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征く道を示す、古代の魔道具


 この大型の金属板に綴られている古代魔導術式も同様であろうと予測を付ける。 専門的な知識は、隧道の保守点検に特化せねば成らない。そして、隧道自体はその専門職が『知識と知恵』を存分に振るえるように、支援する事が必須となる。 —— 道具としての立ち位置。 ——  私がこの隧道を『魔道具』として認識している事の根幹的考察とも云える。


 手を出さぬ事は停滞を意味する。ならば、呼び起こさねばならんのだ。 一応、探索隊の安全を鑑み、兵達をひとつ前の区画迄下がらせる。頑として私の命令に従わない護衛を遺し、皆は下がってくれた。



「頑固者なのだな、君は」


「何時何時までも、何処までも…… 私の誓約ですので」


「異変があらば、走るぞ」


「元より。 背はお任せを」


「……先に逃げよと云っても聞かないのか」


「それが、私の『使命』ですから」


「騎士爵家、三男の嫁としての矜持と取らせて貰う」


「有難く…… 誉れでも有ります」


「始める」


「御意に」



 見知った、金属板に手を乗せ、練った自身の魔力を流す。 かなりの量の魔力を吸い取られたが、それでも私の保有魔力は小動(こゆるぎ)もしない。 古代人の職務遂行者がどれ程の魔力を持っていたのかはわからない。 別の方法で起動していた可能性も有るが、今わたしに出来る事はこれだけなのだ。


 金属板は、私の内包魔力を吸い上げ、休眠状態を解いた。起動魔導術式が立ち上がり、複雑な古代魔法術式が刻まれた大半の金属板の表面に滑らかな漆黒の板が映し出される。 何かしらの魔導術式が走り、巨大な漆黒の板の上に、走査線が交錯した後、古代の文字が十数行流れる。 そして、中央に碧緑の文字と紋章が浮かび上がり…… 一気に図表、線表、グラフ、整頓された数字の羅列が浮かび上がって来た。


 我が佳き人は、目を丸くしてその情景を見詰めている。 そして、私は前世の記憶を呼び覚まされている。 そうなのだ、コレは…… 正しく制御盤と云えるのだ。 それもタッチパネル式の巨大な制御盤。 この特殊な区画の情報が一覧性を以って立ち上がっているのだ。 何の変哲も無く、砂を噛むような仕事であった前世の記憶。山奥の工場での日々の労働。末端の作業員であった私でも、使わざるを得なかった、産業機械の制御盤。 生産中に何らかのトラブルで停止した産業機械は、末端の作業員でも生産再開できるように、成らざるを得なかった。つまり…… 私はこの制御盤の役割を本質的に理解している事になる。


 一番の収穫があった。 三十六席との共同研究で、『古代の文字』を曲がりなりにも読み取る事が出来るようなっていた事がここにきて特に重要な鍵となった。 そうなのだ、記録があったのだ。 正確で枉げようも無い事実がそこに有ったのだ。 この区画が何故に機能を停止してしまったのかが判明した。詳細な記録。指でその記録が有る部分を追い、事実を見詰める作業が続いた。


 枝管が一本ずつ機能停止して行き、その救援(バックアップ)の為に本管側から支援したと有る。 記録(ログ)は、時系列に何が引き起こされたのかを語ってくれた。辛うじて機能している部分はどこか。枝管に何が起こったか。基本的対処に対する新たな命令が無い為に、リソースを喰い尽くした事が其処には記載されていた。時系列に並ぶそれには、この場所で何が在ったかを詳細に記述されていた。


 最後の記録。 それがどれくらい前の事なのは、さっぱりわからない。なにせ、時の測り方が我々の知るモノとは大きく違うからだが、其処に記載されていたのは、『機能休止(ディスアクティブ)』と『区画閉鎖(スクラム)』 の文字。


 ——— 制御盤は生きている。 ならば、使用する事も可能か。


 左側の二本の枝管の状況は、簡易図表により判明している。 平面図の様な配置図が其処にはあった。 枝管の稼働している部分や、崩落した部分の記載が有る。 全体が碧緑の線で描かれているのが、問題の部分は赤色系統での記載されていた。崩落や断裂部分はより赤く、土砂や砂礫の流入箇所は薄赤色に染まっていた。


