56話 女子会、戦う
新年あけましておめでとうございます!(遅い
今年最初の投稿ですね!
どうぞご覧ください!
その日の夕方。一泊分の荷物をリュックに詰めて、アスティア、セルフィ、ナノ、そしてツバキはアルムント邸まで来ていた。
とは言え、まは中には入っておらず、玄関にすらたどりついていない。豪邸と呼ぶに相応しい巨大な門が四人を通せんぼしていた。
「セルフィ……どうやって中へ入るのですか?」
「おっかしいな。シイラちゃんが迎えに来てくれるって話だったんだけど」
「シイラ?」
アスティアと同じように残りの二人も聞き覚えの名前に疑問を持つ。
だが――ツバキは思い出したようにはっと表情を変えた。
「セルフィ姐さん。もしかしてシイラはアルムント家が誇る戦闘メイドの長、シイラ・ヴァレムートのこと?」
「おお、ツバキちゃん物知り。そうそう、あたしも片手で数えるほどしか面識はないんだけれど、そのシイラちゃんで間違いないわ」
「な、なんですかその物騒な通り名は…………」
これまた聞いたことの無い単語――「戦闘メイド」と言われてアスティアは困惑する。ナノも良くわかっていないからか口をなかなか開かない。
セルフィは大きな胸を張って、何故か自慢げに話し始めた。
「ふふーん、アルムント家の使用人は緊急事態に備えて独自のレベルアップ訓練を行っているわけ。その中でも一際戦闘能力に特化したメイドを【戦闘メイド】って呼んでるの。去年からメイド長を勤めるシイラちゃんはここ数十年で最強と呼ばれたメイドよ」
「…………あのーその人、レベルはいくつなのでしょうか?」
ナノが控えめに手を上げて質問した。
冒険者でもない人間が強い秘密を純粋に知りたいようだ。
そもそも、冒険者以外の人間――例えば傭兵はメインかサブジョブに【傭兵】の職に就かなければならず、覚えられるスキルも少ない。
拠点を持たない人間が傭兵になることは珍しいことではない。
傭兵のうまみと言えば、ギルドでは決して紹介されない仕事――多額の賞金と危険な仕事。
ギルドのサポートも無いので、ベースキャンプの設備もない。
だが、リスクが大きければ返ってくる恩恵も大きい。
「確か去年、すでに300ぐらいだった気がするわ。一応、ティナの師匠に当たる子だし、強いのは間違いないわ」
「ティナさんの師匠…………」
ティナの実力は誰もが知っている。デーモンズ・オーガとの戦いでさえ、彼女は負けを認めなかった。それほど強気なティナの師匠となれば、かなりの熱血講師に違いないとアスティアは思った。
すると不意に門がゆっくり開きはじめた。この門はかなり巨大な物で、鉄格子などではなく、鉄で作られた物だ。鮮やかな紋章が描かれている。
これはアルムント家の家紋らしいのだが、それが綺麗に真ん中から開き、中から二人の女性が出てきた。
一人はティナ――もう一人は、アスティアが見たことも無いメガネをかけた女性だ。
その女性の特徴は、やはり身に纏っているメイド服だろう。濃い青色の髪を一つにまとめ、後ろから右肩前へかけている。メガネをかけている目がきりっとして、クールなイメージが強い。ティナの後ろを歩き、四人の前で頭を下げる。
「皆さん、お待たせして申し訳ありません」
「大丈夫ですよ、ティナさん。えっと、後ろの方は?」
ティナが後ろを振り向く前に、メイドは口を開く。
「本日はアルムント邸にお越しいただきありがとうございます。私はティナお嬢様の教育係とメイド長を務めさせて頂いているシイラ・ヴァレムートでございます。以後お見知りおきを」
もう一度深く頭を下げたシイラに対し、アスティアとナノ、ツバキが同じように頭を下げた。セルフィだけが腕を組んで首をかしげた。
「時間に厳しいシイラちゃんが遅れてきたってことは何か緊急事態でもあったのかしら?」
