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43話 青年、欠片を語る

ダラダラ進めてすみません。

次回で双頭の流星編は終了です。

次の章はアナザーストーリーということで宮兎とはちがう視点からウサギ屋を見ていこうと思います。ギャグ多目にいきたいですね。

 別荘に戻ると、いつもの格好に着替えて、宮兎はセルフィの部屋で【双頭の流星】と起こった出来事をキキョウ達に話した。部屋には現在、宮兎、アスティア、セルフィ、キキョウの四人だ。


 ツバキは昼食のため、ティナ達と楽しく食事をさせている。いや――楽しいかどうかは定かではない。その場に双子が混じっているからである。ワイワイ騒げるはずもなく、きっと葬式のような食事をしているはずだった。


 宮兎は額に右手を押し当てて――例のブツに対して相当悩まされているらしい。


「ミヤ坊、その話は本当か?」

「間違いないです。星印の入った黄金の歯車。間違いなく【ル=デウス】の部品です」

「……ねえ、ミヤト。その……る、でうす? とは結局、魔物なのでしょうか?」

「いいえ、違うわ」


 返事を返したのは意外な人物――セルフィだった。この場で黄金の歯車について知らないのはどうやら1人だけだったらしい。珍しいセルフィの神妙な顔つきに、アスティアは不安で胸が痛くなる。思わず胸の前で両手をぎゅっと握り締める。


「【ル=デウス】……この名前は【御伽噺】に出てくる神様の名前なの」

「神……さま?」

「ええ。スタイダストには存在しない空想上の神――それが【ル=デウス】。何千年も前から語り継がれた物語に出てくるの。タイトルは【異界の扉を開く者】……」


 宮兎がピクリと反応する。アスティアは彼の異変に気づいたが、大したことではない――そう、思い込んでしまい気にすることはなかった。だが――それは間違いである。宮兎がこのタイトルに反応した理由はきちんとあったのだ。


 【異界の扉を開く者】――異界とはそのままの意味で【異世界】――扉とは、向こう側へ続く【道】――者、それは紛れもなく迷い込んだ【異世界人】――この物語はスタイダストの住人が全く知らない別の異世界へ飛ばされる物語なのである。


 アスティアが知らないのは、これは【本】ではなく、【うた】だからである。冒険者達の間で謡われ続ける夢物語――彼らはダンジョンやセーフベースで夜を明かす時、パーティーでさかずきをかわし、肉を食べ、踊りだす――詩を奏でてクエストの成功を祈る。


 物語の主人公はどんな困難にも立ち向かい、諦めることなく、希望を捜し追い求める――それが【異世界の扉を開く者】。


「物語の中で【ル=デウス】は混沌の神として登場するわ。その姿は【無】であり【有】である。つまり、どんな姿形にでも変えられるってこと」

「【ル=デウス】は最後に巨大な機械仕掛けの砲台に姿を変える。主人公は見事【ル=デウス】の解き放つ砲弾の雨を潜り抜け――神を倒した。俺もミヤ坊も――冒険者なら生きている中で一度は耳にした話だ」

「…………その後は? 主人公は【ル=デウス】を倒してどうなるのですか?」


 アスティアの質問にキキョウは答えられない。宮兎は腕を組んで、目を閉じた。


「分からない」

「え?」

「物語はここで終わってるんだ。このあとその世界がどうなったのか、主人公はどうしたのか……誰も知らないんだ」


 再び開いた目には悲しみを帯びていた。宮兎は自分自身を【異世界の扉を開く者】の主人公に、ある時から重ねていた。似たような境遇で、似たような心情を持った主人公――違うとすれば、主人公は世界を楽しめなかった。いつだって絶望が襲い掛かり、希望は自分の中にある諦めない心だけ。


 それに比べて宮兎には【仲間】――アスティアや冒険者としての友、いつだって誰かがいてくれた。


 彼は――主人公はいつも1人だ。


 宮兎は――【赤い影】になろうとも、アスティアをはじめ、【赤松宮兎】に戻れば1人ではなかった。


 重ねていたとは言え、まだまだ宮兎には余裕がある。心の拠り所が存在していた。そんな自分を彼に投影するなんて――失礼だと宮兎は感じた。架空の人物だ。それでも感情移入は容易かった。


 だって――


 だって――似ていたのだから、仕方がなかった。


 宮兎は溜息混じりに声を出した。


「……まあ、つまりだな。あの双子が持っている【黄金の欠片】ってのは【ル=デウス】が倒された時に世界中に散らばった【本体】の破片だ。物語に出てくるアレと全く同じ形をしている」

「待って下さい! では、架空のアイテム――偽物かもしれないアイテムの為に宮兎は今から戦うのですか?」

「それがね、アスティア……【架空】じゃなかったのよ」

「え?」


 セルフィはとても悲しそうに、とても残念そうにアスティアへ答えた。全く予想していない返答に体が固まる。架空ではない――つまりは物語は本物で――【ル=デウス】は実在し――黄金の歯車を集めることができれば――。


「今からおよそ500年ほど前かな。王都――今ほど栄えていなかったらしいのだけど、昔では一番商人が集まる場所には変わりなかったの」


 王都【リバレイン】――現在でもスタイダストの次に多くの冒険者が所属し、ギルドの本部を設置している。冒険者だけではなく、貴族達も数多く暮らしている。そこへ多くの商人が取引のために集まるのは当たり前のようなことで、今も昔も大差はない。


