90話 見覚えのある依頼
この依頼は……というより、この募集は既視感がある。
一流を証明する金級の称号。正直人の名前の、しかもこの世界の筆記体なんて読めやしないが、前に見たことがある証の裏に刻まれてた名前にそっくりだ。
間違えない。これはグララウス傭兵団の団員募集!
って、いやいや、あんな化け物集団にアルネアお嬢様を近付けてたまるか!
「あら、この傭兵向けのやつ、よく見たら期限切れね。8日前」
「ちょっと管理がいい加減ですわね」
一週間以上前だが、数日前まであの集団がここにいたのか。
アリア……とまだ一緒に居るかは分からないけど、アリアがいるなら無事だって伝えてやりたいな。
……まあ、この姿で近付いても、グララウス達に斬られるだけか。もし、アリアに会うなら、アルネアお嬢様は必須だな。従魔なら攻撃されないはずだ。多分。
アリアは問答無用で魔法撃ってきそうなんだよなぁ……。
双子のアレクがいれば、話通じそうなんだけど、都合よく一緒にいたりしないかな。
ん?一週間ぐらい前?じゃあもしかして、この近くの光は、アリアか?いや、まさかな。そんな一々俺に関係のある人間が、光なはずないよな?ないといいな?
「あ、これにしましょう!」
「プロニムフィ(幼虫)の左脚を五本。それにムスカ(蝿)の口器が三つ」
「……あまり、行きたくないですわね」
「まあ、贅沢も言ってられないしね」
ムスカって、何?……大佐?
「そうだ!戦闘も採取もモノリに任せましょう!」
いや、お嬢様モンスターテイマーなんだから、採取はさておき、戦闘は俺に任せてくれないと困る。
「今回ばかりは、ウィウィに全部任せてしまいたいですわ」
ルンフォードは戦えよ。お前前衛だろ!いや、触手の薙ぎ払いとかに巻き込まれても面倒だし、アルネアお嬢様にモンスターが向かわないように、打ち漏らしを倒してもらった方が安全か?
下手に前衛にルンフォードを置くより、中衛に置いて壁役と回復役の間を自由に動き回ってもらった方が良いかも。
クエストを受注し南下。
なんだか光に近付いてる。具体的な距離は分からないが、俺の無駄に広い感知範囲内にはいない。光、あやふや過ぎる……!
「南にしては鬱蒼とした森ね……というか、暑い」
「暑いですわね……」
この気候この植生。俺らの世界で言うところのジャングル。熱帯雨林だな。
なんで!?冷静に「熱帯雨林だな」じゃねーんだよ。もうヤダ異世界。なんで街から少し南下しただけで、気候や植生が変わるんだよ。まあ、エルフの森の近くには、鮮やかな真っ青の森とか、色んな気候帯の植物が混ざったヤバい森とか、色々あったしジャングルぐらい今更か。
「何、あれ。極彩色のカエル?」
「あっちには凄い色の植物が気持ち悪いぐらい群生というか、あれは植物系モンスターかしら?蠢いていますわ」
異世界のジャングル気持ち悪過ぎる。吐きそう(口とかないけど)。色がガチャガチャしてる上に、葉の陰りは極彩色に影を落とし、不気味に森全体が蠢動している。
まるで、森全体がひとつのモンスターのようだ。大型モンスターの腹の中に居るような気分にさせられる。
更にこのジャングルを不気味にさせているのは、モンスターだ。至る所にモンスターがハイドしている。殆ど全てのモンスターが擬態や隠密もちなのが分かる。このタイプのモンスターは、注視しないと見づらいので、俺ほどの感知能力があれば逆にわかり易い。
問題があるとすれば俺に問題がある。俺は声で忠告できない。俺がハイドしてるモンスターに気付いてても、お嬢様達の反応が遅れたらまずい。
あくまで俺のイメージの話だが、ジャングルのモンスターは毒を持ってそうなイメージがかなり有る。先制をもらうのは最悪だろう。
解毒魔法とかあれば、全然気にしないんだが、俺にあるのは外道魔法ぐらいだ。
俺の脳ミソの情報処理能力では、360度見えていても、注視しないと気付けないモンスターに常に注意を払いながら、常に先手を取るのは無理だ。
あるかは知らんけど《マルチタスク》や《並列処理》みたいなスキルがあれば欲しい。索敵と攻撃を分けたい。欲を言えば、索敵と物理攻撃と魔法と移動と防御を、それぞれ別の意識に分けて担当できたら嬉しい。
物理攻撃と移動は、どちらも触手なので、四つの意識でそれぞれ行動でもいいかも。とにかく、モンスターの過剰な能力は、元人間の手には余る。
「プロニムフィの左脚って、なんの幼虫の左脚なのかしら?」
「それなら、聞いて来ました。トロール・プロニムフィと呼ばれる超大型の幼虫ですね。どうやってその巨体を維持してるのか不明で、左脚だけ異様に発達しているそうですわ」
ヤベェ。全く想像つかねぇ。どんな化け物なの?大丈夫?不気味過ぎて登場した瞬間全身モザイクとかにならない?
