憧れの魔法少女2
「ここはな、誰もがなりたい魔法少女になれる場所なんよ」
ミヤナちゃんがいきなり語り始めた。
上を魔法少女たちが飛んでいく、ながーい渡り廊下の真ん中に差し掛かったタイミングだった。
「もちろんそのための努力は必須やけれど、がんばれば必ず報われる。ウチらみたいな新参が自分を高めるにはもってこいっちゅう訳や」
やや縦長の瞳孔がこちらに向けられる。
そういえば、わたしたちは一応、出会って間もない三人なのだった。
クラスでのオリエンテーション以外で、こうして親睦を深められる機会はあまりなかったかもしれない。
いや、結構込み入った話もしたような気がしないでもないけど……まあ、わたしからの一方通行気味だったのは否めない。
「同じクラスだからといって他でも一緒に過ごすものと決まっているわけやないけど、同期の仲がいいことに越したことはないやろ?」ということなのだろう、これは。
うん。
「<フィランソロピア>が掲げる校風は「博愛」。その愛は学園に所属する全ての魔法少女に平等に注がれているのですわ!」
そこに、レディーナちゃんも混ざり始めた。
「だからこそ、学園は魔法少女たちの活動に一切の援助を惜しみませんの! これって、とーっても夢のあることだとは思いませんこと!?」
ミヤナちゃんと並んでこちらを見つめるレディーナちゃん。
聞けば二人とも、クラス2になってから知り合った仲だという。
ヒカリが放課後に一人寂しく頑張っていたほんの数日の間に、すっかり息の合う仲良しっぷりだ。
ちょっとだけうらやましい。
「なりたい自分に、なれる場所、かぁ……」
賑やかな学園内を歩きながら、わたしはふと中庭に目を向けた。
そこには数人の魔法少女たちが何やら実験のようなことをしたり、別の場所では模擬戦をしていたり、視線を少し上げれば飛行訓練をしているのだろう、レースのように速度を競い合っている姿があった。
彼女たちもまた、なりたい自分になるために努力してる真っただ中なのだ。
まだ入学したばかりのわたしたちもその例外ではないというので、確かにここは成り上がりにはもってこいの場所である。
例えば一言に「強くなりたい」という望みでも叶う可能性があるということなのだから。
努力次第でそれは必ず報われると言うし、学園からの援助もあるのなら、本当に至れり尽くせりだ。
「ちなみにウチは探偵になるのが夢なんよ」
唐突なカミングアウトだ。
「た、探偵!? 魔法少女の探偵さんってこと!?」
「せや。そのためにも、日頃から情報収集は欠かさんし、あちこちに顔を売る作業も怠っとらんのよ」
「それ……とってもいいね!」
「やろ? まあ、<フィランソロピア>はめっちゃ広いさかい、今んところ進捗はぼちぼちやけどな」
ミヤナちゃんは頭で腕を組みながら、軽快に笑っていた。
そこに悲壮感は一切なく、むしろ楽しいことをやれて満足といった様子だった。
「わたくしは魔法少女が大好きですから、将来は魔法少女博士になりますわ!」
「魔法少女博士! どんな魔法少女でもお任せあれ♪ っていうアレだ!」
こちらもまた驚きだ。
驚き……だけれど、レディーナちゃんらしいなとも思った。
「アレ……? が何だかは知りませんけれど、だいたい合ってますわ! まずはこの学園にいるすべての魔法少女を覚えなければなりませんけれど、わたくしは諦めませんわー!」
「おぉー!」
パチパチと手を叩く。
そういえば、魔法少女は夢に向かって突き進むものだ、と養成学校で誰かが言っていた。
夢があるから魔法少女は強くなれるのだ、とも言っていたかもしれない。
ならば、明確な夢があるこの二人は、きっと素敵な魔法少女になるのだろう。
その瞬間が、今から楽しみだった。
「そういうヒカリはんはどうなん? わざわざここに転入してくるくらいやし、熱心な探し人も居るようやから、何か目指してるモノもあるんやろ?」
「うえっ!? えーっと、まあ、そうなんだけど……」
話している内に食堂についたので、三人で早めのお昼ご飯だ。
