34話 馬車の修復
『コール・ウォー・サンドラス南方小都市群』
とかいう、クソ長い名前の所にようやく着いたらしく、これから馬車の修理をしてくれる所を探すらしい。
金持ちなんだから、原産地?いや、原産地はおかしいか。技術の発祥元まで来たなら、新しい馬車買えよ。と、昔の俺なら思わなくもない。
転生してから貧しい村とか、豊かな街とか何ヶ所か見たけど、壊れたから新しいもの買うって、物が氾濫してる現代先進国人らしい思考だな。
物が豊かになると、大事にする心が薄れるらしい。
なんかこんな事ばっかり考えてるな。もしかしたら、前世の俺は哲学者か哲学者擬きだったのかもな。
「さぁ、レルレゲント!見て回りましょう!」
アリアのお嬢ちゃんも懲りないねぇ……。前の大きな街で誘拐されそうになったというのに。
「3人程付けさせてもらいますよ」
「え〜!」
グララウスは大層懲りたらしい。
グララウスが幾ら反省しても、当の本人が防犯意識ゼロだからな。護衛も大変だ。
前の街でアリアを探してる時に、人間に追い回されて思ったんだけど、従魔である事を証明する首輪とか、無いんかな?
常に従魔である事を証明してくれる人間が近くに居ないといけないとか、ものっそい不便なんだけど。
従魔の首輪的なのが存在しても、値段によっては、アルネアお嬢様じゃ買えないか。
それに、アリアの従魔のフリしてるけど、アリアの従魔じゃ無いから、アリアから首輪を着けられるのは御免だな。やっぱ、従魔の首輪的なの無くていいや。
俺ってば現金ね。
いや、通貨の事じゃないよ?って、だから独り言が多過ぎるんだよ。
「レルレゲントも居るし、護衛は要らないわ!」
「ダメです」
「もぅ!」
それはもう、俺もグララウスも大変な思いをしたので、大人しく護衛を承諾しなさい!このじゃじゃ馬貴族娘め!
時折の大人っぽい振る舞いや、戦闘の時の冷静沈着さは大人を思わせるけど、それを除けば歳相応のわがままぶりなので、強く怒るに怒れないんだろうな。
そういえば、アリアの見た目は六歳ぐらいだけど、実際は何歳なんだろうな。貴族といえど、この異世界に現代先進国並の保存技術や調理法が完全に確立されてないなら、栄養が少なくて小柄な事も多いだろう。
だから、俺が身長で大体何歳ぐらいだろうと、思い浮かべる子供の年齢よりも実年齢が高い事は、十二分に有り得る。
アルネアお嬢様も、歳の割にちんちくりんだったしな!フェネ姐さんは、大人もひっくり返る程のスーパースタイルだったけど、良くよく思い出してみれば、そんなに背の高い学生は居なかったな。
高身長スーパースタイルは、フェネ姐さんとイケメン主人公シン伯爵ぐらいだった気がする。
「レルレゲント!行くのよ!」
あいあいさー、あいあいまむのがいいか?や、俺の心の中だけだし、どっちでもいいや。
「まずはあっちよ!あっち!」
どっちだよ。
熱感知を最大まで広げると、護衛はこっそり付いてきていた。わがままを通したんだな。流石アリア。でも、護衛をしない訳にいかないもんな。ドンマイ、グララウス。
略してドングラだな。なんか、ドングリみたいになった。ウケる。
余計でくだらない事を考えながら、アリアの後ろをダラダラ付いていくと、大通りの露天商が立ち並ぶ区画に着いた。
アリアも小さな女の子だし、地方の珍しい上に可愛い小物とか、欲しかったりすんのかな?それで、ここ来たんだったら、可愛いところもあるな。
「あ!レルレゲント見て!魔導書よ!」
こんだけ露天商がいるなかで、真っ先に目に入るのが魔導書かよ。歳相応の可愛げが、わがままぐらいしかないな。
貴族教育の賜物なのか、そういう気質なのか、戦闘時においては、俺も驚く機転なんかをみせる。
もしかして、アリアも転生者だったりしないか……?戦闘時にみせる怜悧さは、とても六歳児とは思えない。
確証は無い。対象物は魔導書だけど、キャッキャと喜んでるところは、子供そのものだ。
アリアに転生者疑いをかけたところで思ったんだが、なんで俺は、この異世界に転生者が俺しかいないと思い込んでたんだろう。
地球には七十億近い人が居るんだ。転生者が俺だけ?そんな馬鹿な話があってたまるか。勿論、俺一人の可能性も全くないとはいえない。俺がたまたま七十億分の一の魂だった可能性もあるにはある。
若しくは、平行世界・異世界が、星の数程存在していて、地球人類はそのうちの一つかも知れない。
俺がとんでも確率超絶魂ってよりは、世界が無数に、それこそ無限に近い数があって、魂が神的空間によって、世界を行き来してるって、考えの方が妥当だな。
この理論でいくと、天国や地獄なんかは、平行世界又は異世界の一種で、俺みたいに前世の記憶を保持した人間が、たまたま人間に生まれた。そして、天国や地獄があるとされた。なんて理屈が、正解に近いかもしれん。
「レルレゲント!これ買っても良いかしら!」
いや、知らんけど。
