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第一の難関を突破する


 朝食後の黒茶を喫していると、我が佳き人が柔らかく、言葉を紡ぐ。 私達の関係性も一歩前に進み、心の自身の思いだけでは無く、相手の思いも感じられる様にも成って来たのだと思う。 善き事なのだ。   そんな彼女と私の間に有る、感応とも云うべき事柄。 その思いからの言葉だと信じる。



「指揮官殿が、楽しそうに見えます。 善き考えでも浮かんだのですか?」


「あぁ、一つは。 それに付随して幾つか。 君と未来を歩む為に、必要なモノが脳裏に浮かんだよ。 夢で見たのだ。 夢でな。 ある意味『天啓』とも云える。今後私達が遂行する『探索行』に於いて、基本となる物を掴んだと思う。皆が展開し探索し収集し帰還する道筋が見えたと思う。期待して居て欲しい」


「指揮官殿がそう言葉にされるのならば、真実と成るのでしょう。 集中し時間を忘れ没頭し……  でも、御身体にだけは、御自愛して頂きたく思います。 貴方は…… 私達の…… いえ、私の『明けの明星』なのですから」


「『月の女神(きみ)』が…… そう言うのならば、私は自身にも気を配る事にするよ。 君を悲しませるのは本意では無いのだからね。 さて、魔法馬鹿達の執務室に行くとしよう。構想を語り、それが実現可能かを諮らねばならない。君も、君が思う『成すべき』を成して欲しい。 私はこの『砦』から出る事は無い。 個人護衛の必要は無いと思う」


「『砦』の生活面はお任せください。 もし、必要とあれば装備試験にお呼出し下されば、何時でも参じます」


「有難う。 探索隊でも一番の射手の君からの言葉、嬉しく思う。 運用試験などで手間をかけると思う」


「勿体なく。 では…… 貴方…… 行ってらっしゃいませ」


「あぁ、行ってくる」



 貴族の夫婦の在り方としては甚だ逸脱していると云えるだろうが、此れが私達の在り方なのだと心に刻む。貴族でも無く、市井の民でも無い階級上(ぬえ)の様な私だ。 従騎士爵など、そんなモノだ。 だから、私は私らしく、心の赴くまま『妻』を愛そう。 食堂を出て、朋の執務室に足取りも軽く向かう。 朝日が窓から差し込む明るい廊下を行く私は、きっと不敵な笑みを浮かべていた事だろう。



 ―――― ☆ ――――



 ――― 必要なモノは、古代魔導術式の内の一節。 



 朋の執務室於いて、朋を前にして説明を行う。 濾し取れない空間魔力は、魔動線を用い別の場所に流せばよいのではないかと。 その先に古代魔導術式の蓄魔術式をかまし蓄魔池(バッテリー)に落とし込む。 落とし込むのは、改良を加えた侯爵級の空の蓄魔池(バッテリー)


 アレならば、相当なる魔力を保持できる筈。 蓄魔池(バッテリー)が一杯に成れば、付けかえればよいだけの事。 更に言えば、構想の中にある、索敵魔道具の改良に必要な魔力をそこから引く事も出来る。


 索敵魔道具の改良に必要となる条件は、空間魔力を透過する事。 従来通り、魔物魔獣の臓器に溜まる魔力を見る魔法術式はそのままに、空間魔力が透過できれば、『魔の森』中層域の強大な魔物魔獣の発見は容易い。 紅く染まった視界の中でも、中型以上の魔物魔獣は紅く輝く輝点となって、索敵魔道具に反応するのだ。


 その考えの切っ掛けとなったのは、隧道内の魔物魔獣が居ない事。 輜重長が説明では、隧道内では保守点検員以外の者には、排除機構が働くと。 隧道に入りこむのは、人だけではない。 いや、魔物魔獣の方がずっと多い筈なのだ。 だから、どうやって、それら侵入者を感知しているのかが鍵だと思ったのだ。 感知できるのならば、保守点検員が除外される事を考えれば、それを無視する方法もそこから導き出されるでは無いかと考えた。


 空間魔力は、濃度的に隧道内は相当高いと云える。 単位容積当たりの含有量は、我等が暮らす場所とは比較に成らぬ程だ。 事実、森の中の拠点で簡易的に作り上げた『充魔器(リチャージャー)』は、中層域に於いてのみ稼働(・・)を確認できた。


 そう、空間魔力を取り込み蓄魔池(バッテリー)に魔力を貯め込めたのだ。私はそれを汎用術式に落とし込み『空間魔力固定術式』と命名しても居た。 朋に見せた後は、即時『禁呪』指定されてしまったがな。 あの術式は、古代魔導術式を、魔法術式に落とし込んだ物。 動作を模倣して落とし込んだだけの代物でもある。 つまり、古代魔導術式を用いて、『充魔器(リチャージャー)』を作成しても、同じように中層域でしか稼働しないと思わる。 つまりは、それだけの空間魔力が必要なのだと云う事。


 反対に考えれば、濃密な空間魔力に適応した術式が、古代魔導術式であると云えるのだ。


 必要なのは魔力の感知術式と、その反転。 感知したモノを無視する術式が有るのではないかと考えた。 発見できれば、あの森に広がる空間魔力に限定出来れば、赤い視界に苦しめられる事は無くなるのではないかと考えた。 先ずは既に理解している古代魔法術式からの応用。 下着の改良から始めたいと、そう朋に伝えた。



