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42話 青年、予感が当たる

遅くなって申し訳ありません。


「そうとうの……りゅうせい?」


 宮兎の後ろからひょっこり顔を出したリャーミャが口にした。レイン・ゴースト達もアスティアの後ろから双子を覗き見る。警戒しているのか、彼らは前に出ようとはしない。アスティアは冒険者事情にそこまで詳しくない。リャーミャと同じように首をかしげる。


「【双頭の流星】……こうやって見るのは初めてだ。俺も噂は聞いていたけど――」


 改めて双子の姿を確認してみる。二人ともアルムント家特有のシルクのようにサラサラした金髪だ。ガレウスは耳が隠れるほどに伸ばし、前髪は左眼を覆い隠していた。髪の間から見える右眼は父親であるガラドンドの血が強いのか、ティナと違い透き通る空色の瞳だった。リレンズは肩まで伸ばしきり、ガレウスとは対照的に右眼を前髪で隠している。左眼は同じく空色。


 髪型さえ同じならば区別がつかないほどそっくりである。美形であるからなのか、ガレウスが女装をして、リレンズが男装をしても違和感はないだろう。


 また、身につけている白銀のプレートにも目が引かれた。傷1つ、ついていない防具に彼らの実力が見え隠れする。


「その黒髪……」

「そして黒目……」


 ガレウスとリレンズが興味深そうに宮兎を見つめた。じっと見られていることに少し気分が悪いのか、ピクリと眉を動かした。双子は顔を見合わせて、突然ニヤニヤと笑い出して歩み寄ってきた。彼らに頭を下げていたティナ、デスカント、サマエト、ナノはまるで居ないような感覚で素通りされ、余計に宮兎は双子に言葉にできない不満が溜まっていく。


「ティルブナから話は聞いているよ? 君が雑貨屋――100ゴールドショップ『ウサギ屋』のミヤト・アカマツだね。僕はアルムント家の次男、ガレウス・F・アルムント」

「私が次女のリレンズ・F・アルムント。一応、ガレウスのお姉さんなんだけど」

「そんなことはどうでもいいのさ」

「私達は――」

「僕達は――」

『君と話がしたい』

「…………は、はあ」


 双子らしいコンビネーションで宮兎は思わず後ろへ下がりそうになった。出会ってまだ5分も経っていない。それでも確実に宮兎は双子へ苦手意識を持ち始めていた。


(うわー……面倒くさそう。しかも、嫌な予感も……)


 これが第一印象だった。


 冒険者貴族のほとんどは【実力主義】だ。弱い者には権利はなく、強い者が絶対王者。アルムント家は神の一族であり、ソレの代表格であった。とは言え、古い考えとしてガラドンドの二代前ほどからその主義を取りやめ【強い者は王者ではなく、守護者である】と新しい意義を見出していた。


 ただ――この双子が特殊な存在であり、アルムント家の教えに背をむけ【実力主義】を掲げている。ガラドンドも頭を悩ませているらしい。彼らの実力は確かなもので、【双頭の流星】と呼ばれるようになったのも2人が10を少し過ぎてからだ。才能は長男と長女を超える逸材だった。レベルの上がり方も他に比べて確実に早い。


「……どうも。赤松宮兎――ミヤトで大丈夫です」


 会釈をするとリレンズとガレウスは頷き、今度は隣――アスティアを見つめた。


「こちらは?」

「はじめまして。私はリーリフェル教会の現シスター、アスティア・リーリフェルです」

「なるほどね。いつも妹が世話になっているわ」

「僕達はミヤトくんとアスティアちゃんのことは手紙で知っていたからね」

「手紙?」

「知らないのかい? 君達が【目撃】した【デーモンズ・オーガ】の報告書。アレには君達の名前が入っていたからね」


 リレンズは言葉の最後に、腰に巻いたポーチから一枚の紙を取り出す。文面がこちらに見えるようにして、宮兎とアスティアへ向ける。宮兎は読めないので微妙な反応だったが、アスティアは文章を黙々と読み続け納得したのか「はい、間違いないです」と答えた。


 文章はこのように書かれていた。



 報告書

 原因不明の突然変異――【デーモンズ・オーガ】の詳細、及び討伐記録をここへ示す。

 【デーモンズ・オーガ】は元々【ブラック・オーガ】という固体であり、冬の時期に発生するモンスターである。

 今回、春の終わりに出現したとして【イレギュラー】扱いで調査員が生態の視察へ。

 予定通り【神秘の草原】、E地点でコレを発見。

 数日の調査の結果――この固体は【冬眠】期間を経験しており、目覚める時期が遅れた、もしくは早くなったものと断定した。

 これによりティルブナ・F・アルムント率いるパーティーで討伐。

 レベルアップも確認しており、【ブラック・オーガ】は完全に絶命したと推定される。

 しかし、何かしらの理由で【蘇り】、【デーモンズ・オーガ】へと変異した。

 転移クリスタルの不調により、救助隊の援助が遅れ、独断による救助隊――ミヤト・アカマツ、キキョウ・クチナシ、ジェルズ・ハウリングの3人によってティルブナパーティーは無事に脱出。

