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59話 女子会、助言をする

1/30!

書籍版ウサギ屋、本日発売日です!

女子会編も今回で終了!

「で――この女子会の目的、忘れていない?」


 ツバキがあきれ気味に言うと、数秒固まって、「ああ、そういえば」とナノへ全員が視線を向ける。

 女子会の目的はそもそもナノが「好きな人がいる」と話題にしたからだ。その助言、または好きな人が誰なのか、それを知るために集まったのだ。


 脱線しすぎたせいで、すっかり忘れていた――とはツバキ以外、誰も言えない。


「そうね。本題に入っちゃおう。ナノちゃんの恋愛相談始めちゃいましょう」

「うう……」


 セルフィは元々他人の恋愛相談は大好きだ。でなければアスティアの悩みに数年間付き合えるはずもないだろう。最近では、自分も恋人ができて、まったく苦にならずに済んでいる。あまーい話を聞かされると、時々殺意を沸かせていたが、今では共感できる。


 問題はその本人、ナノが恥ずかしがって口を開かないことだ。

 アスティアは優しく、ナノへ問いかけた。


「言いにくいのであれば今日は言わなくても大丈夫ですよ?」

「い、いえ……。せっかく集まってもらったのに…。私、大丈夫です……!」


 本当に大丈夫なのだろうかと、全員が心配するほど顔は赤く、もじもじと体を動かしていた。

 何度か深呼吸をして、意識を集中させている。彼女なりに頑張っているようだ。

 周りの少女達からすれば「ああ、見守る母親ってこんな気分なんだろうな」と思えたらしい。

 面白いことに、全員が考えたことなのだ。


「い、言います!」


 勇気を振り絞り、とうとうナノは決意した。

 ぎゅっと自らの胸元を両手でつかみ、立ち上がると口を小さく開けて――とある人物の名前をゆっくり言う。


「さ、サマエト先輩! …………です」

「サマエト? サマエト・ウェイガですの?」

「は、はい…………」


 ご存じサマエト・ウェイガ――宮兎と同じく錬金術師の職業に就き、ティナの一つ上の先輩にあたる人物だ。美少年と言われるほど甘いルックスを持ち、学園の中でも最強クラスの対人能力を誇る。得意スキルは鉱石による錬金術。デーモンズ・オーガとの戦いでもその実力を十分に発揮できた。学園ではその強さゆえに少々浮いており、一人でいることもしばしば。友人がいないわけではないが、一匹狼を思わせている。


 生徒たちからの評価は高いが、近づきがたい存在らしい。

 サマエト自身、あまり他人と行動するのは好きではないらしいのだが、先輩にあたるデスカントとよく一緒に歩いているところは目撃されている。


 彼のことをあまり知らない人なら「ああ、イケメンだし強いしね」というだろう。

 だが――この場にいる全員は口をそろえて言うのだった。


「ナノ、彼はやめておきなさい」

「ええ!? 先輩、それはっ………!?」

「だって、サマエトはむっつりスケベよ」


 そうなのだ。

 彼を知る人物だからこそ言えることだ。


 宮兎が作った透視できるメガネ。アレが起こした事件の真相を、ティナは知っているのだ。

 表向きは宮兎のうっかりによるミスだが、本来ならばサマエトとデスカントが計画していた『覗き』である。何かがおかしいと思ったティナがシイラにこっそり情報を集めてもらい、発覚した。


 海でもそうだ。

 女性陣の水着姿を目が飛び出るのではないかと思うほど見ていた。

 自分の欲望に忠実なのか、それとも我慢できないのか、なにはともあれティナはサマエトを恋人には推薦できないらしい。


「ナノちゃん、私が言うのもなんだけど、サマエトくんって結構な遊び人気質よ? 女の子には目がないし。それを隠しているってのがすでにね」

「ウチもまあ、初対面ながら水着をああも見られちゃあ不振に思うのよね」

「ああ、あのイケメンくん? 私はナノが良いなら構わないけど、ちょっと裏がありそうだしオススメできないわ」


 とまあ、セルフィ、ツバキ、あのレジニーからも不評である。

 セルフィとツバキ、そしてティナは彼が女性と付き合った場合、浮気して、修羅場になって、二人とも不幸になる、そんな未来が予測できるからだ。簡単に言えば女の敵と認識されている。それでも人が良いし、今のところ被害はない(宮兎によって阻止されたので)からなのか、邪険にする理由もない。


 レジニーは彼の振る舞いに疑問を持っていた。

 わざとそうしているのか、それが本性なのか、どこかつかめない。レジニーがサマエトに抱いた感情だった。それゆえに、仮面をかぶっているサマエトを弟子にオススメすることはできなのだ。


 ただこのなかで――アスティアだけがほほ笑んだ。


「私は別にいいと思いますけど」

「あ、アスティアさん………!」

「サマエトさんは確かに時々女の子をいやらしい目で見ているときもありますが、ナノさんが好きになった理由……それがきちんとあるはずです。私たちがどうのこうの言える立場ではありませんよ?」

「んー、確かにアスティアのいう通りだけど……」


 セルフィはアスティアの言葉に賛成しきれない。

 アスティアの恋愛相談もだが、ほかのシスターたちの相談も乗ってきた彼女は、サマエトのような男性と付き合った女性はみな、高確率で別れる。それを知っているからこそ、強くは言えない。


「私も、ティナさんも、レジニーさんも知っているはずです。ミヤトだって、最初は好きではなかった……何かきっかけがあったからこそ、ここまで想うようになった。彼を知らない他人からすれば、自分勝手で、少し我儘で、頭の中は冒険や商売、自分のことばかり。それでも彼に惹かれた。私たちにしかわからない魅力が、ミヤトにはあるのでしょう?」

