57話 女子会、巨乳シスターが語る
時刻は既に深夜をまわっている。
少女達――と大人数人は大きな円卓を囲み、本日のお題を早速話すことにした。
「で――ナノちゃんは誰が好きなの?」
「ストレートすぎて言いづらいですよ、レジニーさん」
ナノの正面に座るレジニーはニヤニヤ笑いながら頬杖を付いている。
右隣に座るアスティアは溜息交じりに注意したつもりだったが、お構いなく話を続ける。
「だって、修行のたびにさ『あの人に……近づかなきゃ!』って小声で言うのよ? 私に気になっちゃって夜も眠れないわ」
「先生ぇ! は、恥ずかしいですよ……!」
顔を真っ赤にして顔を伏せる。
ナノは両手で頭を隠すようにしているが、どうにも上手くいっていない。
レジニーを含め、回りの少女達は(かわいいな……)と思いながらもこれでは話が進まないことを危惧した。そこで、ツバキが名案を思いつく。
「最初からナノだと言い難いでしょ? なら、ここは恋愛経験豊富な大先輩に初陣をきってもらうのが吉なんじゃない?」
「恋愛の……」
「経験が……」
「豊富な……」
「人……………」
「…………………あ、あたし!?」
視線は一斉にセルフィへと向けられる。
それもそうだ――この場で確実に恋人がいる人物は彼女一人しかいない。
ただ、恋愛経験が豊富かどうか問われれば本人は否定するだろう。アスティアの恋愛相談の時は大きな胸を張って「任せろ!」と言っていたが、今では随分そっち方面は大人しくなっている。
「セルフィ、私記憶にあります。『恋愛のことならお姉ちゃんに任せなさい』って言ってました」
「言ってない! アスティア、お姉ちゃんそんなこと言ってないよ!」
「あら、わたくしにも言っていたわ。全く同じセリフで」
「だからそんなこと言ってないでしょ!」
「セルフィ姐さん、兄貴といつもウチが見ていないところでチュッチュしてるから。経験豊富だから」
「ツバキちゃんもやめてぇ!」
「ふふふふ、とうとうセルフィと私の愛の関係がバレて――」
「レジニーちゃん、流石にそれはマズイ」
ひとまず全員落ち着くまで待った。
「実際、この場で恋人がいるのはセルフィだけなんですよ? 私達はその……いわゆるまだまだひよっこで、恋愛とはどのような物なのか話してもらいたいだけです」
アスティアの言葉にセルフィは困ったように頬をポリポリとかいた。
「うんー。お姉ちゃんは話すより今日は聞く側と思っていたからね………。しょ、しょうがない! お姉ちゃんが皆耳が塞ぎたくなるほどアツアツでラブラブなノロケ話を聞かせてあげる! いい? 覚悟しなさいよ!」
セルフィは高々に宣言して、机に片足を乗せる。
立派な姿に自然と拍手と歓声が沸き起こった。
「ゴホン! ええと、まずは朝は私がいつも起こしに行っているわ」
「え! 寝坊のセルフィと言われたセルフィが!?」
「アスティア、お姉ちゃんのお話に割り込まないで」
アスティアが驚くのも無理は無い。【寝坊のセルフィ】と呼ばれるのは数々の伝説を残しているからだ。
朝、お祈りの為に冒険者や教徒達が教会へやってくる。
セルフィの所属するノスティノン教会ほどの規模になれば、シスターが交代制でお祈りをしてくれるのだ。
神のシステムに干渉できるシスターからのありがたいお言葉を頂くために、平日は大勢の人々が教会へ朝から足を運ぶ。
そんなある日、セルフィがお祈りの当番の時――寝坊をしたのだ。
すぐに代役を立てたので、さほど問題にはならなかったのだが――
「神様が起こしてくれないのが悪い」
などの発言により、一日中説教された話はシスター達の間で有名である。
神すらも目覚まし時計にする彼女が、キキョウのために早起きをするなど前代未聞のことなのだ。
「この話は本当よ。ウチも毎朝会ってるし。兄貴の部屋でナニをしてるかは知らないけど」
「もう、ツバキちゃんったら! お姉ちゃんとキキョウは健全な恋愛をしてるの」
「では、どのように起こすのかしら?」
ティナの質問に何故か頬を染めてセルフィは少し俯く。
