次回:地上への道




