82話 再会
多少苦戦したが、ルンフォードは何とか鹿を倒した。三体目の頃には、相手の速さや体格・体勢にも慣れ、危なげなく倒していた。
もう、十分だと思ったので、残りの鹿はサクッと触手で握り潰す。試しに全力で力を入れたら、鹿の内臓があっちこっちに飛び散って、凄い嫌な顔をされた。いやね、斧でぶった切った切り口も大概よ?
「ウィウィ……それは流石に良くないです」
なんじゃらほい?と思ったが、敵とはいえ敬意無く不意打ちで殺すのは如何なものかというお説教だった。俺は隠密系の生態を持つ植物系モンスターなので、ほぼ全否定である。まあ、植物系モンスターとしての生き方に誇りとかないし、どうでもいいんだけどね。意識は人間だからなぁ……。
正面から戦う、戦いに重きを置いた獣人らしい考えだと思う。戦いに誉があると彼女の父親は言った。不意打ちは「弱き」がする事なのだろう。人間や獣人同士の戦いなら、正々堂々に誉も有りそうなもんだが、対モンスターにおいても誉高き戦いをしなきゃならんのだろうか。
侍や騎士みたいな考えだ。正々堂々に拘るあまり敗北しそうである。対モンスター戦は、負ければ物理的に喰われる。ボロボロに引きちぎられゴミのような死を迎えるだろう。その死に様に誉があるとは思わないが……。
まあ、それはあくまで俺の考えであって、かくあれかしと育てられたルンフォードには受け入れられないだろう。ルンフォードはここまで連れてきてくれた恩人だ。ルンフォードがいなければ、村や町での情報収集は困難を極めただろう。モンスターだからな俺。なので、彼女の考えはできる限り尊重したい。
命の危険が無い限り、不意打ちはやめておこう。
ルンフォードと行ったこの辺りの村々では、有益な情報が沢山得られた。
魔が領域を我が手中にせんと、人間達が人を送り込んだ開拓村。
そう言えば聞こえは少しマシかもしれない。
しかし、道中の他の村も何ヶ所か寄ったが、実態は人間の醜悪さと欲望を詰め込んだ坩堝が、この多くの開拓村だ。
近い距離に村や小さな町が幾つかあるが、全て管理者が違う。
これはこの国が、モンスターや他国の侵攻により領地を失ったが故に起きた、事故のようなものである。
聞こえてきた話を総合すると、おおよそこんな感じだろう。
国に他国やモンスター達に仕返すような力は無い。しかし、領地を失った貴族や新興貴族には、与える領地が必要だ。王の力はそれほど強くないのだろう。無理に爵位を剥奪することもできず、森を領地として与えた。
領地が欲しくば己で切り開けという苦肉の策だ。いや、策は崩壊してると言ってもいい。
遠くない未来この国は崩壊し、他国とモンスターに呑み込まれるだろうな。
まあ、小さな村々で村人や村長・商人なんかの話を、俺の感知能力で盗み聞きしたのだから、概ねあってるだろう。
つまりだ。この村や町のどれかにアルネアお嬢様がいる可能性が高い。正しくはアルネアお嬢様の両親だな。
もし、アルネアお嬢様を別の領地にやってても、アルネアお嬢様に最も近い情報を手に入れられるはずだ。
辺境は基本的に危険な為、王都なんかに一人娘を避難させてるかもしれない。
まあ、一番可能性が高いのは、両親と一緒にいる可能性だな。進退窮まる試験で投げ売りの卵を買った貧乏貴族のお嬢様の家に、少しでも余裕があるようには思えない。
後、可能性として高いのは、アルネアお嬢様は貧乏貴族令嬢なので、お嬢様を力ある貴族の妾にでもする予定だった場合だ。
ノブレス・オブリージュと言えど、力のあるオッサン貴族であれば、アルネアお嬢様が直接戦う必要は無い。このモンスターがいる世界で、娘を生かしたいなら、最善の選択肢と言えるだろう。まあ、アルネアお嬢様は「死んでもごめんだわ!」って、言いそうだけど。
色々考えたが、光が近いのだ。きっとお嬢様だろう。そうに違いない。光はアルネアお嬢様だ。
光の距離的に後二つぐらい向こうの村だろう。
さぁ、ルンフォード早く行こう。
ルンフォードをかなり急かして、ようやく光に辿り着いた。
感覚で分かる。俺がアルネアお嬢様の従魔だからだろう。アルネアお嬢様が近くに居る。
俺は感覚で分かるが、アルネアお嬢様は俺に気付くだろうか?
