憧れの魔法少女3
<フィランソロピア>のカリキュラムは多岐に渡る。
そのほとんどが圧倒的な自由度を誇る反面、絶対に守らなければならない決まりがある。
今のわたしたち新人組にも、これからおよそ一月の間に済ませなければならないいくつかの項目があるらしい。
それが。
「基礎教養の授業選択に、所属する学課の選択やな。他にもあるにはあるけど、みんなが必ずやらなアカンのはこの二つや」
「一般の中学校に通ったこともあるヒカリさんは、昼間の授業と放課後の部活動をイメージして頂ければ問題ないですわ! まあ、わたくしたちは部活動がなんなのかは知りませんけれど」
「えっ? あっ、そっか、そういうこともあるのかぁ……」
ほんの少しだけ私立中学校にいたことがあるわたしは部活動がどういうものかを知っているけれど、目の前の二人は違うのだ。
幼い頃から魔法少女の世界で生きてきた差異が、小さな違和感としてわたしに襲いかかっていた。
「ほんでまあ、管理課は正直取り付く島もない感じだったわけやけども……」
後から知ったことだけれど、学園に存在する六つの学課の内、管理課ともう一つの学課には一定以上の成績がないと、入室という意味ですら入ることができないらしい。
普通の学校で言うなら、先生に用があっても職員室に入れない、みたいな感じだ。
ならばどこで情報を集めろというのかと言えば、情報を扱う魔法少女を探して尋ねてみろとのことだった。
ここ<フィランソロピア>がどういう仕組みで機能しているのか、その片鱗を垣間見た気がする。
これにカチンときたミヤナちゃんが「もうええわ。自分で探したる!」とその場を後にし、そこにわたしたちが追い付いて、今に至るというわけだ。
そして。
「実はウチらもそこまで<フィランソロピア>に詳しいわけやないんで、まずはいくつか授業に参加してみようと思うんよ」
「この機会に、わたくしたちの世界を広げていくのですわ!」
「行動範囲な。んで、並行して情報収集や」
学園内では情報屋ポジションを確立したいらしいミヤナちゃんの発案で、聞き込みをしながら授業に参加して回っていった。
どの授業も見学メインだったけれど、見ているだけでも面白くて、飽きないものばかりだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、お昼過ぎとなる。
「光属性の魔法少女については、やっぱりヒカリはんの話しか聞こえてこんなぁ」
「いかにも「情報に長けていますわ!」という感じの方々でも知り得ないところを見るに、これはもしかすると……」
「……いない、ってことなのかなぁ?」
三年前の英雄たる光の魔法少女を誰も知らない事件、再びである。
そんなわけあるか? と思ったミヤナちゃんがしつこく問い詰めても結果は変わらず、雲行きの怪しさが増してきたところだ。
「いや、まだ決めつけるのは早いで。悪い情報ばっかりやなくて、いい情報も手に入っとるんやし」
「英雄のお一人、ナミ先輩ですわね!」
その反面、学園特務課に所属しているという一人の情報については問題なく手に入った。
どうやら学園では相当な有名人らしく、こちらについて話を聞けば誰でも同じようなレベルで答えてくれたのだ。
しかし。
「知名度が高く能力も高いあまり、多忙で居場所が定まらんと」
「<フィランソロピア>のメインヒーラーを務めるお方ならば、仕方ありませんわね」
「授業でも怪我する人が多かったし、これが任務ともなればさらに大変なんだろうなぁ……」
魔法少女は人間とは比べ物にならないほど自己再生能力が高いものの、そこにもまた個人差がある。
そんな差を埋めてくれるのがヒーラー、いわば回復役の存在だ。
支援課のメインヒーラーを凌駕し、本来ならヒーラーたちを纏めていたであろうはずの地位を蹴ってまで、特務課として、一人のヒーラーとして活動している彼女の所在は掴みにくい。
「とりあえず、わたしたちが探せるところは片っ端から探そうよ!」
「せやな」
「それもまた手ですわね」
支援課の塔、訓練場、総合医務室、出撃場、etc.……。
思いつくところから巡ってみることに。
◇
そして、二時間後。
「見つかりませんわー!」
レディーナちゃんが大の字で伸びていた。
「でも、結構ニアミスが多かったよね?」
「惜しいところやと、つい五分ほど前まで居たっちゅうのもあったなぁ」
学園中を探し回った結果、対象であるナミ先輩の行動範囲もまた学園中であることが分かったのだった。
なんともストイックな先輩だ。
バリキャリとかそういう感じなのだろうか。
「次はどこに行ってみようか」
「難しいところやなぁ……流石に特務課の塔なんては入れるわけないやろし」
レディーナちゃんが勢いよく上半身だけ起こした。
「それですわ!」
「おう、入れるわけないっていま言うたで?」
「それはどうして?」
「どうしてって言われても……そういうもんやから、としか言えんなぁ」
「ふーん?」
わたしは少し考え込む。
あちこち動き回ってみた感じでは、この学園では管理課と特務課の力がとても大きいように思えた。
まあ、成績優秀者しか入れなくらいなのだから、一般校でいうエリート揃いの生徒会メンバー的立ち位置なのだろう。
<フィランソロピア>が魔法少女による自治学園ということを考えると、もはや教師側というか、運営側に近いまであるかもしれない。
そりゃあ、魔法少女たちが委縮してしまうわけだ。
「でも、まあ……」
どうせこのまま行き詰るくらいならば、行くだけ行ってみるべきではないだろうか。
わたしはそういう思考の持ち主だった。
「……よし。特務課の塔に行こう!」
「え? このポンコツだけやなくて、ヒカリはんまでそっち側なん?」
「だ、誰がポンコツですって!?」
目を丸くするミヤナちゃんに、わたしは笑って見せた。
「あはは、だってわたし、今日までぜんぜんこの場所のこと知らなかったし、特務課の塔が近寄りがたい場所だとかなんだとか、そんなのぜんぜん分からないからね!」
「いや、今さっきウチが説明して……は、いなかったかもしれんけども……はぁ、もうええわ。どうせこのままよりはマシやし、付き合ったる。しかしまあ、ヒカリはんは魔法少女には珍しい純粋無垢なタイプやと思ってたのに、ホント現実っておもろいなぁ」
「そうと決まれば、善は急げですわよ! 皆さま、遅れないでくださいましー!」
思い通りにいかない状況に思うところがあったのだろう。
あっという間に駆け出したレディーナちゃんを追いかけるわたしの隣で、ミヤナちゃんは楽しそうに笑っていた。
◇
そうしてたどり着いた特務課の塔……の、敷地外にある正門前。
「うあぁ、ここにも入れなーい!」
「まあ、そりゃあそうやろ」
学園管理課とならぶ厳重な警備を見て、わたしは悔しいまま鉄格子を掴んだ。




