36話 認識の甘さ
フルトイとヒューリアさんとアリアと、従魔のミムリ&俺で街を歩いてるんだが、凄い注目されるな。
危険な棘と毒をもつ俺と、狼のモンスターが歩いてるんだから当然ちゃ当然なんだけどさ。
この世界、人権とか人命とかへの意識が非常に希薄だから、誘拐とか窃盗は日常で、殺人とかも割とよく起こるから、あんまし目立ちたく無いんだけど。
こっちは、女性に貴族の息女二人とかいう、誘拐犯誘引オンパレードなんだよ。勘弁してくれよ。(狂信者からの襲撃とか、アリア誘拐の実体験がある、俺のこの説得力ぅ!)
まあ、誘拐云々は置いといて、本当に目立つの何とかならんかな?擬態完全に解けてるの肌で分かるから、居心地悪いというか、不安というかね。森で擬態してる事が前提のモンスターだから、本能的に嫌なのかもしれん。
「ガウゥーワウ!」
出会ってからずっと、いぶし銀のミムリさんが吠えかけて?話しかけて来るんだけど、全然分かんない。困ったなぁ……。
「グルル……バウワウ!」
だから、分からんて。誰かバウワウリンガル持ってこいよ。本当にマジで。
「一通り目星い魔導書は見ましたけど、良いの有りませんでしたね」
「レルレゲントも、魔法覚えたのか分からなかったしねー」
なんだよアリア。俺が悪いのか?俺が悪いんかおぉ?悪かったよ。なんだか知らんけどな!
理不尽なクレーマーには、取り敢えず謝っとくのが一番。大丈夫大丈夫!機械的に処理してればそのうち終わるから!嫌な処世術だなオイ。
でも、アリアちゃんあれよ?商人の技術を学ぶなら、クレームに来た客の気分良くさせて、別の商品買って帰らせるぐらいの心意気はいると思うよ。
さて、今考えるべき問題はそこじゃない。俺の目的はアルネアお嬢様との合流だ。お嬢様のご学友なら、領地の場所を知っている可能性もあるだろう。
問題は、アルネアお嬢様に友達が居らず、しかも男爵位だということ。最悪領地がない場合すらある。
この世界の規模や、他の国との情勢や地理を一切知らない為、領地持ちの貴族で無いと、探すのはあまりにも困難。もし、領地の無い貴族であるなら、この世界の何処を探していいか分からない。
そして、最大の問題は、俺からその話題を引き出す事は不可能という事だな。聞く口もスキルも無い。
現状詰んでる。
やはり進化しか道は無いか。
分かりきってることとはいえ、今のレベルからMAXまでが遠すぎて、フルトイと一緒にいる間に聞き出すのは、あまりに現実的じゃない。
だが、僅かな可能性でも逃すのは惜しいな。
連れ去るか?俺モンスターだし、アリアにテイムされてる訳じゃないしな。
…………いやいや、力で解決しようなんて、モンスターに染まりつつあるな。それに、冷静に考えて、俺の強さじゃ逃げ切れる可能性は低いしやめとこ。
とにかく!この都市にフルトイが居るということは、近くにフルトイ家の領地があると思っていいだろう。
地図か……。アルネアお嬢様を探すには、地図が必要。でも、この世界の文化レベル的に考えて、詳細な地図なんてのは戦略級の秘匿レベルだろう。外に漏れれば、他国に攻め込ませる可能性さえある、危険なものだ。
それをモンスターである俺が手に入れる事は不可能。もし、人間だったなら、何とかなったかもしれん。
たらればの話をしても仕方ない。俺はモンスターだ。それは揺るぎない事実であり、変えられない現実だ。
攻撃的な部分はモンスターに染まりつつあるのに、変なところだけ現代人ぶって、皮肉にもほどがある。何処かに、見つかるだろうという甘えがあるな。
この過酷な世界で何処にいるか分からん人間を探し出す大変さを、全く理解して無かったかもしれん。
まだ、転生した浮かれというか、現実だと認識しきれて無いんじゃないか?
多分それは、痛みを感じにくい植物系モンスターってのも有るけど、アリアと居ることが、足を鈍らせてるんじゃないか。
強力な傭兵団に護られて、アリアと平和に馬車の旅をしてるせいで、ボケてるのかもな。
アリアの商人見習いに付き合って、世界中を旅してれば見つかるかもなんて、考えが甘かったかな。何より、他人に問う手段が無い時点で、あっちこっち巡ったからって、見つかるということは無いだろう。
アリアをおじいちゃんのところまで届ければ、森から出してもらった恩を返した事にはなるだろうか?
アリアを送り届けたら、どうにかして、こっそり抜け出すことも視野に入れとかないとな。
どうすればレベル上げに最適だろうか?仲間を増やすのが安全だが……。
コミュニケーションを取れずに、アルネアお嬢様を探すことは絶対に俺には無理だ。現状に甘んじてはいけない。
それに、アルネアお嬢様は困っているだろう。俺が唯一の道だったのだ。命を助けてもらったのに、なんにも返せないのは嫌だ。
俺は、アルネアお嬢様の役に立つ為に、こっちの世界にモンスターとして生まれたに違いない。俺が勝手にそう思ってるだけだけど。
アリアには悪いけど、何処かで別れなきゃいけないんだし、早い方が傷付けずに済むんじゃないか?
