58話 女子会、結婚を語る
短くてすません!
「あたし思うんだけど、ミヤトくんって誰が好きなの?」
セルフィがまるで雷鳴の如く話題を振った。
この話題に敏感なのはもちろんアスティアとティナである。
一瞬だけ肩を震わせ、セルフィの視線から逃げるように目線を逸らした。
「ああ、確かに。ウサギ屋ってスタイダストに来てもう四年目なんでしょう? 浮いた話の一つや二つないわけ?」
「あ、あるわけ無いじゃないですかツバキさん!」
「そ、そうですわ! ミヤトは商売で忙しいのですから!」
二人の反応に面白かったのか、ニンマリ笑うツバキ。
セルフィも口元を押さえて笑いを耐えているようだ。
「もうお互いに言っちゃいなよ、誰が好きなのか」
「え? どういうことですの?」
アスティアは気づいている。ティナが宮兎に対してどのような感情を抱いているのか。
しかし、ティナは知らないのだ。アスティアが宮兎に好意を寄せていることに。
コレはいい機会だ。互いにライバル宣言して、どちらかさっさとくっ付いてしまえばいいのに――とツバキは思っていた。
だが、アスティアは中々会話を始めない。
呆れたのか――いや、無神経なのかレジニーがお茶を一口飲んでから、言葉を発した。
「アスティアちゃんとティナちゃんはミヤトが好きなんでしょう? 隠す必要なんて無いわ」
「ちょ、レジニーさん勝手に言わないでください!」
「…………アスティアも、ミヤトを?」
ティナにとってはこれほど重大な情報は無いだろう。
まさかアスティアがミヤトのことを好きだったなんて――と驚いているのはそれこそティナだけであって、残りのメンバーはほぼほぼ勘付いていた。ナノでさえ気づいていたのだから、アスティアは自分の気持ちを隠すのが苦手らしい。
一方の二人はどのような反応をすればよいのか分からず、顔をお互い見つめあい、黙ってしまった。
レジニーは溜息を吐くと、もう一度お茶に口をつける。
「何故、深刻に考えるか私はわからないわね」
「だ、だって、同じ人を好きになるということは、わたくし達のどちらかは――」
「その考え方が私には分からないといってるのよ」
レジニーは突如立ち上がると、机の上にヒラリと乗った。
もう、お行儀が悪いとか言える雰囲気でもなく、ツバキはどうでもよさそうに彼女を見て、ナノはおろおろ、セルフィはゲラゲラ、残りの二人は顔が引きつっている。
「いい二人とも? 忘れていると思うけど、私もミヤトを愛しているは。ええ、誰よりも深く、真剣に、心臓を抉りたいほど!」
「それは物理的な愛なの?」
「ツバキちゃん、愛って単純だけど難しいのよ」
ツバキのツッコミにはセルフィが答えた。
レジニーは既に自分の世界に入り込んで、外からの声は聞こえていないようだ。
「まず、一夫多妻を二人は考えないのかしら?」
「え? いや、だって……王族でもない私達が重婚など認めてもらえるはずが……」
「アスティアちゃん知らないの? エルフは一夫多妻制が認められているのよ」
彼女は平べったい胸を張って、二人に言った。
確かにエルフは認められているが、アスティアとティナからすれば自分達は人間で、宮兎も同じである。
レジニーの真意がはっきりと伝わっていない。
「わたくし達は人間で、エルフ族では――」
「私、エルフ族なんだけど」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「え? 一体どいうこと……なのでしょうか?」
ナノだけが固まった回りの少女達をみて不安そうに呟いた。
いやはや、そうだ。忘れてはいないだろうか。レジニーは正真正銘、エルフ族である。
二十歳の年齢に対して、見た目が十三歳ほどの理由がこれである。
人の約二倍――二百年の寿命を持つエルフはその老い方も人の二倍遅い。
いずれ彼女が四十歳を迎えると二十歳の見た目に成長するのだが、それはまだまだ先の話。
話を戻すと――レジニーは重婚を認められているのだった。
「つまり! 私とアスティアちゃん、ティナちゃん、ミヤトが結婚すれば万事解決! 皆幸せ! ハッピーエンド!」
「ちょっと待ってください! 私がれ、レジニーさんと結婚!」