ただ、顔がニヤニヤしていて恥ずかしがっているのか、それとも喜んでいるのか、なんともいえないリアクションである。
「どうって、まずはキキョウの寝ている布団にもぐりこみます」
「はい、ストップ」
ツバキが待ったをかける。
ナノはおろおろとして右、左と首を横に回して状況がつかめていない。
「どうして兄貴の布団にもぐりこむのかな?」
「だって、キキョウったら寝ぼけて私のこと抱きしめてくれるし。ぎゅってしてくれると暖かいの」
「んなこたあウチも昔一緒に寝てたから知ってるよ! やっぱりナニやってるじゃない!」
「やってないわよ! あたしはただぎゅっと抱きしめられるのが好きなだけ! キキョウの胸元に顔を埋めてスリスリするのが大好きなのよ!」
聞いていて頭が痛くなりそうだ――ここにいる全員が思った。
いや、レジニーはそうでもないようだ。流石と言うべきか。
ようやく理解できたナノは顔を再び真っ赤にしている。
「うう……セルフィさんはやっぱり、大人です」
「ナノ、惑わされてはダメよ。アレは大人の皮を被った、甘えたいだけの子供」
「むう、失敬な。どーせティナちゃん羨ましいって思ったんでしょ?」
「そんなことっ………あ、あるわけないですわ……」
「ほんとかなあー?」
(大分セルフィはティナさんに意地悪ですね…………)
お互いセルフィとティナは付き合いが長いので、コレぐらいのことは毎日言い合っている。
なんだか本当の姉妹のように口喧嘩をするので、アスティアはおかしくなって微笑む。
「アスティアが笑ってる! 絶対お姉ちゃんのこと見て笑ってるよこの子!」
「いえ、ただ本当に二人は仲がよろしいのですね」
「あたしとダーリン?」
「違いますよ。セルフィとティナさんがです。本当の姉妹のようです」
「わたくしは嫌よ、こんな姉は持ちたくないわ」
「ええー。人生楽しい方が絶対良いのに。無理に思いつめると体に毒よ?」
「貴女は気を抜きすぎなのです」
ティナはこう口にするが、彼女の兄妹達は皆スタイダストを離れ、会う機会がほとんど少ない。
この間帰って来たガレウスとリレンズですら、満足に会話すらできなかった。家族であるならもっと話したり、甘えたり、色々なことをするものだと――それを体験できていなかった。
そんなティナにとって、セルフィは正真正銘姉代わりである。
となるとセルフィはアスティアにとっても姉であり、ツバキにとっても義姉である。
三人の妹を持つ立派な『姉』なのだが…………おおよそ、三人から『立派』といわれることはそうそう無いだろう。
「で? 続きがあるんでしょう? 私はまだ全然興奮していないわ」
「その言い方おかしいでしょ……」
レジニーは他のメンバーと違い、余裕のようだ。これぐらいの甘い話では、日ごろ彼女が行っている行為はまだまだ雲の上。
その場で裸になったり、血をすったり――兎にも角にも常識人が『気持ち悪い』と思う行動を平気で行う『精華』のレジニー。異名からはかけ離れた少女。
常識人代表として、ツバキがツッコミを入れておく。
「まあ、その後はほっぺをぷにぷにしたり、起きたダーリンの唇を奪ったり。勢いそのまま――」
「ストーップ! まだアスティアは十六歳! ティナもナノも子供! 姐さん落ち着いて!」
止めなければどこまで話していたのだろうか?
「いやー、失敬失敬」
絶対にセルフィはそんなこと思っていないだろう。
何はともあれ、ツバキはこれ以上しゃべらせることは危険だと判断しセルフィの発表は幕を閉じた。
正直に言って、アスティアを含めレジニー以外は顔が真っ赤である。
子供だから知らない――と言うこともなく、ある程度の性知識は皆知っているのだ。
レジニーから言わせれば「ママゴト」でも、彼女達にとっては刺激が強すぎる。
「はあ……この女子会、先が思いやられますね」
アスティアの悲痛な言葉は、今の現状を物語っているのであろう。
では――次だ。
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