第110話 エピローグ
というわけで、全てに片がつき、この物語もようやく大団円を迎えることになった。
まぁ、この期に及んで「武術大会の決勝戦が……」などと言う者はいないだろう。なんせ、このコロシアムに突然あの恐ろしい邪神が現れたのだ。当然、俺たちを除いて人っ子一人残ってはいまい。
全員が事の重大さを理解して、我先にと逃げ出してしまったのだ。もちろん王や貴族たちは真っ先に逃げ出したことだろう。一方で、兵隊や騎士たちは市民を避難させることに全力を尽くしたはずだ。
まさかエイドリアンが、市民を逃がすために自らあんな恥ずかしい大芝居を打って切羽詰まった事態を説明していた?……などと一瞬思ったりもしたが――
「ないない。あるはずがない」
だって――
俺がふと辺りを見渡して、「あんなに立派だった闘技場……俺たちの戦いでボロボロになっちゃったな……」なんて、思わず感傷的なことを言った時だ。
エイドリアンはどう言ったと思う?
「何言ってるんですか。本当なら王都全部がこうなるはずだったんですよ。闘技場一つで済んだだけでも良くやったほうですよ。それもまぁ、私の封印魔法のおかげなわけですが……」
だってよ。
まったく、面の皮が厚いというか、ぶれないというか……。
もちろんこの瞬間、エイドリアンを除いて、この場に居合わせた全員が「間違って封印を解いたお前が言うな!」と総ツッコミを入れたことは言うまでもない。
そして、やっぱりと言うべきか、この残念メイドの保護者が登場した。
「ちょっと……エイリン……黙ってて!」
顔を真っ赤にしたショーン少年が、慌ててエイドリアンの袖を引っ張った。そりゃご主人様だって、使用人がこんな調子じゃ耐えられないよな。
結局、主人によって無理やりエイリンが頭を下げさせられ、ショーン少年は「本当に、うちのエイドリアンがご迷惑をおかけしました」と平謝り。エイドリアンにも何度も頭を下げさせて――いやはや、心中お察しします。
まぁ、そんなこんなで勝手に丸く収まりつつある俺たちの一致した意見はと言うと……
「さてと、逃げるとしますか……」
である。
こんな場所でいつまでも油を売っていたら、騎士や軍隊が戻ってきて事情なんかを聞かれたり……多分する。
自ら超ヤバい邪神を解き放ち、それを自分たちで再び封印するというマッチポンプをやってのけた俺たちは、いつの間にか――いや、まさにこの瞬間から――運命共同体のごとく行動を共にしなければならなくなったのである。
だって、この状況で王様に「よくぞ邪神を封印してくれた。褒美を取らそう……」なんて言ってもらえると思う?
正直さ、どう小さく見積もってもこれ『国家転覆罪』免れんでしょ。
さて、俺たちのその後だが、スリルとサスペンスの王都脱出劇……とはならなかった。皆逃げたり隠れたりしてしまったのだから、そりゃそうだ。
人っ子一人いない大通りを、俺たちは何の気兼ねもなく城門へ向かって歩いていく。もちろん今のところ当てなどない。ただ、この場所から立ち去れれば良いだけの話だ。
「ねぇ、じつは彼女に、あの技を使わせちゃったわ――」
ちょうど俺たちが開きっぱなしの城門をくぐり出たあたりで、エイドリアンがそんな話を振ってきた。目の前には、いつの間にか俺たちと行動を共にすることになったレイラがいる。
エイドリアンは、俺がレイラに全ての気を与えて倒れていた時の出来事を教えてくれようとしていた。
「あの技?」
突然話を振られても、俺にはどの技のことか見当がつかない。“あの技”と言ったってたくさんある。
エイドリアンがキョトンとした俺の表情を見て、少し笑った。
「ええ。あの技……。だって私って魔法には詳しくても、気を使った技なんてあれしか知らないんだもの。ほら、世界的な人気のあの漫画の主人公。スーパー宇宙人が使うあの技よ……」
そう言われて、俺ははたと気がついた。
くそっ、その手があったか!
