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第二の難関は、魔導士たちの激論から。


 あとは、索敵だけだと、意気揚々と朋の研究室の前に到着し、来訪を告げようとノックの為に手を挙げた時、研究室の中から怒鳴る様な朋の声が聞こえた。 随分と激しい口論だった。 珍しい事もある物だ。 知的な朋と、学究に身を捧げる三十六席がこのように激しく言い争う理由が知りたくなり、行儀は悪いが扉の外で聴き耳を立てて彼等の言葉を聴いていた。



「こんな術式使い物にはならんぞッ! なんだ、この要求魔力量はッ!」


「ですが、一般術式に落とし込むとなれば、稼働に必要な魔力量はこれくらい絶対に必要なのです」


「探索隊の一般兵は、市井の者と同じほどしか体内魔力量を保持していないのだ。無理だ。たとえ蓄魔池(バッテリー)を介在したとしても、あまりにも稼働時間が短すぎる。 とても探索行では使用できない」


「では、禁呪の使用許可を。 古代魔導術式ならば、複雑な変換術式を用いずとも運用できますし、子爵級の魔力量があれば、長期間運用出来ましょう」


「貴様ッ! 禁呪だぞッ! おいそれと許可など出来んッ!」


「ならば、どうしろと? 現状可能な方策としては、従来の術式に重畳(ちょうじょう)するしか方策は無いのです。 作戦参謀殿が示唆し、推論を組み立てた通り、空間魔力そのモノを感知する術式は、確かにありました。 それを反転させれば、空間に漂う魔力を透過できる所までは、あの方の考察通り。 隧道に侵入する魔物魔獣を排除対象として固定する時に邪魔に成る空間魔力を選択的に透過する古代魔導術式がそれです。 しかし、古代魔導術式では容易に実現できる事も魔法術式に書き直すとこれ程の記述と成るのです。 術式一式を(メティア)に乗せる事など、無理に決まっていますよ。 よしんば、細密術式で書き込めたとしても、必要魔力量はこの通り。 古代魔導術式ならば、ほんの数節。 視界部分の術式に挟み込んめば、それで事足りる。 ……なぜ、そこまで古代魔導術式を危険視するのですかッ!」



 暫しの沈黙が流れている。 朋の表情は見る事が出来ないが、想像は出来る。 まぁ、なんだ。 朋は破天荒では有っても、危険を度外視する愚か者では無いのだ。 慎重を期すのは、民生品の魔道具作りには必須の心根でも有る。 不特定多数の無垢なる者達に危害が加わらない様にと考えるのだ…… 朋は。



「…………未知の大系。 更に言えば、失われた文明の遺産だ。 何故、この様な高度な術式を編む事が出来る文明が滅びたのか。 術式内部に…… その体系に、致命的な欠陥が有るかも知れぬのだ。 何かが引き金にとなり、致命的な崩壊を引き起こす可能性は捨てきれんのだ。もっと深く、古代魔導術式を知り、研鑽を積み、間違いないと判るまでは、秘匿して置くに越した事はない」


「どのくらい掛かるとお思いですか、第五席。 人の一生では無理ですよ、そんな事。 数代? 百年? いや、もっと? 待てますかね、あの御仁が」


「…………」


「奈辺に思いが有るのですか」


「……………………死んで、欲しくはない」


「その為の装備でしょうに」


「一つでも不安が有れば、アイツには使わせたくない。ただでさえ無茶ばかりする大馬鹿者だ。危険を孕んでいる魔道具など、渡せる筈もない」


「はぁ…… 『友誼に厚い』と云うか、『過保護』と云うか…… 第五席の外見でその言葉を吐かれますと、あの御仁の『最愛』が嫉妬に狂うのでは? まったく……」



 まてまて、どういう意味だ? 隣を見ると、我が佳き人も目を白黒させている。 何時までも、こうやっている訳には行かない。意を決し扉を叩く。 来訪を知らせたのだ。 とても聴いていたとは言えないな。 重厚とも云える声音で、入室の許可が下りる。



「入れ」



 憮然とした朋の声とも言えた。 扉を開き、二人して入室する。 喧々諤々と言い合っていた朋と三十六席の間にある作業机の上には、幾枚もの羊皮紙が投げ出され、周囲には魔力を以て紡ぎ出された魔法術式が浮かんでいる。