みんなで仲良くごちそうプレートを運んで席についたわたしは、ミヤナちゃんの言葉にぎくりとする。
「そう言えば、詳しくお聞きするのは初めてでしたわね! 良ければどうかお話しなさってくださいまし!」
「おん、レディーナはそろそろ声を抑えような? 他にも人、おるんやで?」
「そうでしたわ! 皆さま、ごめんあそばせ!」
やけにテンションの高いお嬢さまと、お世話係な関西娘の絵がそこにはあった。
その様子を見て、なんとなくだけれど、この二人になら話してみてもいいかもしれないと思えた。
「実はわたし、前に大災害に巻き込まれたことがあったんだけど……」
ぽつぽつと話し始めたわたしに、二人も耳を傾ける。
◇
三年前、関東を中心とする大災害が発生した。
魔物の特殊個体にして人類の敵たる、災厄種の誕生がきっかけだった。
後に「災厄種・悪魔」と名づけられたその魔物は、関東圏はおろか日本全国に広く闇を解き放った。
ばら撒かれた闇からは次々と魔物が誕生し、日本各地で魔法少女の戦いは行われた。
貴重な魔法少女戦力が各地に分散された結果、本来なら災厄種相手には最低三つの学園が総力を挙げて挑むところを、<フィランソロピア>一つだけで倒さなければならない事態が発生する。
しかし、<フィランソロピア>には秘密兵器があった。
当時クラス3だった、史上二人目の光属性の魔法少女の存在だ。
まだ成長途中ながらもすさまじい潜在能力を秘めた彼女は激闘の末、遂に災厄種の脅威を跳ねのけ、日本に平和を取り戻すこととなった。
その戦いを、ヒカリは至近距離から見ていた。
災厄種が気まぐれに襲い掛かったヒカリの前に、例の光属性の魔法少女が立ちはだかり、そこから一歩たりとも引かずに戦い続けたのだ。
傷つきながらも戦い続けるその姿にヒカリの脳は見事に焼かれ、後に魔法少女に覚醒。
僅か半年足らずでクラス2の域に到達し、彼女に続き三人目となる光属性の魔法少女となったのだった。
◇
「わたしはあの魔法少女に憧れているんだ。あの人のようになりたくて、誰よりも努力して頑張り続けた。そのおかげで今は……」
「<フィランソロピア>に来ることができたのですわね!」
「いやぁ、まさに運命的な出会いだったっちゅうわけやな。なるほどなるほど」
「そう、なのかな? えへへ」
養成学校時代に「子供っぽい」と馬鹿にされたこともあり、こうして憧れを口にするのは久しぶりである。
それをミヤナちゃんとレディーナちゃんは馬鹿にするどころか、感動的な話のように聞いてくれた。
それだけでわたしは嬉しかった。
「その想いは今も変わらないよ。だから……」
今ならもう少しだけ、勇気を出して言える気がする。
憧れに焼かれた一人の女の子が、魔法少女を目指す理由なんて、これしかないに決まっている……!
「……うん。だから、わたしはあの人のようになりたい! あの人のように、どんな逆境でも笑顔で人々を守り続ける、カッコいい魔法少女になりたい!」
これが、わたしの夢。
わたしの本当の気持ちだ。
ずっと胸の内に秘めていた思いを解放するのは簡単なことではなかったけれど、思い切って踏み出してみればずいぶんとあっけない。
「よう言うた! それでこそ<フィランソロピア>生や!」
「わたくしも応援していますわ! 一緒に夢を叶えますわよ!」
ミヤナちゃんとレディーナちゃんがガバッと立ち上がる。
そこにわたしも向き合って。
「三人で、ねっ?」
「おう!」
「ええ!」
なんともなしに拳を突き合わせた。
<フィランソロピア>に来た目的はまだ見つからないけれど、わたしにとってはこれが憧れに近づくための大きな一歩なのだ!
「よっしゃ! ならその魔法少女、ウチが絶対に見つけたる!」
「これも高貴なる者の務めですわ! わたくしにお任せくださいまし!」
「うんうん、期待してる! お願いします、名探偵! そして魔法少女博士!」
寄り道はこれでおしまい、学園管理課はすぐそこだ。
◇
「も、門前払いは聞いていませんわよ!?」
そして、いきなり壁にぶち当たるのだった。