よし、改めて決めた。
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優先順位
高 進化する、人と意思疎通できるようになる。
中 アリアをじいさんのところまで届ける。
低 アリアとなるべく早く離れる。
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アリアを届けると離れるは、実質イコールでもいいかも知れないな。
「お、ヒューリアにアリアお嬢様じゃないか」
三人と二体で歩いていると、前方からグララウスが来た。
「ヒューリアそちらは?」
「こちらのお方は……」
ヒューリアの説明が終わると、グララウスが直ぐに改まる。
「先程は失礼いたしました」
「傭兵の方なのに、礼儀正しいのですね」
礼儀正しい傭兵とか、弱ければ舐められるだろうし、自然と強い傭兵しか礼儀正しい喋り方をしないだろうからな。珍しいだろう。
グララウスが合流したら、フルトイとは別れ時だろう。微かな可能性でも逃すのは惜しいが、今の俺にはどうしようもない。
やはり地図を手に入れて、誰が何処に居るのか、書き込んで潰してくしかないな。この辺りにフルトイ領があるのが分かっただけでも収穫か。
短い言葉を幾つか交わし、フルトイと別れた俺達は、宿への道を歩く。
「それで、グララウスはこんなところで何をしているの?」
「色んな物資やら補充の人員やらの手配が一通り終わったんで、休憩中です」
「あら、そうなの」
「えぇ。それと、お嬢様を探してたんです」
「何故?」
「商人の旦那が呼んでこいってんで、駆けずり回ってたんです」
グララウス仕事熱心なのな。
「団長それって、休憩中なんですか?」
「街を見るついでに、見つけたらって、言われたからな。探してたといえば探してたし、探してないといえば探してなかったから、実質休憩みたいなもんだろ」
「相変わらず大雑把ですね」
違ったわ。全然熱心じゃなかった。
「細かい奴は団の経理組だけでいい」
「そんな嫌そうな顔したら可哀想ですよ」
「いや、大切な仕事なのは分かるんだが、どうも数字とびっしり書かれた文字は辛い」
分かる。すごい分かる。
「もうすぐ宿ね。一体なんの話かしら?」
宿の扉をくぐると、直ぐに商人が待ち構えていた。
「おぉ!お待ちしておりましたアリアお嬢様!」
「随分歓迎されるじゃない?」
「実は、大旦那様からお手紙が」
「なんですって!?」
何だこの不穏な空気は。
爺ちゃんから孫に手紙が来ただけだろ?
なんで固唾を呑んでるの?
やめろよ。静まり返るなよ。怖いだろ。アリアお前、年相応に「わーい!おじいちゃんからおてがみー!」ぐらい言ってくれてもいいんだぞ?怖いからな?
「あ、開けるわよ?」
「あ、明日にしませんか?」
「貴方開ける?」
「いえ、開けたくないです」
「私の命令でも?」
「その封は、お嬢様の魔力にしか反応しませんし」
何!?爆弾でも入ってんの?開けたくないですってなんだよ!
「ねぇ、今からうちの領まで戻らない?」
「そうしたいところですが、私も商人の端くれですので」
「ぐっ……。本当に!本当に開けるわよいいの!?」
「商人としての命令書でしょう。大旦那様に逆らう商人はおりません。書いてある事に従うしかないのです。例えドラゴンを倒してこいと書かれていても、私は行くでしょう」
「書いてあってもおかしくないところが、一番恐ろしいのよね……」
いや、怖過ぎだろ。ドラゴンなんか倒せるかよ。無理に決まってんだろ。寝言は寝てからいえ。
爆弾より怖いじゃねーか。
アリアがゆっくり開くと、手紙を覗き込んでいた全員が、絶望していた。
やっぱりドラゴンを……?
「来るんじゃなかったこんな旅……」
「申し訳ありませんが、引き摺ってでお嬢様には来ていただきますよ。既に大旦那様から前金をいただいていますので」
「そうよねー。あーでも、こんなの何処にあるの?」
「蒼晶草に緋晶草、紫扇水に黄炎茸。どれか1つですか」
「何処で買えるの?」
「お嬢様。大変申し上げにくいのですが、流通は有りません。全て希少素材です」
マジかよ。
「でも、どれか1つで良かったわ」
「そうですね。全部だったら、一生帰れないところでした」
「そういえば、お爺様はどうやってここが」
「いえ、想定される全ての都市に送っていたと思われます」
「お金って凄いのね」
「そうですとも」
馬車が現役のところで想定しうる全ての都市に手紙送るとか、金の暴力マジやべぇな。異世界感ゼロかよ。夢がねぇ。なんか、逆探知みたいな魔法じゃないのかよ。
だが、話によると、直に取りに行かなきゃなんないみたいだし、レベル上げには丁度いいかもな!
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv12/30
HP126/126
MP87/87
状態:魔力酔い
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.6》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.6》《魔力感知Lv.6》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.3》《植物成長速度Lv.3》《植物鑑定》《水汲みLv.4》《血液吸収》《毒Lv.5》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.5》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.4》《刺突耐性Lv.3》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.3》《土耐性Lv.4》《雷耐性Lv.1》《氷耐性Lv.0》《邪法耐性Lv.4》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》《魔力の奔流Lv.1》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物 読書家
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