「セルフィ様が気にするようなことじゃありません」
「むう。ひどい言い方じゃない?」
「無駄よセルフィ。わたくしも朝から部屋から出るなって言われて。理由を聞かれても同じことばっかり繰り返して……。遅れた理由はわたくしも迎えに行くってことになって準備に手間取ったの」
「お嬢様も心配は要りません。本日は楽しい時間を過ごしていただけるように、我らメイド隊が全力でお世話させていただきます」
「メイド隊って…………」
ツバキは思わず呟いてしまった。メイドのいる生活をしたことがあるのはティナだけで、そもそもメイドとは貴族や王族に仕える特別な職業だ。
簡単になれるわけではなく、それなりの技術が必要となってくる。厳しい訓練を受けてメイドとは立派に仕事ができるようになる――らしい。
「それでは早速お嬢様のお部屋へご案内いたします」
後ろを振り向いてスタスタと歩き出す。
残された五人は心配そうな表情でシイラの背中を見つめる。
「ねえ、ティナちゃん。シイラちゃん今日はやけにピリピリしてない?」
「そうなのですわ。シイラだけではなく、他のメイドも落ち着きが無くて……」
小声で会話をする二人に気づいたのか、シイラが足をとめてちらりとこちらを見つめる。すぐさま離れて何事も無かったかのようにわざとらしく苦笑いをした。
「立ち止まっていては時間がもったいないですよ、お嬢様」
「え、ええ! そうですわね。ほら、皆さん行きましょう」
仕方なく足を進める五人は屋敷の中へと入っていった。
◇
「では、ご夕食の準備ができたらお呼びいたします」
「ご苦労様シイラ。下がっていいわ」
「かしこまりました」
シイラが部屋から出て行くと、ティナは深い溜息を吐いた。
「はあ……。今日はなんだか屋敷の中が騒がしい気がするわ。お父様もいないし、何も無ければよいのだけれど」
「いざとなれば私達でどうにかできますよ。それにしても、ステキなお部屋ですね」
「ありがとうアスティア」
アスティアが褒めたように、ティナの部屋はとても優雅さで満ち溢れていた。
家具や、机の上に置かれている雑貨の一つ一つが気品を放っており、この部屋だけ別空間のようだ。
鑑定士のツバキが目を光らせて、カーテンへと近づく。
「はえー、マグマグビートルの繊維をカーテンにしているのか……。流石一流のお嬢様。物が違うわね」
「…………ツバキは見ただけで分かるのですか? 物の性質――素材まで?」
「流石にそれは鑑定アイテムがないと無理。ウチの経験というか、今まで見てきたアイテムに照らし合わせて言っただけ。大したことないよ」
照れたように言うツバキだが、それはそれですごい事だ。
彼女が今まで鑑定してきたアイテムの種類は万単位だろう。
素材から完成されたアイテムまで、数々の品物を見定めてきた。
そんなツバキだからこそできる芸当なのだ。
「カーテンはいいから早速話しましょうよ」
無断でティナのキングサイズベッドへ体を放り出して、セルフィがごろごろしながら言った。大人が五人横に並んでも寝れるほどの大きさである。
そもそも部屋が広すぎるのだ。部屋と言うより『家』のような感覚である。
「セルフィ……貴女は本当に最年長者ですの? 別にわたくしは構わないですが、他人のベッドに無断で――」
「まあまあティナちゃん。今日はこのベッドで皆寝るんだからさ」
「それもそうですが……」
実は――普段からティナがこのベッドで寝ているわけではなく、今日のために態々新調してきた物である。
内心、これだけの大人数で寝泊りをすることが始めてのティナは浮かれ気味である。
どのようにもてなすべきなのか、どの部屋で皆を寝かせるべきか、むしろお話をするのなら客室を用意するのではなく一緒の部屋で寝れるようにすればいいのでは?
