プレシーズンマッチ二本目
「ふう、ようやく1本目が終了か。しかしやっぱり強かったな。うちの動きがほとんど出来なかった」
「しかし最後はいい流れでゴールを奪えたからな。この流れをシーズンでも大切にしようじゃないか」
「そうですね監督。まあとりあえず次は俺の出番もないし、体をほぐしに行きますよ」
「そうだな。肉体のケアも長いシーズンを戦うには必須。特に荒川、お前ぐらいの年齢になるとな」
水沢監督にねぎらわれつつ、ほぼ主力メンバーが揃った広島からゴールを奪った秀吉はピッチサイドにて体操をしたり軽く体を動かしたりしつつ次に行われる戦いを眺めた。2本目はお互いに控え中心のメンバーとなる。尾道のメンバーは以下の通り。
GK 23 松井正武
DF 32 小林翔
DF 22 朴康信
DF 3 橋本俊二
DF 24 西東良福
MF 17 亀井智広
MF 13 岡慎一郎
MF 19 茅野優真
FW 16 竹田大和
FW 27 芳松昇治
FW 18 野口拓斗
1本目からは亀井のみ続投となるが、それ以外のメンバー10人はチェンジとなっている。GKには松井。センターバックには朴と橋本。サイドバックは右に小林、左には西東が入る。中盤には前述の亀井に加えて岡と茅野が組む。そしてFWには中央に野口が入り、左右を竹田と芳松で固めている。ルーキーや2年目の選手も多く、フレッシュな顔ぶれとなっている。また、フォーメーションは前線の選手が多く、より攻撃的な布陣と言える。
「さあ、行こうぜ!」
「おう!」
ゲームキャプテンを務めている橋本の声に呼応してルーキーや2年目といった若手中心のメンバーはその年代特有のみなぎる緊張感でフィールドを覆った。この11人の中で尾道におけるキャリアが一番長いのは右サイドバックの小林だが、彼も去年は沖縄のクラブに期限付き移籍していたので新参者に近い部分も持っている。また、最年長は橋本の26歳で、十代の選手も多い。
そして若手中心なのは相手の広島も同じだった。前監督時代からよく指摘されていた部分ではあるが、広島のサッカーは特殊なスタイルなのでそれにうまく対応できる一部の選手は重用されるが、うまくフィットできない選手にはノーチャンスに近い扱いとなってしまう。例えばディフェンダーであってもパスを繋げられる足技が必要となるが、それに対応できず移籍して即座にレギュラーを掴んだ選手もいた。とにかく、広島の若手選手にとってレギュラーは他よりも高い壁となっているので、今こそアピールせねばと情熱に燃えている。
2本目のボールは尾道が得ていた。野口から竹田にパスしてゲームは開始された。竹田は岡に、岡から亀井へとパスを回した。レギュラー組ではまだまだ新参の亀井もここではチームの中心としてまとめていかねばならない。2年目となればもはやそれなりの義務も生じてくるものである。
「よし、じっくり攻めて行こう!」
亀井は積極的に様々な選手へとボールを散らした。まずはフィールド上でボールに触れることで不要な緊張をほぐすのが第一。それに今のメンバーは尾道の選手ではあるもののルーキーも多く「寄せ集め」に近い状態。ボールを回す事でルーツのバラバラな若者たちをひとつのチームに仕立て上げるのも練習試合の効用となる。
まずアグレッシブに攻撃を仕掛けたのは尾道の右サイドだった。その中心として躍動したのはルーキー竹田大和だった。とにかくスピードだけならすでにJ1でも通用するクラスの男である。右サイドバックの小林や中盤の岡がうまくスペースを作って、一気に突破させると単純なスピードの比較ではついて行ける選手はおらず、何度もサイドを突破した。しかしクロスの精度が低くてターゲットの野口までは繋がらない。こぼれ球は芳松が積極的にシュートを放つものの、ゴールから遠いので広島を脅かすまでには至らなかった。
「竹田のスピードはやはり驚異的ですね」
「後は正確さだな。クロスもそうだし、ドリブルだって大きいからスペースを消されるとどうか」
「まあそこはこれからの指導だな。技術は必要だが小さくまとまってはほしくない人材ですからね」
「まさにそこが問題ですよ。あいつの素質はルーキーの中でもピカイチだし、本当林GMもいい選手を見つけてきたもんですよ」
しかしこの個人のフィジカルに頼った大味な攻撃が通用したのも10分程度だった。案の定と言うべきか、広島のディフェンス陣は竹田の前のスペースを消すような動きに切り替えると、瞬く間に存在感を失った。素材としては首脳陣の誰もが認める一級品でもまだまだサッカー選手として未熟な竹田であった。
「どうするカメよ。右サイドはそろそろ相手に対策を練られたようだが」
「そうですね岡さん。ならば次の手を打つとしましょう」
