64話 王都、不安の街
皆さま、お久しぶりです。
私は生きてます。
「よっと」
転移クリスタルによって宮兎達は王都の正門入り口に来ていた。
門はスタイダストの物とは比べ物にならないほど巨大だ。宮兎とアスティアは顔を上に向けて、門の大きさに感動した。
「やはり王都は大きいですね」
「だな。……さてと、中に入ろうぜ」
二人と三体の魔物は門へ近づくと、宮兎は右手に小さな小屋があることに気がついた。窓が一つと扉が一つ。人が三人入ればぎゅうぎゅうになるほど小さな小屋だ。中には一人の兵士が真剣な表情でこちらを睨んでいる。
「あの方が門番さんですね。許可を頂いて中に入りましょう」
「……そうだけど、なんかすんげえ睨んでいないか?」
「確かに、この間来た時より表情が硬いような」
兵士の顔は眉間にしわを寄せて、二人と三体の魔物を親の仇のように睨みつけている。兵士と宮兎達はもちろん初対面であり、互いに認識があるわけではない。
少々警戒しつつも小屋の前まで移動し、兵士に話しかける。
「どうも、ええっと……こんちには」
「ええ、こんにちは」
宮兎のぎこちない挨拶に、一応は返してくれたがそれでも表情は厳しいものだった。
今度はアスティアが頭を下げて、目的を説明する。
「すみません。王都へ入りたいのですが……えっと身分証はこれです」
アスティアは前回、王都へ訪れた時に『通行許可証』を発行していた。宮兎の場合は商業ギルドから発行される『商業ギルドメンバーカード』が身分証明書になる。手っ取り早いのが冒険者ギルドカード、もしくはステータス画面を直接見せること。しかし、それでは隠している『事実』をさらけ出すことになる。
「……100ゴールドショップ『ウサギ屋』。ふむ、なるほど。確かに確認しました。後ろの使い魔は貴方の?」
「ええ、まあ」
「分かりました。しばらくお待ちください」
兵士は小屋の奥へ行き、何やら誰かと【コール】で会話をしているらしい。何度も兵士の「はい」や「ええ」と言った言葉が聞こえる。しばらくして、兵士は二人に近づいて先ほどと変わってにっこりと微笑んだ。
「お待たせしました。許可がおりたので門を開けますね」
「ありがとうございます。……なんだか、大変そうですね」
宮兎の何気な質問に兵士は疲れたように返事をした。
「アレですよ。レベルカンスト者のグリム・レイジヴァントが脱走しましたからね。我々も気が気じゃないです」
「なるほど……」
「お二人は旅行で?」
「そんなところですよ」
「本当なら今の王都は観光にはオススメできませんよ。もしかしたら寝ている間に首を切られて死ぬなんてことがあるかもしれませんから」
兵士のつまらないジョークに宮兎は「まあ、気をつけます」と適当に返した。
それから門がギイギイと音をたてて、ゆっくりと開く。その光景をじーっと二人と三体は見つめ、思わず固唾をのんだ。開き終った門の向こう側は建物で溢れ、この場所から目視できるほど巨大な王城が聳え立っていた。
「んじゃ、さっそく行くか」
「行くって、どこへですか? まさか城へ?」
「いいや、流石にコイツらを連れてはいけないだろうからまずはアスティアのご両親のところだ」
アスティアの両親はかれこれ半年以上、王都で観光を楽しんでいる。しかも、別荘まで立ててこのままスタイダストへ帰ってこないのではないのだろうかと宮兎は心配しているが、娘のアスティアからすればあれほど自由気ままな母親が長期間王都にとどまっていることには驚いている。それが母親の意思なら心配はしていない。何しろ頼れる父親が一緒に居るのだから心配するだけ杞憂だろう――という考えだ。
「構いませんが……レジニーさんはどうするのですか?」
「先に来ているなら大丈夫だって。ほっといてもどうせ向こうからやってくるだろ」
「………確かに」
レジニーのストーカー能力を痛いほど知ってる二人はこのような結論に至った。
明日の朝にでも勝手に部屋に上がりこんでスヤスヤと隣で寝ているに違いないと。
「レイン・ゴースト達もしばらくはそこで預かってもらおう。いいか、お前たち。アスティアのご両親に絶対迷惑をかけるんじゃないんだぞ?」
レイン・ゴースト達の頭の中にあるカースト制度は、現在トップにアスティアがいる。その下はレジニーだ。あとは自分たちと宮兎を含めた大勢だ。しかし、そのカーストトップであるアスティアの親となれば、それはもう頭が絶対に上がらないほど恐ろしい存在ではないのだろうか――などと勝手に想像して、三体は顔を青ざめる。