 本管の機能を取り戻す為には、これらの枝管への支援を停止させねば成らない。 盤面に手を伸ばし、接続部が記載されている部分に指を付けた。現世では見ない反応。前世では見慣れた反応が其処に浮かび上がる。『ポップアップ』で表示されるのは、指示内容。


 『継続』、『停止』、『閉鎖』の三つの言葉。更に『閉鎖』に指を滑らせると『区画閉鎖指示』の表題の下に『枝管保全部の完全放棄』『枝管保全部の独立稼働』の二つの言葉。この先の事を考えれば、完全に放棄してしまえば、下段の排水に問題が生じる可能性が大いにある為、『枝管保全部の独立稼働』に指を滑らせる。 次に出てくるのは、予想できた。 そして、その予想は間違っていない。


『保守点検主任による承認と実行』 『実行しますか?』の文字列と、下段の『実行』の表示。


 迷いなく、『実行』表示に指を滑らせる。 『ポップアップ』がすべて消え、『変更確定(コンファーム)』の文字が浮かび上がる。しかし、何も起こらない。 周囲の音も変化はない。 何かが足りないのだろう。 良く盤面を視ると、何かの数字が躍っているのが見える。下に横棒のグラフも有る。 つまり、その足りない何かは、稼働する為の魔力と云う事かもしれない。 今はまだ、一割以下。だが徐々にその数字が大きな数となり、横棒のグラフバーは右側に、右側にへと緑色の領域を増やして行っている。


 ふむ…… そういう事か。


 ならばと、進行方向左側の大きな金属板へと足を向ける。 同様の事を実施する。 緑色のグラフバーの進みが倍加した。 枝管へ流れる魔力を遮断し、最下層から濃し取り汲み上げる『魔力』を貯めているモノと推察できた。



「前の区画まで下がる。 『魔力』が満ちれば、何が起こるか…… わからない」


「御意に。 指揮官殿の『勘』は良く当たりますから」


「そう云って貰えると嬉しい。 さぁ、行くぞ、我が佳き人よ。 退避!駆け足!」



 駆け足で探索隊の面々が揃い、気を揉んでいる場所へと到達する。 前区画との境目である隔壁扉。既に防御壁は撤去されてはいるが、何故だが安心感が其処には有った。 魔法灯火は追従式にしていた為、前方の区画は残置した「魔法灯(ランタン)」の頼りない光のみが、点々と小さな範囲を照らし出していた。碧緑の魔力で綴られた図表や文字が浮かび上がる、黒い盤面が遠くに認められるのだが、詳細は此処からでは見えない。


 やがて轟音と共に何かの魔法術式が発動する。 耳を劈く轟音は前方の区画の奥底から響き渡った。 残置していた魔法灯(ランタン)が激しく点滅する。轟音が響き渡るも、振動は無く精緻に段階を踏み、そして作動する巨大な魔道具が目を覚ましたのだと感じてしまった。


 前方の区画の中央部分から、自分達のいる隔壁と、前方の隔壁に向かって天井の魔法灯火が点灯し始める。 明るい昼白色の投光は、中央部から末端部へとその光を増加させていく。 壁面に残る土砂砂礫の残置物も全て除去されており、さらには、我等が土魔法保持者達が枝管側から隧道内に入り込んだ土砂砂礫を押し出した結合部分の隔壁扉が音を立てて閉じられて行ったのを視る事が出来たのだ。


 全ての天井に設置されている魔法灯火に()が入り、眩く輝くような区画が手に取る様に目の前に広がったのだ。



 私を ” 保守点検業務管理者と誤認し、隧道と云う魔道具が『私の命令』を実行した…… ” 



     としか、思えなかった。



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ときどきふと思うのです。 入力装置の劇的な進化ってなにかなーと。いまだに? マウスとキーボード以外に思いつかないのは、画面という出力デバイスから視覚確認入力という手順だからだと思うのですよね。 ブレイ…
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