「下着の改変方法だと? どこから、そんな発想が生まれるのか。 貴様の考え方や発想は魔術師のそれとは方向性や根本が違うのか。 ……成程、それは有用かも知れん。やってみる価値はありそうだ。 貴様、既に腹案は持っているのだろ?」


「あぁ、何となくだが形は見えている。 予備の下着を使わせて貰えれば、今日中に如何にか出来そうだ」


「ならば、やれ。 三十六席は、朋が持ち帰った古代魔導術式から、魔力感知の部分を抜き出せるかどうか、魔法術式に落とし込めるかを見極めろ。 落とし込めなくても、分離独立して稼働する古代魔導術式ならば、朋に知らせてやれ。 朋ならば、魔導術式、魔法術式が混成でも、稼働する様に編めるかもしれん」



 黙ったまま、頷く三十六席。朋は一つの収納箱(チェスト)から、予備の『下着』を私に渡してくれた。 少々、小さいのは此れを着用する人物が小さい為だろう。 少なくとも私には着用出来ない。 朋が自身の為に造ったのか? 良く判らんが、私は有難くそれを受け取り、私の研究室に戻る。


 朋の方はと云うと、私が語った未知の魔導術式が本当に存在するのか、三十六席と共に古代魔導術式の解析をしてくれるそうだ。 いや、三十六席が無茶しない様に監視するのか?朋自身も暴走の可能性もあるのだ、それは無いだろう。ならば、二人の魔法馬鹿に任せたら、どちらも暴走するからか。相互監視を以て暴走する事が無いようにする為なのか? ……いやはや、王宮魔導院の魔術師とは、凄まじき者達の事を指すのだなと、そう思う。


 既に頭の中では形になっていた。 それを忠実に現実に落とし込むだけの作業。 


 下着の受動術式の間に魔動線を縫い付け這わせつつ、その両端を一か所に集める。 腰の部分に末端を集めて、一枚の羊皮紙の上に置く。 相当の量の魔力が流れ込む事を想定して『空間魔力固定術式』を汎用術式では無く、古代魔導術式で編み綴り、羊皮紙の上に固定する。魔力の受け入れ側に魔動線の束を結合し、出力側に別の魔動線を固定する。


 後は、薄い羊皮紙を上にかぶせ、全周囲を縫い付ける。 魔動線には被覆を被せている為、腰に沿う様な腰袋(ウエストポーチ)状の物に仕上がった。 さらに、術式が他からの干渉を受けぬ様に、改変した魔力遮断塗料アンチマジックペイントを塗り込むと、魔力的に密閉されたモノと成る。


 出力側の魔力線の端末には、接続部を設け蓄魔池(バッテリー)につなげられる様にした。


 後は、容量の大きな蓄魔池(バッテリー)に繋ぐだけとなる。 そちらの方は、大きな魔力を要求する魔道具に使用する為、既に色々と試行錯誤しており、小型大容量の物はある。 まだ、侯爵級には届かないが、外形寸法が子爵級と同じで上級伯級の魔力を貯められる物は完成している。 試しにそれを繋いでみる。 まぁ、『砦』では、稼働する事も無いが、これで一旦こちらの方は終わりだ。


 細かい作業だったが、そうは時間を取らずに出来た。術式自体は朋に見せる為に別の羊皮紙に定着させた。 報告義務は有るのだ。 自儘にするわけにはいかない。 なにせ禁呪なのだ。 だが、成すべきは成した。


 改良型の下着は、魔導術式と魔法術式が並列して存在する、特殊な魔法具となったが、基本的には交わることは無い。 魔力が介在してはいるが、術式に交差する部分は無い。よって何らかの不都合で動作しなくとも、基本的には変わりない。 試験運用も視野に入れ、幾つか作成を朋に打診しようと思う。


 出来上がった試作品を携え、朋の執務室に向かおうと私の研究室を出ると、我が佳き人が其処に居た。



「出来上がったんですね」


「ああ、出来た。 試作品だが、これから朋に検証して貰いに行く。 いわゆる『禁呪』を使用しているから、朋の使用許可も貰わねばならない。 また、試作品だから正確に設計値が出るかも不明なんだ。 試験運用を経てから探索隊の皆に配りたい」


「それは、よかった。 丸三日も研究室から出て来られないので、とても心配しました。 お食事等は、運びこんでは居りましたが、とても集中されておられたので、黙して置きました。食べていらしたのは、(トレイ)を下げる時に分かっておりましたが、それでも気を揉んでおりました」


「済まない。 一旦集中すると…… な」


「理解しております。ずっとそうでしたから。 もし、試験運用をされるのならば、私が成しましょうか」


「……そうだな。 私や君を含め各隊の長に願おうと思っていた」


「左様ですか。 分かりました。 その時を御待ちします」


「頼む。 では、朋の所に行く。 一緒に来てくれ」


「御意に」



 ホッとしたような我が佳き人の顔。かなり心配をかけた様だった。 いかんいかん。 これでは以前と変わらないでは無いか。我が佳き人に甘えすぎるのも、良くない事だ。 心しよう。心配させた償いとばかりに一緒に(・・・)試作品を携え歩を進め、朋の研究室へと向かった。


 心なしか、浮き立つような気分がするのは、隣に我が佳き人が居るからか。



 ――― これで、ようやく『魔の森』中層域 中域以遠への安全な『探索行』の目途が付いたのだ。






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