思わず心の中で叫ぶ。だってあの技だぜ? 元いた世界ではいくら真剣に念じようとも決して叶うことのなかった――世の全ての男子の憧れの技。
出来ることなら自分が撃ってみたかった――。
だがそれでも、その憧れを自分の妹が叶えてくれたというのなら、これほど嬉しいことはない。
「ちゃんと教えたのか?」
俺は真顔でエイドリアンに問いただす。単行本のどの巻の何ページ目とまでは言わないが――男としてそこはこだわりたい場面だった。
「ええ。教えたわ」
エイドリアンは得意げに答えた。
「で、言えたのか? あの言葉は……」
「もちろん言えたわよ。あの娘って、本当に素直な娘ね。あんな変な言葉を一切疑うことなく、一言一句違わずに言ってのけたわ……」
いや、一言一句といったって、たった五文字じゃん――と心の中で突っ込みを入れたけど
でもそれは……俺にとってまさに感無量の言葉だった。
この時の俺は、多分……涙で目が潤んでいたに違いない。ふと振り返った王都の城壁に沈む夕日が、やけに眩しかった。
「そうか……あいつは言えたのか。見たかったな……俺もこの目で……」
気がつけば、夕日に照らさた城壁の影が俺たちの足元を包んでいた。レイラは前を歩きながら、時折こちらを振り返っては嬉しそうに微笑んでいる。そんな姿を見ていると、胸の奥がじんわりと熱くなる。
その横で、エイドリアンがふっと笑った。
どこか満足げで、どこか意地悪そうな、あのいつもの笑い方だ。
「何をしんみりしているの。どうせそのうち見れるじゃない。だって、これからはあの娘の側にいてあげるんでしょ?」
その言葉は、まるで俺の背中を軽く押すように響いた。
レイラの後ろ姿が夕日に縁取られて輝いて見える。
――あぁ、そうか。これからは、あいつの隣に立ってやればいいんだ。
エイドリアンの言葉に、俺は自然と笑みがこぼれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
例えばさぁ……か◯はめ波を打つ練習ってしたことある?
そんなの誰だってやったことあるじゃんね。そう、寝てる時とか、ベッドの上で照明のスイッチに向かってさ。お腹に気のエネルギーをいっぱいに貯めて、両手を前に突き出して「ハァーッ」って……。
まぁ、結局は何が起こるわけでもなくて、その時に現実のつまらなさってやつを実感しちゃうわけなんだけど。みんなもさ、ベッドに寝転びながら試したことあるでしょ? だから当然知ってるよね。現実ってやつをさ。
でさぁ……話は元に戻っちゃうんだけど……あれって本当はどうやって修行するんだっけ? 亀の甲羅を背負って毎日牛乳配達をするんだっけ?
あぁ……やっぱ、もっとしっかり覚えておけば良かったなぁ~。
「だってさぁ、ここだけの話。あれって本気で修行すれば絶対に出来るようになるよ。この異世界って場所ではね。」
............END
完結までに長い間空白の期間を置きましたが、それでも最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。
拙い文章に、色々と突っ込みたくなる部分もあったでしょう。適当に散らかした伏線や、ブレブレの設定など、たくさんの反省点を残す作品となってしまいましたが、それでも付き合っていただけた方々には感謝しかありません。
今後、このメンバーの行く先にどのようなドラマが待っているの? カイルとエデンの出会いは? カイルは東国でどんな修行をしてきたの? レイラは兄と別れてからどうやって剣聖になったの?
書きたくてもかけなかった話はたくさんありますが、とりあえこの物語はこれで完結とさせていただきます。最後までお付き合いありがとうございました。
いったん終わりは致しますが、続編の構想もあります。多くの需要があれば書いてみたい気持ちもありますが、今のところはここまで。
もし、お気に入り登録や☆評価などをいただければ幸いです。
重ねて、どうもありがとう御座いました。そしてお疲れ様でした。




