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63話 王都、異常者たち

 イリーア・グランジェの名前は『最強』の代名詞である――そう言ったのは現国王である。彼女の功績は両手では数えられないほどで、なんど世界を救ってきたか分からない。

 それもこれも、職業『勇者(ヒーロー)』が大きく関わっている。


 アルムント家が『神の一族』と言われるのならば、グランジェ一族は『英雄の一族』と呼ばれている。

 グランジェ一族は代々職業『勇者(ヒーロー)』を受け継がせ、ヴァルハラで唯一無二の存在として君臨していた。


 職業の名前に負けないほど、この家系は『強さ』を求めている。

 方向性はアルムント家とほぼ同じだろう。しかし、規模があまりにも違いすぎた。


 例えばだ、アルムント家は冒険者として最強を目指していたとしよう。むしろこれは例などではなく、事実でもある。彼らは冒険にこそ人生のすべてを捧げ、誰よりもそれを愛していた。魔物、ダンジョン、未知との強敵や好敵手――すべてを超越し、またすべてを包み込もうとした。


 一方のグランジェ一族は――世界を救おうとした。楽しむのではなく、襲い掛かる災厄すべてに全力で命を懸けた。楽しむ――なんてことはせずに、ただただ人類の未来を背負い、孤独で、一人で――戦い続けた。


 分かりやすく言い直せば、アルムント家は友と戦い、グランジェ家は一人で戦ってきた。


 神と英雄の違いだ。


「その説明だと、イリーアさんは今も一人みたいな言い方ではないですか?」

「間違いじゃないよ? 勇者の職業を受け継げるのはたったの一人。世界中でその一人だけ。アルムント家は親も子供も、兄弟もアルムントの名を語ることを許されている。でも、グランジェの名前を名乗っていいのは勇者だけ。つまり、イリーア・グランジェの両親も、姉妹もグランジェを名乗れない」

「え? ではなんと姓を名乗るのですか?」

「何もないさ。名前だけ――許されるんは名前だけだ」

「……それは――」


 アスティアは言葉が詰まる。


「悲しいです……ね」

「本人たちがどうな風に思っているかは分からないよ。アスティアが同情する必要はないさ」

「でも……家族って、やっぱり名前も大切なんだと思うのです」

「ああ………そうだな」


 宮兎は分かっている。アスティアが優しすぎるということを。

 彼はこの話を聞いて何も思わなかった。勇者って家系は大変なんだろうなーーとかなり安易な考えしかできなかった。だが、彼女は違う。


 アスティアはまだ出会いもしていない人間に対して――


「……グランジェ一族の話はここまでだ。勇者についてどうのこうの言う権利は俺達にはない」

「はい……では、次の方をお願いします」


 気持ちを切り替えたのか、いつもの明るい微笑みを宮兎へ向けた。

 二人の足並みは変わることなく――距離も変わらず歩き続けた。

 宮兎は残りの二人の顔を思い出して、口を開いた。


「えっと、あとの二人は姫騎士のミツネ姫と大魔法使いヴァビロンか」


 姫騎士(プリンスナイト)――国王の娘であり、第三王女の彼女は驚異的なスピードでレベル500まで達成した。十歳のころにはすでに二十回目の儀式を終わらせ、十三歳にしてレベル500になった。


 ちなみに、彼女に匹敵する速さでレベル500に達したのは問題となっているグリムだ。彼は魔物ではなく、人殺しによる経験値でレベルを上げてきた。

 十四歳でレベル500になり、それから七年間幽閉されていたことになる。

 先ほどアスティアにこの事を説明しなかったのは――冒険者に憧れを抱いている彼女の気持ちを察してだろう。


 もう一人の大魔法使いヴァビロンは現在唯一五大元素魔術(火、水、地、風、空)を扱うことのできる魔法使いだ。この職業は『ロスト・ジョブ』と言われ、現在ではジョブチェンジすることは不可能だ。

 

