60話 王都、手紙と暗礁
たいへんおまたせしましたああああああ!
新章突入です!
ヴァルハラにおいて、大陸は大きく四つに分けることができる。
冒険の大陸――エルニアド。
科学の大陸――マジュール。
物怪の大陸――ヤマト。
そして多くのダンジョンが存在し、人が住める場所ではない大陸ーー暗黒大陸。
闇の大神殿をはじめとするS級のダンジョンは暗黒大陸に位置し、何千年という月日をついやし、人々が行き来できる転移クリスタルをセッツすることができたのだ。
その他の三つの大陸は、それぞれの名前を王都や朝廷に称し、スタイダストがある大陸――王都の名もまたエルニアドと呼ぶ。物怪の大陸、ヤマトはキキョウやツバキの出身地でもあり、鬼族のほかにも多くの種族が生活している。科学の大陸マジュールは現代には及ばずとも、『プラスチック』や『アルミニウム』などの量産に成功し、大陸内ではそこそこ流通しているようだ。
ヤマトもエルニアドもマジュールの科学力はほしいところがある。
マジュールからすればエルニアの冒険者、ヤマトからは独特の文化と能力を欲している。
互いが互いを見つめ、平和を崩さないためにも口に出さないことが多い。
しかし、王都エルニアドではとある『商品』が問題となっていた。
「ふむ……これは誠にプラスチックであるのか?」
「間違いありません。正真正銘、プラスチックで作られた洗濯バサミです。大陸で一般的に流通している木製ではないので、腐る心配もありません」
「これはどこで?」
「スタイダストの雑貨屋です。なんでもすべてが100ゴールドで販売されていると」
「……………家主は?」
「ミヤト・アカマツ。見た目はヤマトの者だと推測できますが、この錬金術スキル。アルマージュ出身のほうが確率が高いかと」
「技術の流失の嫌うアルマージュがこれほど簡単に大陸移動を許すとは……まさか亡命か?」
「調査中ですが、今のところ分かっておりません」
「そうか………ノルワッシュよ。例の件、頼んだぞ」
「御意。国王の命令とあればわたくしめはどのような仕事も引き受けます」
エルニアドの上級区域――そのまた許された者しか門をくぐることが許されない場所――王宮。
その王座に君臨するは現国王、彼のひざ元で頭を下げる青年。
先ほどのやり取りを見ている限り、どうやらプラスチックで作られた洗濯バサミが話題のようだ。
エルニアにおいて主流の木製用品には大きな弱点――腐るというものがあった。
木で作られているため、雨や湿気で腐るのは当たり前で、それなりの工夫はされているが、長くはもたない。それに比べ、プラスチックは劣化はするものの、木製に比べて何十倍も長持ちする。
コレを作る技術を確定させているのは現在はマジュールのみ。
エルニアドやヤマトではほとんど見かけることのない商品なのだが、最近では王都でもちらほら商人達がプラスチック製品を販売している。
国王が恐れたのは、マジュールからの不法入国。平和の条約を結んでいるとはいえ、結局は文章での約束。破られる可能性もないわけではない。国を内側から崩壊させられてはひとたまりもない。
だがそれは杞憂に終わり、調べてみれば一つの結論へたどり着くのであった。
『プラスチックなどの珍しい製品を作ることができるレシピが出回っている』とのこと。
マジュール出身の可能性がある人物が、スタイダストで雑貨屋を開き、錬金術スキルのレシピを広めているという情報が入ってきた。
錬金術スキルのレシピさえあれば、ある程度のレベルに達している錬金術師はそのアイテムを錬成することが可能となっている。
彼が技術を公開いていることにより、エルニアドの技術力がここ数ヶ月で格段とアップしている。
マジュールは外の国には興味を示さない。
スタイダストに自分たちの技術が流用されているなど知りもしないのだ。
もっとも、流用などではなく、宮兎が知っている物が偶然にも、マジュールの長年にわたり作られた結晶と同じだった――だけである。
そんなこと分かりっこない国王とノルワッシュと呼ばれた青年は、頭を悩ませていた。
「スタイダストだけではなく、このエルニアドにも影響が及んでおる。悪いことではない。ただ、ワシはその者が何を考えているのか、何を目的としているのか、ただそれを知りたいだけだ」
「分かっております。ノルワッシュ・F・アルムントの名において、王の願いを叶えてみせましょう」
「頼むぞ。これは王都だけの問題ではない。エルニアド大陸全体の――問題だ」
こうして――国王とノルワッシュの会談は終了した。
抱えている問題は大きく二つ。まずはーースタイダストの雑貨屋店主――彼をここへへ連れてこなければ話にならない。
ノルワッシュは、玉座の間を後にして、頭の中で次のステップへ進む準備を始めようとしていた。
◇
「お兄様」
王城の廊下を歩いているとノルワッシュは聞きなれた呼び方と声に反応して振り向いた。
予想通り、血を分けた可愛らしい女性がこちらに向かって小走りで近づいてくる。
女性は両手で自らの身長と変わらない杖を持ち、少々露出の多い踊り子のような恰好をしていた。