竹田によるアタックが通じなくなったのはピッチ上の選手たちから見ても自明の事であった。特に今の尾道を統べる存在である中盤の亀井と岡にはよく見えていた。そこで彼らが次に仕掛けたのは、中央突破だった。
最前線の竹田と芳松と野口に加えて茅野もテクニックで言うとやや劣った部分も見られるが身体的なパワーは抜群である。また、レギュラー組の秀吉や新外国人のシュヴァルツもベテランなので経験知から抑制された動きは出来るが根本的にはテクニシャンタイプとは異なる。そういう意味では今シーズンの尾道は前線にワイルドな選手が、逆に言うと確実な計算が難しい選手ばかりが揃っていると言える。彼ら野生児軍団をいかに統率してチームの成績に結びつけるか、中盤は責任重大である。
ジリジリとした時間が長く続いた。広島の選手は未熟ながらもやはり広島のサッカーをこなしており、時折鋭いオフェンスで尾道ゴールを脅かしたが、尾道ディフェンス陣も粘りを見せた。ここで面白い動きを見せたのが新加入の朴であった。フィジカルに恵まれたこの男、自分の特性をよく理解した力強いディフェンスで尾道に一本芯を通す働きを見せた。
「よしナイスカット康信! 前線へ一気に回すんだ!」
「了解!」
ボールを奪えば左足のロングキックによって一瞬にして自分たちのペースに持って行くことが出来るのも朴の強みである。今もドリブルで突破を図る広島の選手を囲い込んでボールを奪った朴が前線へ蹴り込んだ。低く鋭いボールは左サイドに張った茅野を経て亀井、芳松と繋がった。芳松は強引な突破で相手をかわしながら斜めからゴールへ切り込むと、その勢いで右足から強烈な一撃を飛ばした。GKの反応速度を超越したシュートはまっすぐネットへ突き刺さった。
「っしゃあっ!!」
「おおっ! すげえシュートだ!」
「ナイスシュート芳松さん!」
打った本人からしても快心の出来だったのだろう、芳松は眉間にしわ寄せながら雄たけびを上げた。相手の森原監督からしても「やられた」と顔をしかめるだけでなく「敵ながらあっぱれ」と思わず凝固してしまうようなパワフルな一撃だった。秀吉に憧れる芳松だが、こと身体能力に関してはすでに師と仰ぐ男の全盛期をも凌駕している。控えのテントで体をほぐしている秀吉も内心で「恐ろしい選手が来たもんだ。こりゃ俺もうかうかしてはいられないぞ」と改めて気を入れ直した。
試合はこのまま尾道の流れが続いた。それまでの時間帯は抑えられていた竹田も広島のディフェンス陣が思わずラインを下げた事でスペースが生まれ、また躍動できるようになった。もちろん芳松のパワフルなプレーも全開で、これもタクトを握る亀井ら中盤の選手が巧みにゲームをコントロールした成果であった。
「いい流れですね。そろそろ次の得点が入るかもしれない流れですよ」
「そうだな。向こうはやはりスタメンと控えの間にやや差が生まれているようだ」
「あのサッカーですからね。仕方ない部分もあるでしょう。問題は3本目ですよ」
首脳陣の目はすでに次へと向けられていた。残り10分、試合展開は落ち着いてそれなりにチャンスを作ってシュートを打つなどの見せ場を作りつつも得点が動く事はなく終了の笛が鳴らされた。
「よし! よくやったぞみんな! リザーブメンバー中心とは言え、広島相手に五分以上の力を見せてくれたんだから」
「でもあっちは1本目でやった時と全然違いましたから。もう1点取れたでしょうね」
「だとしてもだ、亀井よ。年齢だって大して変わらん相手にああいう戦いが出来たというのがまず喜ばしい。チームをまとめられる司令塔がうちにはいたって事だからな」
広島は今シーズンを迎えるに当たってほとんど補強をしなかった。韓国人の学生や、すでにトップで出場経験のあるユース出身選手、それにレンタルバックの選手と言ったところで、例年にも増して地味な動向から成績に関して不安視する向きもある。確かに主力選手と比べるとリザーブのメンバーはやや落ちる部分はあると言えるだろう。技術が要求されるサッカーなので構造上「誰でも戦力」とはいかないのは仕方ない。
しかしそれはあくまでリザーブメンバーの話。主力選手は優勝を可能にする力を持っているし、実際今日の試合でも1本目は見事な攻撃で2点を奪っている。これが広島真のフォームであり、この主力メンバーといかに戦えるかこそ尾道にとって成果と言えるかどうかの見極めどころなのだ。
100文字コラム
ジブリ談義に花が咲く尾道。「断然紅の豚」と桂城が叫べば荒川は「ラピュタ。映画館で初めてみた映画だから」とベテラン全開。しかし谷本の「ナウシカのこれ見よがしな打ち込みサウンドが最高」説に賛同者は現れず…