「…………そう、ですわね」

「ふむ、面白いことを言うのね、アスティアちゃん」


 思い返す――なぜ自分が好きになった人――宮兎に惹かれたのか。

 アスティアはそれこそ今から三年前――彼の頑張る姿に惹かれた。それだけではない。命までも救われたのだ。忘れもしないあの日――あの背中をみた時、彼の隣にずっといたいと心の底から願った。


 ティナも同じく三年前――まだ、冒険者としてデビューしておらず、課題としてダンジョンへ潜った日。

 そこで宮兎と出会った。彼はほかの人たちと違い、特別扱いせず、シイラと同じように厳しく叱ってくれた。叱られたから好きになった、のではないが、宮兎がティナにとって大切な存在になるまでに時間は必要なかった。彼とともに戦いたい――そう、思えた。


「ナノさんも理由があるはずです。だから私たちは応援しましょう、ね?」

「ありがとう、ございます!」


 ナノはアスティアへ頭を下げた。

 こうなっては、残りのメンバーも応援するしかない。

 だが――やはり、この人物は爆弾を投下する。


「それじゃあ、どうしてナノちゃんはイケメンくんを好きになったのかな?」

「せ、先生! それはちょっと……恥ずかしいです」

「恥ずかしがってちゃ私は応援できないし、結局はイケメンくんに思いは伝えられないわよ? 私みたいにすべてを隠さず、全力で愛を伝えなさい」

「いや、それは違うから」


 ツバキのツッコミを華麗にスルーして、レジニーはナノから目を離さない。

 アスティアもやめるように口を開こうとしたが、ナノが先に考えを述べた。


「わ、私……やっぱりあの日のこと、デーモンズ・オーガの事件が忘れられなくて……」

「デーモン・オーガ…………ね」


 ティナは懐かしそうに呟いた。

 忘れることのできないあの日――ティナとナノは絶望を見た。

 あの場にサマエトがいなければ、全員死んでいただろう。

 サマエトの活躍により、全員生き延びることができたといっても過言ではない。


「あの時、私は無力だった……。回復スキルでサマエト先輩の命はなんとか繋ぎ止めることはできましたが、それでも不十分だったのでしょう」

「…………そんなことないですわ。ナノ、貴女のスキルはサマエトは十分に感謝しています」

「でも、私は弱いから」


 力なくナノは笑った。

 レジニーは一瞬で理解できた。

 これが、彼女を衝動的に強くさせようとする理由だと。


 現場を知らないレジニーは、ナノがどのような立場だったのか想像しかできない。

 回復職であるから、前線に出る必要性はないものの、攻撃スキルの一つや二つ、持っているだけで作戦のバリエーションは増える。


「ナノさん……」

「アスティアさん、それに皆さんありがとうございます。なんだかしゃべったら、自信が湧いてきちゃいました」

「え? 本当に? あたし達、別に何も助言できていないよ?」

「セルフィさん達の話を聞いて、なんだかほっとしました。ああ、悩んでいるのは私だけじゃないって」


 視線がアスティアとティナへ向く。

 二人は気づき、お互いの顔を見た。

 好きになった人が同じで、どうすればいいのか悩んでいたはずだ。

 だがまあ、レジニーのおかげなのかどうか、二人は前向きに事を自然に考えていた。

 なんだかそれがおかしくて、笑ってしまうのだ。


「よし! それじゃあ今からシイラちゃんに突撃して好きな人を聞こう!」

「唐突ですわね…………」

「だって、この前男の人がどうのこうのってブツブツ言ってたわよ?」


 セルフィの突拍子もない提案に周りはあきれるばかりだったが、レジニーはニンまり笑う。


「面白そうね。ふふ、その遊――その提案、乗ったわ」

「今絶対遊びって言った」


 こうして、アルムント家の屋敷は再び戦場となる。

 シイラが逃げ出し、レジニーとセルフィが猛獣のように追いかけるという何とも不思議な光景だった。

 取り残された四人は苦笑いしながらも、これからも平和で、いつもの日常的なスタイダストであることをひっそりと願うのであった……。


 しかし、すべてが反転したのは、この日から一週間後のことであった。

大変長らくお待たせいたしました!

本日1/30、ウサギ屋の書籍版発売日となります!いーえい!


書籍版は見習い少女激闘編までの収録となっております。

それだけではありませんよ! 書き下ろし番外編

『青年と少女、お泊まりプラクティス』も入っております!

こちらの番外編はウサギ屋がオープンする一か月前のお話し。宿無しのミヤトが教会でアスティアと一緒にお泊りをする!本編でも少し触れられていましたが、こちらでその全貌が明らかになります!


 また、店舗特典がつくお店もありますので、詳しいことはファミ通文庫公式HP

『FB Online』、もしくは活動報告へ載せているのでぜひぜひご確認ください!


さてさて、女子会編も今回で終了となります。

次回からがっつり戦闘に入る予定なのですが、予定として7万文字ほどの長さ。

つまり、かなり長めの章になると思います。


最後にここまで応援してくださった読者の皆様には大変感謝しております。

書籍化できたのは何より皆さんのおかげです。

これからもウサギ屋をまったり描き続けること、長く付き合える作品にできることを祈っております。


誤字脱字やひどい文章かもしれませんが、温かい目で見守っていただけたら幸いです。もちろん、おかしなところはガンガン指摘してください!


それではみなさん、WEB版、書籍版共に100ゴールドショップ『ウサギ屋』をこれからもよろしくお願いいたします!

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