床につきそうなほど綺麗な金髪、その上には氷の結晶を思わせる髪飾り。妖美な雰囲気は多くの男性を虜にしてきた。しかし――彼女は未だにそのような経験はしていない。
「ヒカリア、研究の途中じゃなかったのか?」
「王とのお話しが終わったと聞いて、すっとんで来たの」
「それはまあ、ご苦労だったな」
さて――ここで彼らの紹介をしておこう。
ノルワッシュ・F・アルムント――アルムント家の長男にして、最高傑作と呼ばれる男だ。年齢は25歳。すでに婚約者もおり、時期にこの王都で式を挙げるつもりだ。兄妹おそろいの金髪に、父親譲りの鋭い眼光は奥の貴婦人達を惑わせた。レベルも現在410。いずれは500に達するだろうとの期待も大きい
職業は上位職のマスターソードマン、サブ職業はホーリーナイト。攻撃と防御を兼ね備えた、『騎士』にふさわしい男である。
ヒカリア・F・アルムント――アルムント家の長女にして、王都のブレインを務めている。年齢は23歳。何度もお見合いを断り、本人は一生研究者として生きたいと願っている。今現在も多くの男性から求婚されているのだが、見向きもしていない。レベルは401。メインに錬金術師、サブに精霊使い《フェアリーマスター》を選択している。全錬金術師の憧れの存在であり、彼女が発見したレシピは現在確認されている2パーセントだと言われている。天才の名にふさわしい女性だ。
「ご苦労もなにも、頼まれていた物が完成したから報告に来たのに」
「本当か?」
「嘘をついてどうするのよ? ほら、これがそのプラスチックよ」
豊満な胸の谷間から取り出したものはノルワッシュが国王に渡したプラスチックの洗濯バサミと同じものである。色は鮮やかな黄緑色で、光に照らすと透けているように見える。
ノルワッシュはヒカリアからそれを受け取り、開けたり、閉じたりを繰り返す。
「どうやらレシピは本物らしいな」
「ええ。私も目を疑うわよ。こんな簡単なレシピで、こんな物を作っちゃうなんて」
ヒカリアに頼んでいた研究とは、本当にレシピで化学製品が作れるかどうかである。ヒカリアはあまりにもシンプルすぎる内容に何度も疑いを持った。
だが、実際に錬成をしてみるといとも簡単に作れるのだ。長年研究を恋人にしてきた彼女でも、衝撃的な事実に目を疑った。
「ミヤト・アカマツ――本当に偶然なのかしらね」
「何がだ?」
「知らないとは言わせないですよ、お兄様。お父様から手紙が来たでしょう? 次の婿候補にミヤト・アカマツの名前があるのを」
「…………」
確かにノルワッシュの記憶に「父からの手紙で、妹達の婿候補がミヤト・アカマツである」というのはあった。だがーー考えたくもないのだ。
「ぜえええええったいに何処から来たかも分からない馬の骨ごときにお前たちを嫁に出すつもりはない!」
「あらあら、お兄様もそろそろ妹離れをしてくれませんと。お父様ですら、まだ子離れができていないのに」
「ヒカリアも、リレンズも、ティルブナも俺が認めた男以外とは絶対に結婚させん! 薄汚いドブ野郎どもに可愛い妹達を汚されてたまるか!?」
「…………はあ、クイント御姉様もなぜこのようなバカなお兄様と婚約したのか」
ヒカリアが研究バカだとすれば、ノルワッシュは重度のシスコンである。平気で妹と一緒にお風呂に入ろうともするのだが、何度もティナやリレンズに怒られている。
送られてきた婿候補の手紙もソードマスタースキルで粉々にして海に捨てた。幸い、先にヒカリアが読んでいたら良かったものの、何も知らずにお見合いをすることになっていただろう。
「お父様も何を考えておられるか、俺にはさっぱりだ! こっちはミヤト・アカマツをどうにか王都へ連れてこなければならないのにっ……! 呑気に見合いの話などしている場合ではない!」
「あら、策はもううっているのではないのでしたか?」
「………ああ、一応な」
ノルワッシュは上着のポケットから一通の手紙を取り出す。
王都の刻印が押された封筒にはミヤト・アカマツ宛てと記されていた。
「精華に頼んでこれをミヤト・アカマツに渡すようにしている。流石に王都の刻印を押された手紙を無視するようなバカなことはしないだろう」
「ちなみにその手紙はいつ頃出したのですか?」
「一か月前だ……………ん?」
おかしなことに気がつく。
王都からスタイダストまで、ギルドのクリスタルを使えば一瞬でたどり着ける。
一か月待っても来ないというのは流石に妙な話だ。
「…………まさか」
「その、まさかではありませんか?」
ノルワッシュは深いため息を吐いて、もう一度手紙を書いて送ることにした。
今度は郵便を使って。
「それとお兄様、『彼』は見つかりそうですか?」
「見つからないから馬のをここへ呼び出す策なのだ。王も焦っている。早急にどうにかしなくてはならない」
『彼』――この事件の元凶であり、エルニアドでもっとも危険な人物。
「急がなくては…………」
ノルワッシュは手紙を書くため、自室へと歩きは始める。
十日以上待たせて本当に申し訳ございません。
パソコンが壊れたり、そのせいで焦って書けなくなったり、いろいろありましたがやっとできあました。
てことで新章の『王都決壊編』です!
よろしくお願いいたします!