植物系モンスターに聞くなよ。魔導書なんて、俺に分かる訳ないだろ。
こちとら未だに、《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》の残念植物やぞ。言ってて悲しくなってきた。
取り敢えず、魔力感知でなんも感じられなかったので、アリアの抱えてる魔導書を取り上げて、売ってるオッサンの方に投げた。
「おじさんやっぱりそれいらないわ!レルレゲント気に食わないみたいだし」
「そ、そうかい?」
オッサンこめかみひくついてるけど、落ち着け。本投げて返したの俺だけど、触手だから精密な動きは無理なんだ。許せオッサン。
あーでも、アリアは商人の勉強をしてる訳だから、紛い物掴まされて、後悔する経験もしといた方が良かったかもな。
目利きを養う的な感じで。
紛い物掴まされたからって、本一冊ぐらいじゃ、破産する程でも無いし、身の危険がある訳でも無い。
過保護は子供の成長の機会を奪ってるかも。
子供だからこそ、多少痛い目を見といた方がいい事も有るだろう。特に、こんなモンスターの出る異世界じゃ、大人も法も護ってはくれないだろうし、痛い目をみて次から気を付ける事を学ぶのは大事そうだ。
「レルレゲント何止まってるの?行くわよ」
気ままだね本当に。少しぐらい物思いにふける時間をくれてもいいんじゃないの?なんて、六歳に言っても無駄だし、そもそも言う口が無い。
「ねぇ、レルレゲントもう少し見たら一度戻りましょう?」
お、珍しい事いうな。逆にどうした?
「さっきの魔導書もそうだけど、意外に高いのよ!良い魔導書に出会っても、お金が足りなくて諦めるなんて出来ないわ!」
大人しくしてるのかと思いきや、軍資金の補充かよ。童話なんかでもそうだけど、昔は子供も労働力だったわけだし、のほほんと平和に大人になってから働いてた俺なんかより、働いてる子供の方が余っ程しっかり、ちゃっかりしてるな。
モンスターの跋扈する世界で、子供に武器を持たせるな、子供を戦わせるな、なんて悠長な事は言ってられんか。子供だからといって、戦わせずみすみすモンスターに食わせるか、子供でも戦わせるかっていったら、戦わせるわな。子供の命がかかってるんだから。
やっぱり、前世の倫理観みたいなのは、邪魔になることが多いな。
「お、お嬢様と、レルレゲント。もう戻ってきたんですか?お早いですね」
「ちょっと、こっちからこっちに移そうと思って」
「あんまり無駄遣いするとおじい様に怒られますぜ?」
「無駄遣いじゃないわよ!」
「さ、さいですか」
「グララウス!魔法が使える強い奴を一人護衛に寄越しなさい!」
「それは構いませんが、こんな街中でウチの強い魔法使いの魔法なんかぶっぱなしたら、大惨事ですよ?」
「グララウス。貴方、私をなんだと思ってるの?」
魔法狂じゃね?俺もそう思ってるし。
「露天で魔導書を買いたいの」
「あーそういう事でしたか。じゃあ、コイツを連れてってください」
「ヒューリアです。よろしくお願いしますねお嬢様。それとレルレゲント」
ヒューリアさん癒しだな。子供のお守りばっかりしてたから、落ち着いた大人の女性は癒しだ。何よりも、むさ苦しくないのが最高だ。
筋肉グララウスとか、脂ぎった商人のオッサンとか、五月蝿いアリアとか、そんなのばっかり相手にしてたからね。大人の落ち着いた女性の清涼剤感半端ないわ。
アルネアお嬢様とか、アリアとか、フェネ姐さんとか、やたらめったら整った顔立ちの女性ばっかり見てたせいで美醜感覚狂ってるかも知れない。
ヒューリアさんかなり美人だけど、間近で見てもドキドキしないもんな。
いや、違うね。
それは俺が植物系モンスターだからだね。頭の中だけ人間だからうっかりしてたよ。
危なかったー。あー良かった。ロリコンになったのかと思った。マジ焦るわ。汗出ないけど。
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名前:モノリ 性別:不明
種族:スティンガープラント(ヴドァ)
Lv12/30
HP126/126
MP87/87
状態:普通
常時発動:《共通言語理解》《擬態Lv.6》《触手Lv.10》《触手棘》《熱感知Lv.6》《魔力感知Lv.6》
任意発動:《調べる》《薬草生成Lv.3》《植物成長速度Lv.3》《植物鑑定》《水汲みLv.4》《血液吸収》《毒Lv.5》
獲得耐性:《恐怖耐性Lv.5》《斬撃耐性Lv.6》《打撃耐性Lv.4》《刺突耐性Lv.3》《火耐性Lv.2》《風耐性Lv.2》《水耐性Lv.3》《土耐性Lv.4》《雷耐性Lv.1》《氷耐性Lv.0》《邪法耐性Lv.4》
魔法:《土魔法Lv.0》《魔導の心得Lv.0》
称号:意思ある卵 従魔 絞殺好き 逃走者 雑用係 危険な棘 馬車馬 耐性植物
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