「商人達はどこで仕入れたかも分からない怪しいアイテムを冒険者に売っていたわ。その中に――【黄金の欠片】がいくつか取引されていた」

「それが本物という証拠はない、私はそう思いますが」

「もちろん全部が本物じゃなかったわ。でも――その中のたった1%は【本物】だった。【欠片】を手にした冒険者達は次々と不思議なスキルを手に入れていった。その中の1つ――アルムント家に代々伝わる【スターダスト・ライジング】も噂じゃ【欠片】のスキルらしいわ」


 この四人は実際に【スターダスト・ライジング】を目にした人物はいない。だが、スタイダストの人間ならその奥義の名は誰もが聞いた事がある。宮兎も知っていた。通常のスキルとは違い、【血族】のみに遺伝するスキル。


「となると、双子が持っていた【欠片】は【スターダスト・ライジング】の【鍵】ってことなのか?」

「ミヤ坊の推測も一理ある。だけどアルムント家の秘宝を簡単に持ち歩かせるとは考えにくい」

「……なら、あの【欠片】は全く別の欠片ってことか」


 現在――確認されている欠片は全部で【9個】である。そのほとんどが王都の国立図書館の【閲覧禁止書庫区】のさらに奥――誰も知らない場所へ保管されている噂がある。やはり噂なので信憑性は薄いが、欠片の存在を王国の魔術研究員達が認めていることから、本当ではないかと思われている。


「欠片がどんな力をもたらすか分からない。なんせ【神】の一部だからな。変なことに使われる前に、できれば処分したい」

「え? 壊してしまうのですか?」

「欠片1個で戦争が起きるかもしれないんだ。ならいっそ、なくしてしまったほうがいい。それに偽物の可能性だってある。闇討ちして『偽物でした、ごめんなさい』じゃ状況を知らないガラドンドに殺される」


 過去に欠片をめぐって戦争が起こった。戦勝国である王都が多くの欠片を持っている訳は語る必要はない。


「ねえミヤトくん。欠片が大切なのは分かるけど、君勝てるの?」

「わかんね」


 セルフィの質問に両手を小さく挙げて宮兎は答えた。レベル500ということを知らないセルフィならではの質問だろう。アスティアとキキョウならこんなことは聞かない。だが、「勝てる」または「大丈夫」とは答えずに「分からない」と意思を示したことに2人はちょっとだけ不安を感じる。


「ミヤ坊、本当に大丈夫か?」

「相手がただの冒険者なら大量の罠でも作って勝手に自滅させれるけど、相手が【双頭の流星】となれば話は別だ。アルムント家の【異端能力者】は正直なところ、勝算は五分五分かな」

「いたん、のうりょくしゃ?」


 初めて聞いた単語にアスティアは反応した。


「リレンズとガレウスのサブジョブのことさ。双子のみに許された【ダブルキャスト】の職業。ティナも言っていただろう? 2人で1人、ヴァルハラの歴史全体を見ても今まで二桁にも達していないジョブさ」

「【双頭の流星】といわれる理由なのですね」


 【二人一役ダブルキャスト】――双子のみに許された【異端】の職業。ダブルキャストの職をもつ冒険者がパーティーを組むことによって、ステータスを上げることが可能である。相性によっては2倍にも3倍にも膨れ上がり、レベル差がある敵にもすぐに順応できる。また、特殊スキルを覚えることもできる。


「キキョウさん、相談があります」

「なんだ?」

「実はアイテムのほとんどを置いてきてしまって……後で買い取るのですこし素材を分けて欲しいと」

「そんなことか。いいよ、気にせず持ってけ。モンスター素材ばかりだから、文句は言うなよ?」

「それだけでも十分助かります」


 キキョウがごっそりモンスター素材を宮兎へ受け渡す。自らのアイテム覧を確認すれば、試作品の水鉄砲や商品がいくつか、他には護身用のナイフ。宝石も持ち歩けばよかったと後悔している。


「俺達も何か食べましょう」

「腹が減っては戦はできぬってね。ミヤトくん、あたしワインのみたーい」

「セルフィ、昼から酒は禁止って言っただろう?」

「ぶうー。キキョウの意地悪。またダーリンって呼ぶよ?」

「公の場でその呼び方はやめてくれ……」


 肩を落とすキキョウと、彼に抱きついて笑顔のセルフィは部屋を出て行く。宮兎とアスティアもついて行く。ぶつぶつと作戦を考えているのか、呟きながら歩き、アスティアは自分も力になれることはないか頭を回す。しかし、できる事と言えば応援ぐらいしか思いつかない。


「……ミヤト」

「ん? どうした?」

「私もなにかお役に立てれば良いのですが、何も渡すこともできず、知識もないので応援しかできませんが、絶対に命だけは大切にしてください」

「心配することないさ。相手も模擬戦だって言ってくれてる。命のやりとりまではしないさ」


 アスティアの頭に右手を置いて撫でる。頭を撫でられたのは久しぶりだ。


「大丈夫――信じてくれ」

「はい」


 それから三十分後――決戦が始まる。

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