飛雨
雨が降ってきた。真っ黒な雲を従えて、ぼたぼたと大粒の雨が山に降り注ぐ。賑やかしいというよりかは騒がしい。雨の襲来に潤晴來は空を見上げた。
「おや、こいつは珍しいのが来たものだね」
夏の神が陽気に笑む。空からの来訪者に、潤晴來の腕に囲われていた白宵もまた、つられて上を見た。
「おや、お二方ともお揃いで。お久しゅうございます」
真っ黒な雲に馴染む、真っ黒な衣装に朗らかな笑みを浮かべた男神だ。
「流黒、お前が来たと言うことは、長く酷く降るのか、この雨は」
秋の神の凛とした声が問いかけた。二神の前に足を下ろした雨の神はひょいと肩をすくめる。
「わたくしが来ようが来まいが、雨の様子は変わりませんよ。付いて歩いているだけですから。お日さまだって知っています」
「それでも、なんだか土砂降り続きになりそうな雲じゃあないか」
ゆったりと応答する潤晴來の手のひらに雨が弾いた。もの好きだとそれを眺める白宵に濡れた様子はない。
「えぇなるでしょうね」
のんびりと流黒は言った。激しく降り続ける雨とは真逆な物言いは、何の感慨も含んでいなかった。
凪いだその声に、探りを入れたのは潤晴來だ。
「また急だね。あんまり降られても、こちらも困るのだが」
朗らかな声音と裏腹に流黒を見る目は鋭い。
「しかし雨の季節でもございましょう?」
くつり、流黒は喉を鳴らしてそれに言い返した。
「ほぉ。なら、大神は何と? これは季節を変える雨なのかい?」
「ではそちらの大神は何と? いつ夏は秋へと巡るのですか?」
――おっと。
大袈裟に、潤晴來は肩をすくめる。
「いけない、いけない。これは藪蛇だったか。あーこわい、こわい」
それから、白宵に回した腕の力を強めクスクスと笑んだ。白く柔らかなその腕を、秋の神は優しく叩く。
「潤晴來、おやめなさいな。流黒とて私たちと同じでしょう」
分かっているよ、とは夏の神。雨の神はそんな女神たちへ、芝居がかった仕草で胸に手を当て頭を下げた。
「そう、あなた方と同じく雨を見守るそれだけの存在でございます。全ては在るが儘に。わたくしたちが成せることなど、それ以外にございません」
「して、この先は何処へ行く」
夏の神は静かに問いかけた。
「さて、ただ流るるままに。全てを見届けましょう。それが役目にございますので」
「あまり、長居はして下さいますな」
秋の神は、願うようにそう告げ。
「えぇ。叶うものならば」
和顔を浮かべた雨の神は、深く一礼を返したのだった。