「いや怖がらなくても私のお父さんもお母さんの普通の人間ですから……」
「まあ、元冒険者の親父さんは兎も角、母親は覚悟しとけよ」
「もう、変な事言わないでください」
レイン・ゴースト達をからかいながら王都の道を進む。やはり、スタイダストと違い、建物の大きさも数も段違いだ。道には所々花が植えられ、華やかな雰囲気を楽しむことが出来る。きょろきょろと二人はあたりを見渡し、先ほどから感じる違和感に答えを出した。
「…………王都って言う割には人が少ないくないか?」
「確かに……この前来たときにはもっと人が溢れかえっていましたよ。何処へ行ってもスタイダストの【ランチ街道】のようにぎゅうぎゅうで移動するのも一苦労だったのに」
「てことはやっぱりグリムの影響か」
「それしか考えられません。彼が【殺人鬼】であり【無法者】だから――常識が通用しないからこそ皆さん怖がって外に出れないのですね」
グリムの脱走というニュースは王都にとって重大な出来事だった。何しろ殺人がもっとも多く行われた場所こそ、この王都なのだ。彼が悪人殺しであり、猛者殺しでもある。この両方を兼ね備えた街が王都であった。スタイダストは猛者は溢れかえっていても強烈な悪人はほぼいない。閉鎖空間である南区さえ、グリムにとってはお遊び程度の罪だ。
「グリムさんは脱走して、殺人を行おうとしているのでしょうか?」
「さあな。まだ被害は出ていないし、そもそも王都にあいつが求めている猛者ってのがレベルカンスト勢なんだろ? 犯罪率も王都はグリムのおかげで激減しているって聞いているし」
「人殺しを肯定するわけにはいきませんが、彼は我々にとってさほど有害な存在ではないと?」
「……まあ、俺は殺しに関しては絶対に許さない。どんな理由があってもだ」
「ミヤト…………」
「ま、そういうことは会ってから適当にぶっとばして捕まえればいいんだよ」
「暴力は否定しないのですね……」
「言葉が通じる相手なら苦労しないさ。結局、俺達冒険者は拳で殴り合った方が分かり合える」
確かに、彼は今まで様々な冒険者と決闘を行ってきたのだ。アルムント家の双子――彼らとも剣を交えて最終的には分かり合えることができた。
ただ――彼は対人戦になると急激に弱くなる。
宮兎の本質がどうしても抜けきれない――日本で暮らしていたころ、人に刃物を持って襲い掛かるなんて経験がない彼は、人を傷つけることを未だに躊躇う。だからこそ、レベル差があったアルムント家の双子にあそこまで苦戦した。
魔物でさえ、彼は当初殺すことに嫌悪感を抱き、汚物を吐きながら【殺し】に慣れていった。レベルアップにしたがって、精神力が上がっていくと魔物を殺すことに対して違和感を感じなくなった。そこから宮兎は本格的に冒険者として活動を始め、いつしか【赤い影】と呼ばれるようになったのだが……人に対しては体が拒むらしい。
「それはさておき、こっちの道であってるのか? 適当に歩いているけど」
「心配ありません。ほら、あの薄い青色の屋根――あれが別荘です」
数メートル先に一軒だけ薄い青色の屋根が目印の家があった。木造建てで、大きさは宮兎が今住んでいる『ウサギ屋』とほとんど変わらないだろう。門から歩いて十分程度で到着した。もっと奥に建てたと思っていたが、意外な場所だったので宮兎は思わず「ちかっ」と呟いた。
まず、大変遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。
本当にごめんなさい。
さて、というのも100ゴールドショップ『ウサギ屋』の二巻ですが、六月三十日の本日、発売いたしました。いえい。
今回は新商品開発部編と亡霊魔術師編と双頭の流星編、さらに書き下ろしの幽霊船襲来編となっておrます。
新商品開発部編でも新たなアイテムを登場させ、加筆を行っております。書き下ろしの幽霊船襲来編では00ページ越えの超大作! WEB版で語られたアレがスタイダストへやってくる!みたいな感じです。
KADOKAWA・エンターブレン・ファミ通文庫様にて発売となります。
公式HPではレジニーの裸のシーンや、水着の口絵などなどを公開しておりますのでぜひぜひご覧ください。
活動報告にもレジニーのキャラデザを載せております。
こちらも合わせてご覧ください。
最後に感想のお返事が出来ていない状態ですがきちんと見ております。
誤字脱字報告もありがとうございます。徐々に修正していきますので、今しばらくお待ちください。