ロスト・ジョブは全部で二十種類。神の神罰により、人間が就くことができなくなった職業。百年ほど前であれば前であれば六人ほどロスト・ジョブに就いていた冒険者が存在したらしいが、今となっては百歳を超えたといわれているヴァビロンただ一人。


 ――それがロスト・ジョブである。


「ミツネ姫に関しては俺よりアスティアの方が詳しいんじゃないか? 俺は国のお姫様のことなんて一年前まで興味なくて知りもしなかったのに」

「思えばひどい話でした。スタイダストにいながら王女のことを――まして王族の存在を知らなかったなんて」

「いやー、冒険で頭がいっぱいになってて。この世界のこと全然調べずに無心で走り回ってたなーっと」

「建国祭の時に大恥をかくところでした」


 この国の住人なら、国王と王妃、そしてその子供たちの名前を知らないものはいない。

 だが、よそ者である宮兎にとって「え? それ誰?」と言って色々と疑われたことが当初あったのだ。

 あの場にいたティナは冗談として受け取ってくれたが、下手をすれば他国のスパイではないかと疑われる。ただでさえ、宮兎は特殊な存在として最初スタイダストでは受け入れられたからだ。


「……こうして考えてみるとレベル500の方々って特徴的ですね」

「俺も含めて頭のネジ一本か二本外れているヤツじゃないとカンストは無理だろうよ」

「王女に向かって直接言ったら死刑ですよ……」

「少なからず自覚があるんじゃないのかな? 特にミツネ姫は――あまりにも異常すぎる」


 十三歳でレベル500になるにはそれ相応の特殊な環境、体質、そして才能がなければ不可能なことである。宮兎の本心としてはアイテムによる『ズル』でレベルアップの補助をした自分はこの異常者たちの枠から外してほしいという気持ちもある。


 しかし――異世界人であるからには、それは難しいことなのだろう。


 レベルカンスト者は皆――異常である。


「レベルカンストと言えば、レジニーさんとティナさんのお兄さんが次の最有力候補ですね。ヴァルハラ歴初めてのカンスト者六人越えができそうですね」

「王都も大満足だろうな。レベルカンスト者はたった一人で一つの軍隊に匹敵するとも例えらえる。それが六人も揃えば世界征服も夢じゃねえだろうよ」

「もう、また嫌味を…………」

「事実だ。俺が王都から逃げているのも――軍事利用されるのは御免だからな。これに関してはグリムもたぶん俺と同じ考えだ。だからこそ、逃げたに違いない――か、人殺しをしたいか」

「…………シスターの私が言うのもあれですが、矛盾していませんか? もし、軍事利用されるのであれば、彼の望みは叶うはず」

「さあね。グリム本人に直接聞くのが早いよ。さっさと皆で捕まえてここへ帰ってこよう」


 宮兎の言葉にアスティアは頷く。

 そのあとに、宮兎の表情は相変わらずどこか暗いことが気になる。

 思い悩んでいるのではなく、考え事をしているようで何度かブツブツを小さく言葉を漏らす。


 さて――宮兎が考えていることは今回の事件についてである。

 グリムという男が幽閉されていた六年間――彼は脱走することはできなかった。だが、このタイミングで脱走することができたのだ。


 何故なのか?


 現在情報が少ないので変に妄想を仮定させることは良いことではない。

 もしだが、グリムに何かしらの目的があり、その目的を達成するために脱走をしたのなら――今まで脱走することは簡単だったが、理由がなかったのなら――その理由が――何であるのか。


「グリム……か」


 静かに彼の名を呼び、ちょうど外へと続く門が視界に入った。

 これから――王都へ飛ぶ。


お久しぶりです。猫之宮です。

大変遅くなったことをお詫び申し上げます。


といいますのも、Twitterをご覧の皆さんはご存知かと思いますが、人生の荒波(就活)に現在進行形で呑まれております。

一応、合間合間を見て執筆はしておりますが、どういても今回のように時間が空いたり、短かったりとします。

その点はご了承していただけると幸いです。


これからも作者と100ゴールドショップウサギ屋をよろしくお願いします。

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