閑話 〜未来への布石〜
どうも、お久しぶりです。
取り合えず、申し訳ございません……
まぁ、ハイ。とりあえず。どうぞ、お楽しみを!!
(ここに来るのも、あん時以来か……)
男が立つのは、魔国の中心にそびえ立つ城のとある一室の前。
呼ばれた理由は恐らくあれだ。明日から始まる任務についてのことだろう。魔法研究室の室長に呼ばれたハイドは、今ではそこそこに思い入れのある教え子のことを思い出しながら、扉を3度叩く。
「どうぞ」
扉を開けると、部屋の中には大きな本を目でなぞる男が1人。
「ハイドですか……待っていましたよ」
ネロはそ呟くと、読んでいた本をパタンと閉じると、元の場所へそっと戻し、ハイドをソファへ誘導するように手で仰ぎながら、自席へと歩いていく。
「こっちに呼び出すなんて珍しいな」
「そうですね……普段であれば、魔研でも良かったんですが……」
「訳ありか?」
「まぁ、そんなところです」
実はこの部屋、ネロによる特殊な工作により、外部への情報が漏れにくく設計されている、言わば完全防音室のような物となっている。
ここでの会話、魔力の痕跡等々……。この部屋の外に行き着く頃には、ありとあらゆる情報にジャミングが加わり、全く別の情報、または無かったものとして伝わる、といった仕組みだ。
「で、要件は?」
「そうですね……まず、私が気にしているのはあの二人のことです」
「って言うと、ソフィアとティルのことか?」
「いえティル君ではなく……。どちらかと言うとディヴィアですね」
(となると……)
「そう、お察しの通り」
「歌姫について……か」
「そうです」
「なるほどな……。だが一体、何が……」
(これは……)
ハイドがそう、心に感じた疑問を投げかけようとしたその瞬間、部屋の明かりはそのままなものの、ほんの少しだけ、緊張感のある何かが肌に突き抜けて行く。
「……最近、多くなってきたと思いませんか?創星会と月の神教の動きが。以前までは、3年に1度大きな事件を起こす位だったものの、それが今年に入ってもう2度も。それも魔国の中だけでの話です」
「確かにそうだな」
「私の頭の中では今回。どう考えても彼らが動かないとは思えません。色々こちらでも手を回していますが……。それでも、どうしても心配が勝ります」
(………………)
「今回の依頼、いつも以上に気を引き締めて望んでください」
「ああ」
「そうそう。それとこちらを」
ネロはそう言うと、書類の山から封筒を取りだし、ハイドに向け机の上を滑らせる。
「これは?」
「何も起きないに越したことはありませんが……。もしも何かがあった時、誰かの力が必要だと感じた時。それを開けてください。私からの特別司令みたいなものです。ですので、それまでは絶対に、決して。開けることの無いようお願いします」
「あ、ああ……」
そんな言葉と共に添えられる、真剣な眼差し。この人とは相当長い付き合いだが、ここまで真剣な眼差しは滅多に見たことがない。それこそ、誰かが危険に晒さられるような時だけだ。
そんなネロの眼差しに、ハイドは若干の緊張を感じながら封筒に手をかける。
「一つだけ聞いとくが、そのもしもが起きなければ?」
「その時は、念を入れて燃やしてください」
「…………なるほど」
色々聞いてみたいことは山々である。しかし、この目の前に晒される妙な笑顔。恐らく何を聞いても答えは帰ってこないのだろう。
ハイドは今までの経験から、口元まででかかった全ての言葉を飲み込み、静かに手紙を懐へとしまい、了解の意図をネロに伝える。
「では、気をつけて」
「ああ」
ハイドはそう何気ない返事を返すと、そっと立ち上がり、明日まで何をするか。任務中起きそうなこと、弟子にどんな稽古をつけようか、などなど……。
今後の色んな予定を立てながら、入ってきた扉へと向かっていると、ドア直前でネロから声がかかる。
「あ、そうそう」
「ん?」
「最後に一つだけ。今度はティル君についてです」
「と言うと?」
今度は先程までとは違い、緊張の走る空気感はなく、その急激な空気の違いに戸惑いながら聞き返す。
「あなたの魔法、ティル君にしっかりと見せてあげてみては?」
「俺の魔法……」
「そうです。あなたの魔法。あなたがいつもやっている、何気ない事です」
ネロの放ったそんな一言。ハイドはネロの真意を確かめるため、人差し指の先に青白い光の玉を作り出し、その魔法の玉をジッと見つめ黙り込む。
「なるほどな……」