「ムスカの口器は私にも分かるわ。ジャガー・ムスカ。体表に黒い斑点を持つ、中型の蝿のモンスターで、一定時間なら水中でも活動できる。ジャガーのような鋭い牙と蝿の口を同時に持っていて、ウミガメを甲羅ごと噛み砕いて殺した後に、体液を啜って食べるらしいわ。この説明だけでも、ゾッとするわね」
怖い怖い怖い。えっなにそれ?戦わなきゃダメなの?ヤダよ俺。
想像し難い異界の化け物の外見をした幼虫より、ウミガメを甲羅ごと噛み砕いて啜るハエのが、脅威が理解しやすくて余計に怖いわ!特に啜っての辺りが最高に気持ち悪い。
モンスターの情報を二人と一体が共有(俺は聞いてるだけ)していると、聞き覚えのある嫌な羽音が聴こえて来る。ハハハ、最高のタイミングだな。いや、別にエンカウントしなくても全然良かったんだけど。もう少し心の準備時間が欲しかった。
「モノリ!防いで!」
慌てて二人をガードする。
そして、すぐ向こうからそれはやってきた。
大きすぎる体のせいか、空中をゆらゆらと飛んでいる。しかし、その速度は目を見張るほど速い。ジャガーのような黄色に黒斑点をランダムに並べ、気持ち悪さを倍増させた最悪の見た目の蝿は、これまた大きすぎる複眼に、無数の俺達を映し出していた。
縦に開いた口にびっしりと細かい歯が生えていて、その中に四本肉食獣特有の鋭く大きい犬歯がある。そして、その奥にはハエの、ものを削り啜る口がついていた。
ただでさえ気味の悪い巨大蝿は、自分が知っている蝿よりも、多い脚が生理的な嫌悪感に拍車をかけていた。
「キシィ!キシィ!」という、鳴き声とも呼吸音ともつかない不気味な音が、おぞましい口から零れている。そんなはずは無いのに、その化け物の口は厭らしく口角をあげたように見えた。
蝿らしい仕草なのか、一番上の脚二本を擦り合わせる動きは、獲物を前に舌なめずりをしているような気さえする。
今までの気持ち悪いモンスターより、更に輪をかけて気持ち悪い。こいつはすげぇ。視界にいるだけで不愉快だ。流石蝿。羽音も見た目も癪に障る。
「うぅ……気持ち悪い」
「ごめんねウィウィ。任せちゃっていい?」
まあ、これに近付きたくない。こいつを斬って体液とかかかったら、もうその服二度と着れない自信ある。俺もこいつを叩いた触手は、どっかに切り離して棄ててしまおう。
「モノリ!あいつの口と脚に気を付けて!口は見ての通りだけど、脚の毛には、毒があるわ!」
毒……か。俺毒持ってるけど、毒持ちのモンスターに、毒って効くのか?用心はしておくか。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:ラークスフォッグ(霧の湖)
Lv21/70
HP113/615
MP219/532
状態:中毒・強化・不安定
常時発動:《共通言語理解》《隠形Lv.5》《触手Lv.10》《触手棘》《上位感知Lv.4》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.9》《植物成長速度Lv.9》《植物鑑定》《水汲みLv.10》《血液吸収》《猛毒Lv.2》《噴霧Lv.4》《情報開示Lv.5》《指し示す光》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.10》《斬撃耐性Lv.8》《打撃耐性Lv.7》《刺突耐性Lv.8》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.7》《土耐性Lv.5》《雷耐性Lv.2》《氷耐性Lv.8》《邪法耐性Lv.7》《不快耐性Lv.1》
魔法:《土魔法Lv.4》《水魔法Lv.4》《氷魔法Lv.4》《魔導の心得Lv.3》《魔力の奔流Lv.3》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家 急成長 近親種殺し 魔法使い 看破せしもの 上位種殺し(氷) 奪われしもの 凶性植物 狼の天敵 上位モンスター 魔王の誓約 エルフの盟友 殺戮者 看破の達人 導かれしもの 光を集めるもの 斧の精霊(?) 罠師 害鳥駆除 鳥類の天敵 虐殺者
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