「わたくしも!?」
「あら、仕方ないじゃない。皆で幸せになるには、私と皆が結婚して、ミヤトを平等に愛でる事ができるのよ? 私と結婚すれば、ミヤトと結婚した事と同じよ」
「いや、違うでしょ」
ツバキが冷めたツッコミを入れた。
だが、これも華麗にスルーされてしまう。
ティナがバンっと机を叩き、立ち上がる。
これには周りも「流石に怒ったか?」と少しだけ心配した。
「納得いきません! ミヤトとレジニーさんが結婚すれば、絶対不平等が生まれるはずだわ! 独り占めする気ですわね!?」
「あ、そっちなんだ」
今度はセルフィがずっこけた。
重要な所はそこではないのでは? とツバキとセルフィ、ナノは口に出して言いたいが、それよりも先にレジニーが弁解を始める。
「いいえ。家長たるもの、皆平等に愛してみせましょう。安心して、私は女の子を骨抜きにするの得意だから」
「…………ねえレジニー」
「どうかした、ツバキちゃん?」
「結局アンタって女の子が好きなの? そっち系の人なの?」
「勘違いして欲しくないわ。私は男も女も関係ない。愛せるものは全て愛してみせる。別に人間だろうとエルフだろうと、鬼族だろうと、ドワーフだろうと、機械族だろうと、魔物だろうと、悪魔だろうと、天使だろうと、神様だとしても、愛を与えたい、与えられたいと思ったら、私のハーレムには参加してもらうわ」
「…………さようですか」
何を言っているのか理解できなかった。それでも返事を返したツバキは頭を抱えた。
ようは好きになったものが男だろうと、女だろうと、人かそれ以外でも関係ない。全てを愛することができる――そう言っているのだ。
「ふ、深いですね?」
「ナノちゃん、多分何も深いことは言っていないよ」
感動(?)しているナノにセルフィは一応言葉を返す。
レジニーは本能で行動するタイプだ。今までもこれからも。
セルフィとツバキが暴走の矛先が今現在自分達に向いていないことを神様に感謝して、アスティアとティナに同情したのは言うまでも無い。
レジニーと言う少女は色々と規格外なことが多すぎる。
「さあ二人とも! ミヤトと結婚したいなら私と結婚しなさい!」
「い、いやです! それに私はまだ……け、結婚とか早いかと……」
「わたくしだってまだ早いですわ! 冒険者として歩み始めたばかりですのに!」
「むう。でも、素直になったら同かしら? 二人とも優しいから、ミヤトを譲ろうなんて考えていないでしょうね? そんなこと、私が絶対に許さない」
レジニーにとって、全員が幸せになる方法はこれしかないと思っている。
宮兎がどのような反応をするかは分からない。だけど、彼もまた二人を悲しませるようなことはしたくないはずなのだ。むしろ――彼は二人を選ばない選択をすると考えている。
ミヤト・アカマツと言う人間はそいう優柔不断で、決断事に弱い。
優しいゆえに、残酷な場面もある。
それを回避することを、レジニーは望んでいた。
「大丈夫! ミヤトの子供は一人一人ずつ! 皆家族! 絶対に幸せにしてみせるから!」
「こ、子供の話はまだ早いです! 私は、その……ミヤトの赤ちゃんは、なんというか……うう」
「あ、赤ちゃん………。い、いいやダメよティルブナ! 惑わされちゃダメ!」
「顔を真っ赤にする二人が可愛いから、今すぐ裸で襲いたい」
「ダメに決まってるでしょう! あ、ちょっと! レジニー脱がないで!」
服を脱ぎだして襲い掛かってくるレジニーから逃げ出す二人と、服をもって追いかけるツバキの鬼ごっこは、心配で部屋にやってきたシイラによって食い止められるのであった。
※お知らせ
猫之宮折紙です。
本日、夕凪姫と魔物図鑑へ投稿するはずの話を、寝ぼけていたのかこちらの100ゴールドショップウサギ屋へ間違って投稿しておりました。
友人からの怒涛のメールで起こされて、慌てて入れ替えております。
読者の皆様を混乱させてしまったことに深くお詫びを申し上げます。
また、メッッセージや感想でお知らせをしてくださった読者の皆様に感謝の言葉をこの場をお借りして申し上げます。
ありがとうございました。
引き続き、本作品をお楽しみください。