ネロの伝えたかったこと。それを理解したハイドは、玉を右手で握り潰し、光の粒子として空気中へと還元させる。
「所謂『型』ってやつです」
「意外と、ちゃんと見てんだな。あいつのこと」
「えぇ勿論。大切な部下なのでね」
「『大切』か。そうか……俺はてっきり」
「ん?なんです?」
「いや何でもない。じゃ、俺はこれで」
「ええ……」
ハイドは部屋を退出すると、扉をゆっくり閉め、街へと向かい姿を消していく。
・・・
「どうか、無事で……」
一体、いつぶりだろうか……。
時が経つほどに遠くなる足音。それと呼応するようにざわつき始める胸。いつかを予感させるような……彼女を失ったあの日に近い何か。
ネロは何かを祈るよう、左右の指を交互に重ね合わせ、両肘を机の上に。出来上がった手の台座に額を乗せ、ゆっくり、静かに目を瞑る。
いつになく働き続ける脳。しかしそれは、決して良しとされるようなものではなく、浮かび続けるのはどれもこれも不安なものばかり。
例えばそれは、彼の組織らの活動が活発になり、安全とされる地域が減っていく可能性。
ありとあらゆるライフラインが、意味をなさなくなる可能性。
街という概念すらも無くなるであろう可能性。
世界中が混乱に陥る可能性、世界中が貧困に塗れる可能性。
血と叫びの飛び交う日々が当たり前となる可能性。
世界中の至る所が戦乱に巻き込まれる可能性、己を守るためになりふり構うことの出来なくなった人々が暴徒と化す可能性未来ある命がいとも簡単に失われてしまう可能性自分が殺される可能性残された彼女との唯一の思い出のここを失う可能性そして————
唯一残された家族と呼べる存在が————
パシンッ————
(…………考えてばかりいても、仕方がありませんね)
ネロは、クラクラねり動く脳へと抗うよう両の手を思いっきり合わせ、ジンジンとする手の痛み、響いた音による鼓膜のキンとする耳鳴りにだけ感覚を集中させる。
(はぁ……ダメですね、こんなんでは。まだまだやるべき事はあります。まずは、イヴですが、彼女は……)
「…………仕方がありません。あそこにでも任せてみるとしましょう」
ネロはそう嘆くと、おもむろに机から便箋を取り出し、筆を進めていく。
「とりあえず、これでいいでしょう。それと……あぁ、あれも……」
その後しばらくの間、考えうるありとあらゆる不測の事態へと策を講じ、一つ一つ準備を進め始める。
ああでもない、こうでもないを繰り返しながら。たった一人、ネロを残したこの室内に、刻々と針の音が刻まれていく。
・・・
「とりあえずはこんなところですかね。後は…………」
最後に残されたのは自分の事。
恐らく、既に現在進行形で歩んでいるであろう1本の道筋。
それに抗うには今どうすべきか。
何をするのが最善なのかを考えながら、じっと天井を見つめる。
「アリス……あなたなら……」
頭によぎるのは、かつて煌めいていたあの日々。触れるもの、見るもの全てが新鮮で、時が過ぎることさえも忘れていたあの日々。
思い浮かぶのは、そんな温かい思い出の中で一際輝きを放つ。憧れ慕い、憂い望んだ、たった1人の面影。
やること全てがハチャメチャで、誰も止めることの出来なかった。着いてゆくのがやっとだった。
それでもって、全てが完璧だった彼女。
「ふふ……年甲斐もないですが……」
その時、ネロは決心する。
「これが、大人の役目って奴なんでしょうね……」
今、自分に出来ること。自分にしか出来ない事は何か————
「なら一つ、やってやりますか」
ネロはそう言うと、目指すべき場所へと焦点を定め、目の前に差し迫った白い線を1歩、大きく、力強く跨ぐのであった。
閑話 「未来への布石」 ~完~
いやぁ、大変申し訳ないです。
本職があまりにも忙しすぎて……。
頭の中では構想、シチュエーションを考えるばかりで、どうしても執筆する時間がなく……。
すみませんの一言に尽きます……。
まぁはい。完成まではやめるつもりはないので、そこは心配しないでください。
ちなみに、今後の動向としましては、今連載?中のこの話を下書きとして進めていく。
その後、加筆修正版として新しく別枠で進めてくつもりです。
→いろいろ構想を練った結果、一章があまりにも今のつくりと変わってしまうため。
取り合えず、今週からぼちぼち書き始めていきますので、どうぞよろしく、今後とも応援よろしくお願いします!!
ではまた、次のお話でお会いしましょう!!