見た目は目玉の触手系モンスターから随分と変わってしまった。今では花のモンスターだ。植物系モンスターという以外、最初と共通点は無い。これで気付けと言うのはほぼ不可能だろう。
だが、望みはある。お嬢様が従魔契約を切ってないと分かった現時点では、高い確率でお嬢様も俺の存在に気付いているはずだ。魔力的な繋がり、それが従魔契約だ。
魔力の糸を辿れば、近くに居ればハッキリ分かるだろう。距離があると何となくしか分からなかったが、俺も今はハッキリ分かる。
長かった。
モンスターであったせいで、ここまで随分と遠回りをする羽目になった。口もきけないし、地理も分からない。自分がアルネアお嬢様の元へ向かってるのかすら分からなかったのだ。アルネアお嬢様が生きてる間に再会できただけで上出来だろう。
アルネアお嬢様がこっちに向かっている。
アルネアお嬢様が感知範囲に入ったのだ。村に着いてからアルネアお嬢様が感知範囲に入ったのはすぐだった。
やっぱり気付いたんだ……!
ルンフォードには後で説明しよう。斧から出る時間も惜しんで、ルンフォードごと引っ張って行く。
「ウィウィ!?どこに行きますの!?」
来た!
「モノリ!モノリ居るんでしょ!」
俺は慌てて斧から飛び出す。
「……あぁ。貴方がそうなのね。よく、良く生きてたわ」
最初は驚いていたアルネアお嬢様だが、俺の変化を魔力的な繋がりを確認して受け入れられたみたいだ。
それはこっちのセリフだよ。よくあの状況から生き残ってくれた。本当に、本当に良かった。
「随分と変わったのね。相変わらず凄い触手の量ね。また増えたの?」
あぁ、アルネアお嬢様。無理に話さなくていいんだよ。これからはいくらでも聞いてあげれるよ。俺が人間ならアルネアお嬢様を抱きしめて慰めていただろう。こんな身体では、どうしていいか分からない。
遠慮がちに触手で、肩を軽く叩く。
「アハハ、懐かしいわね。最初にあなたと話した時も、触手で返事してくれたのを思い出すわ……」
キュプロクスから逃げた時の話だっけ……。そんなこともあったなぁ……。
「あ、あー、あのーウィウィとお知り合いなんですか?」
「へぇ。今はウィウィって呼ばれてるのね。この子はモノリ。私の従魔よ」
ごめんルンフォード。感極まってちょっと存在を忘れてた。
「えっ!?でも、でもウィウィは……!」
ダマシタ ワルイ オモウ
騙してすまない。でも、モンスターである俺が人を探すには、人にくっついてるしか無かったんだ。ごめんよルンフォード。
「そ、そうですか」
「あなたには悪いと思うのだけれど、この子を返してもらってもいいかしら?」
「あの!でしたら、一緒に、私と一緒に来てくれませんか!何か事情がおありなのは分かりましたわ!でも、納得はいってませんの!」
ルンフォードの立場からすれば、知らないやつが急に来て、自分のペットの本当の主人だと言う奴が現れた。みたいな感覚だろう。当然、納得の行く話では無いだろうな。
アルネアお嬢様が行くというなら行くし、行かないと言うなら行かない。従魔だからな。まあでも。
「いいわ。着いて行きます。でも、その前に両親に一言断らせてね」
「えっ!?良いんですの!」
「ここにいても、知らないオジサンと結婚されられるだけだしね」
やっぱりな。
やっと、アルネアお嬢様再開させることが出来ました!
この後は、光を集め、世界の秘密を探りに行く予定です。読んでくださった方、ここまでお付き合いありがとうございました。
まだ、話は続けていくので、完結設定はいじりません。