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大師匠は大嘘つき 〜剣なんて握ったことの無い俺がでまかせで妹に剣術を指導したら、最強の剣聖が出来てしまいました〜【毎日21時更新】  作者: ロナルド愛


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第19話 敗北を知りたい妹 〜死神〜 その5

「おのれ!」


 柄を押さえつけられたアイシアは、どうしても剣を抜くことが出来ない。そんな情けない状況に苛立ち今度は無理矢理に後方に飛び跳ねると一気に腰の短剣を引き抜いた。


 相手はまだ年端も行かぬ少年なのは分かっている。しかし面と向かってあそこまで無礼な物言いをされてはアイシアとて後に引くわけにはいかなかった。


 改めて彼女は、右手の短剣を前方に突き出し半身の体勢をとる。


 さっきは、剣を抜いて脅すだけのつもりが少年の手品のような動きで思わず不覚をとった。


 だが今度は違う。


 しかし、その時。短剣の先に、そっとレイラの手が添えられた。


「やめておけ。今は周りの注意を浴びすぎている」


「しかし……」


 納得のいかない表情でアイシアがレイラを見つめる。


「この少年は、明日からの大会に出場すると言っている。お前の気が収まらないと言うのなら、勝負はそこでつけろ」


 諭すような言葉に、アイシアの短剣を握る力がストンと抜けた。


 それは一触即発。と言うよりはむしろ『少年を甘く見たアイシアが上手いようにあしらわれた』といった形だった。


 だが、そのことはアイシア自身が誰よりも一番良く分かっている。だからこそ彼女は歯を食いしばり、屈辱に耐えた。


 次に武器を交えた時はそうはさせない――


 アイシアはその誓いの意味も込めて、少年にその名を尋ねる。


「私はの名はアイシア=グラン。私も明日からの大会には出場を予定している。君の名前を教えて欲しい」


 むしろそれは決闘の申込みにも似ていた。


 だがそれを受け取る少年にさほどの緊張感は無い。


「俺の名は、エデン。エデン=カスピ」


 なんの屈託もなく、あっけらかんとした表情で答える少年は、さっきの一瞬の出来事がまるで無かったかのように言葉を続ける。


「ヘヘッ。コレが明日の俺の獲物。次に立ち合う時も楽しみにしててよ」


 そう言って少年は、先程アイシアに突き立てた木の棒でコンコンと下の石畳を叩いた。


「私の武器はスピア。槍だ」


 アイシアは、慌ててそう言い返した。





 少年がその場から去った後。アイシアは少しの後悔を残していた。


 少年に最後に言った言葉。アイシアは少年だけが獲物を明かすのは不公平だと、そう思って言ったつもりだ。だがもしかしてその言葉は少年にとって負け惜しみに聞こえたかも知れない。


 今は手にしていないが、自分の得意は槍である。今さっき引っ張り出した短剣などでは決してない。それが槍ならば不覚は取らなかったと……。そう思われたのではなかろうか。


 王城前の広場では、血も見ない喧嘩など皆すぐに忘れて、辺りには再び祭りの賑やかさが戻ってきている。


「多分あの少年は、私が剣聖と知っててあの様な態度を取っていた。気にするな」


 レイラは落ち込むアイシアを庇う様にそう言った。レイラとて本来なら自分を侮辱した少年に対し、真っ先に自分が声を上げるべきでだったのは分かっている。しかしレイラにはどうしてもその声を出すことが出来なかったのだ。



 突然、アイシアがレイラの前に跪き、深々と頭を下げた。


「申し訳ありません。あの子供の無礼を許した上に、みっともないところまでお見せしまして……」


 確かにそれは誇り高き騎士団にとって大きな失態であったろう。しかし、誇りだとか名誉だとかそんな事をレイラは一度たりとも気にしたことはない。


 ただ気になるのは、先ほどの少年が口にした死神と言う言葉。


「アイシア。お前は知っていたのだな。私が、帝国では死神と呼ばれている事実を――」


 その言葉にアイシアは言葉を詰まらせた。何故ならアイシアにとってそれは出来ればレイラに知ってほしく無かった事実だったからである。


「……。はい。知っていおりました。けれど……わざわざお耳に入れるほどのことでも無いかと判断いたしておりました。申し訳御座いません」


「いや、それは全くに構わないんだ。考えれば当然のことだよ。私は少し考え違いをしていたのだろう。いや、もしかしたらあえて考え無いようにしていたのかも知れないな――」


「そんな……。そんな事を仰らないで下さい団長。帝国の兵士達が我が王国民にどれだけ酷い行いをしたかはご存知でしょう。それを団長が救ってくれたのです」


「なるほど……。君達にとってはそうだったな」


「君達にとって?」


 アイシアは思わずその言葉を繰り返した。それ以外に戦う理由など、いったい何があるというのだろうか……。


 遠くを見つめる様なレイラの眼差しは、既にアイシアを見てはいない。いや、彼女だけでは無い。思い起こせばレイラはずっとたった一人の人間だけを見つめ続けていたのだ。


「はっきりと言ってしまえば――あの時の私にとっては王国だとか民だとか、そのような事はどうでも良かったのだよ。あの時の私はただ……。自分よりも強い人間を探していただけに過ぎない。何故ならこの世界で私を負かすことが出来るのは、私の兄カイル=バレンティンたった一人だけだから――」

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