――などなど、考えた結果がコレである。
すっかり忘れているようだが、はじめは客室に寝てもらうとティナは前日に言っていた。そんなことは既に全員忘れているので、ティナにとってむしろ好都合である。
「でも、まだ夕飯前ですよ? 何か別のことをしませんか?」
アスティアの提案にならどうしよう……と考える一同。
――すると。
「あらあら、なんだか楽しそうなことしているのね」
『!?』
声――聞き覚えがある――この場ではできるだけ聞きたくなかった――声だ。
声のする『上』を全員が一斉に見た。フワフワと浮き、不気味な笑みを浮かべ腕を組む少女。
人は彼女を――『精華』と呼ぶ。
「れ、レジニーさん!?」
「先生! どうしてここに!?」
「あら、可愛い女の子がコレだけたくさん集まるイベントがあるのなら、私が行くのは当たり前でしょう? それに愛弟子の恋愛事情にも首を――ゴホン、ちょっと助言もしたかったところなの」
「最後の絶対嘘だぞ」
アスティアとナノが驚愕の叫びに答えたレジニー。
ツバキは冷めた目で彼女のセリフを一刀両断した。
「冷たいのね、ツバキちゃん。うふふふ、でもそんな所も可愛いわよ」
「レジニーちゃん、ひとまず降りてきたら?」
「そうね。では、お言葉に甘えて」
スカートの裾を持ち上げ、お辞儀をすると、そのままの姿勢で降りてくる。
すーっと、幽霊のように、いやはや彼女は亡霊魔術師であって幽霊ではないのだが、それでも五人は寒気を覚える。
毎度毎度壁や床、天井をすり抜けてやってくるのだから心臓に悪い。
あと、もう少しで足が床につく――そう思った瞬間だった。
「お嬢様! 頭をお下げください!」
扉が勢いよく開き、廊下からシイラが飛び込んでくる。
彼女の両手には黒く輝くガントレットが装備されている。
右腕を大きく振り上げて、レジニーに対して頭を狙い放った。
ニヤリとレジニーは笑う。彼女に殺意を向けることで――攻撃は全て無効化される。
レジニーのゴスロリ服からパリンパリンと何かが割れる音がした。
同時に、赤色のスライムのようなものが、スカートの下、袖、様々な所から現われ、レジニーをシイラの攻撃から壁となって守った。
拳と液体が交わると同時に、稲妻が走る。
部屋の中を不気味に何度も照らす。
アスティアは見たことがある。レジニーが扱うあの赤色の存在を。
「あれは【血の舞踏会】っ!」
「先生の【自動防衛SSS】によって威力が上がっているスキル……ですね。赤色の液体は血液――先生の得意技……! 話には聞いていましたが………すごい!」
「わたくしはレジニーさんが学園で模擬戦をしていた時に見ましたが……これは何事ですの!?」
五人はすぐさま二人から離れて身を固める。
ティナがシイラに向かって事情を聴くが、耳には届いていないようだ。
「メイドにしておくには惜しい人材ね。どう? 私のハーレムに加わらない?」
「黙れ侵入者! アルムント家の敷地に無断で足を踏み入れるなど、精華といえ許しません!」
「熱くなっちゃって、可愛いわね」
攻撃を壁が跳ね返し、シイラは空中で一回転すると、五人の目の前で着地した。
この距離なら声が届くだろうとティナはもう一度シイラに向かって叫ぶ。
「シイラ! この騒ぎは何事ですの! 事情を説明しなさい!」
それでもシイラは後ろを振り向かず、レジニーを睨みつける。
「お嬢様、申し訳ございません。今朝から精華の者が屋敷に侵入し、排除しようとしていたのですが、中々に手こずってしまい……。お嬢様達の安全とアルムント家の平和を守るため、秘密にさせていただいていました」
「あら、きちんと挨拶したじゃない。朝一番に貴女の寝室で――」
「天井から首だけ出して『ごきげんよう』の挨拶が、どれだけ怖かったかっ………!」
(あー、そりゃ怒るよね)
シイラは思い出したのか、涙目になりながらプルプルと震えている。
セルフィは半笑いで同情しながら、その背中を温かい目で見守る。
「朝から騒がしかったのはレジニーさんの所為だったのですね」
「心外よティナちゃん。別に私は騒ぎを立てようとはこれっぽっちも思っていないわ。あわよくば可愛いメイドさんのお着替えシーンを脳裏に焼き付けようなんて全然考えていなかったから」
「五月蝿い! 今ここで私が成敗し、お嬢様とご友人方を守ってみせる!」
「やれるものならやってみなさい。貴女が負けたら今晩は一緒に寝ましょう? 大丈夫、優しく手ほどきしてあげるから」
「ふ、二人とも落ち着いて――」
「覚悟おおおぉぉぉっ!」
こうして、一時間ほどシイラとレジニーは部屋の中でドンチャン騒ぎしたあと、ティナの逆鱗に触れ、勝負はお預けとなった。
改めまして新年明けましておめでとうございます。
去年は書籍化発表や、キャラデザ公開など、色々なことがありましたね。
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また、ちゃっかり活動報告で皆さんお待ちかね、レイン・ゴースト達のキャラデザも公開しておりますのでご確認ください!
作品やキャラデザの感想もお待ちしております!
ではでは!