「なんだ」


「出来た」


「そうか……」


「稼働する事は間違いないが、効果の程は中層域に持ち込まねば確認できない。 それともう一つ、許可を受けたい」


「許可…… が必要なのか?」


「そうだ。禁術の使用許可だ。 使用した古代魔導術式を汎用術式に落とし込んだ物では、吸い上げる魔力の効率から、運用する事に困難を感じる。 ありていに言えば『汎用術式』では、稼働に魔力必要とさえする。その結果効率も悪く、巨大な魔道具を背負う事になってしまう。 故に、作戦行動の枷としかなり得ない。 コレは看過出来る瑕疵では無く、『探索』任務には使用できない。 古代魔導術式そのものを使わば、その弊害は無くなる。と云うより受動術式として使用可能だ。莫大な量の魔力を、発動用の魔力無しで貯められる上に、探索時に使う幾多の魔道具の原動力として使用可能となる。 必要不可欠であり、現状の問題を一気に解決する唯一の方策だ」


「…………」



 つい先ほど、第三十六席と口論となっていた事を、私が蒸し返した形となった。 『盗み聞き』してしまった事は悪いとは思うが、どちらかと云うと、三十六席の寄りの考え方をしているのだ。有用な手を使わぬ道理が無い。よしんば其処に危険が潜んで居ようとも、『魔の森』中層域 中域以遠を探索するのだ。


 常に危険とは背中合わせなのだ。 ならば、少しでも生還の可能性を上げる方策を採用するのは、指揮官としての使命でも有る。 強い視線で朋を見る。 視線を下に下げ、困ったと云う仕草をする朋。 心情は判らんでもないし、有難くも思う。だが、時は待ってくれない。 ……重ねて問う。



「どうだ?」


「……未知の魔法大系のあやふやな術式だぞ?」


「織り込み済みだ。 別術式として個別に動作するようにしている」


「たとえ破損したとしても……」


「そちらが停止するだけだ。緊急停止術式も噛ましてある」


「……そうか」



 飲み込め切れないのだろう。 かなりの葛藤が見受けられる。 対して三十六席の瞳は輝く。“我が意を得たり” とも言える様な、そんな表情を浮かべている。いや、本開発をしてくてうずうずしている…… 若しくは、既に組上げてそれを御披露目したいといった風情すら感じる。指針を与えられ、目的意識を持ち、豊かで深い知識と知恵を持ち、現物に組上げる事が出来るのならば、この男はやる。 絶対に遣る。 彼の為人は、朋が看破した通りなのだ。



「そちらが良ければ、此方にも御許可を戴けるのでしょうな。 既に仮組は終わっておりますし、使ってみて良ければ量産としたいモノですな」


「三十六席……」


「使用者が良しと云うのです。 その緊急停止術式なる物を見せて下さい。 こちらも、同様に術式に噛ませます。 それでよいでしょ、第五席」


「……う、うん。 一つだけ聞いておきたい。 貴様が切望するのは何だ」


「第一義は『使命』の達成。 が、私の中では探索隊全員の無事な帰還が第一義だ。 誰かの不幸によって立脚する安寧は、北辺の騎士爵家辺境支配領域に有っては常では有ったのは知って居るな。 私はそれを良しとはしない。 誰かの不幸は、その者に連なる不幸ともなる。多くを失わば、不幸は拡大するのだ。 幼き頃見た情景が忘れ慣れない。 我が本懐は、この地に生きる者達の安寧。 ひいては、この世界に生きる者達が笑って暮らせるように成る事だ。矮小なる私が望むには、壮大な野望と云えるだろう?」


「……昔から変わって居ないのだな。 分かった。 禁呪の使用を許可する。 命を無駄にする事が無き様、私は切に希望する」


「北部辺境伯閣下の御心のままに」



 こうして、私と探索行へ向かう者達に、改良型の魔道具の配備は決定した。 絶対に『魔の森』の外には出すなとの北部辺境伯閣下の厳命は、命令として北部国軍最高司令官閣下より再度厳命された。 それ程のモノなのだと、改めて認識する。 私の髪と眉が短く生え、やっとかっこが付く様になった。


 密命を果たす為に、「探索隊」は再編成され『魔の森』への道を辿る事となった。


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毛根生きてて一安心
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