 ミヤト・アカマツはアスティア・リーリフェルの【リーリフェル教会】に所属の元冒険者。

 キキョウ・クチナシはグリード・アルベールの【アルベール教会】に所属の現役冒険者。

 ジェルズ・ハウリングは【ハウリングウェポン】のオーナーであり、数々の偉業を残してきた元冒険者――詳細は不要であろう。

 その後、馬で向かわせた冒険者によって残りの3名も救助。

 【赤い影】によって【デーモンズ・オーガ】は討伐。

 だが、目撃者は少数。

 信憑性は低いとされる。

 【ブラック・オーガ】が【デーモンズ・オーガ】へと変異した理由として【不浄の魔力】による急激なレベルアップ、もしくは【人為的】に行われた可能性が極めて高い。

 今後ともスタイダストを中心に調査を続ける次第である。



 とのこと。


「僕達がこの報告書を見て、ぜひミヤトくん率いる3人と会ってみたかったんだ」

「そしてお話を聞かせて欲しいの。【赤い影】――知っていること全て」


 自らの偽名を耳にしてウンザリとした気分になった。ティナは【赤い影】の信者であるが、彼と【戦おう】などとは思わない。しかし、【実力主義】の双子にとって【猛者】であり【強者】でもある【赤い影】とは【競い合いたい敵】であるのだ。


 双子から感じとれる【戦意】は宮兎はもちろん、隣に立っているアスティアだって嫌でも分かった。【赤い影】の強さに興味があるのではなく、【赤い影】の弱点に興味があるのだ。話を聞いたらさっそく全権力を使って探し出すのであろう。そして、勝つ気持ちでいるのであろう。


 宮兎はどのように答えればいいのか分からず一瞬だけ戸惑っていると、後ろでティナが慌てて声を出した。


「お待ちください! そもそも何故、御2人はこの島へ?」

「それはこの島――アルムント家の所有地に僕達が来ちゃいけない理由でもあるのかな?」

「い、いえ! そのようなことは……!」

「ガレウス、ちょっとそれは意地悪では? 私だってお兄様かお姉様がバカンスの途中で乱入してきたら一言文句を言いたいわ」

「それもそうだな。ま、僕達が来た理由は――ミヤトくんの顔を見たかったのもあるし」

「俺の?」


 宮兎からすれば、双子とは全く面識はない。手紙のやり取りをしたこともなければ、ティナとガラドンドを除き、関係者と交流を持ったことはない。つまり――2人のどちらかがミヤトのことを話していたのだろう。


「実はお父様から聞いていたのよ。【我が家の未来を担う男が現われたかも知れぬ】とね。でしょう? ガレウス」

「うん、リレンズの言うとおりさ」

「えっと……意味が分からないのですが?」


 きょとんっとしている宮兎とは違い、言葉の意味をきちんと理解できたティナとアスティアは真っ赤に顔を染め、パクパクと口を開け閉めしている。膝間づいて頭を下げていたサマエト、デスカント、ナノも互いの顔を見合わせて驚いているようだった。唯一、宮兎の背中の後ろで首をかしげ、同じようにアスティアの後ろにいるレイン・ゴースト達も意味が分かっていないようだ。


「君は認められつつあるんだよ。ティルブナを救ったことにより、お父様はお姉様、もしくはリレンズ、ティルブナの婿候補ってことかな」

「ああ、なるほど。そういうことですか…………って、納得できるかアホ!」


 ようやく状況がつかめたのか、一度はポンっと右手拳を左手の平に乗せて頷いたが、すぐさま双子に対して怒鳴りつけた。宮兎が何を思って怒鳴ったのか、双子は分かっていないらしい。


「何を怒っているんだい? 僕が言うのもアレだが、君にとっては悪い話じゃないだろう」

「お姉様、私、そしてティルブナの3人が選び放題なんだぞ? もっと喜びなさい」

「勝手に決めるなよ……! まずは本人達の意思を尊重してだな――」

「それなら問題ない」

「ええ。私は別に構わないし、お姉様はとにかくティルブナは――」

「はあわあわわわわ!? そ、そうですわ! リレンズお姉様とガレウスお兄様もお疲れでしょう! 一度別荘に戻ってお茶でもどうでしょうか!?」


 ティナはバタバタと双子の前に移動して慌しく説明をした。二人の返事を待つことなく「なら、急ぎましょう!」と、走り出してしまった。デスカントと、サマエト、ナノも立ち上がり頭を下げて「ティルブナ!」、「ティルブナ嬢待って下さい!」「ティナ先輩!」と後を追った。


「……なんだ、あいつ?」

「ふふふ、ティルブナもお茶目なところがあるのね。私、はじめて見たわ」

「僕もだよ。まあ、丁度良かったかな」


 ガレウスは右手をすっと差し伸べた。これが握手だと分かり、宮兎は警戒しながらも手をとる。ぎゅっと手をつかまれ、ガレウスの顔を見たが彼は笑っていた。


「レベル290と聞いていたけど、なかなかやるねえ」

「お前……」

「ああ、勘違いしないでくれ。僕達アルムント家――僕とリレンズは【実力主義】。お父様の意見でも、弱者は神の一族には必要ないから」


 宮兎は乱暴に腕を振り払った。アスティアとリャーミャ、レイン・ゴースト達はおろおろと険悪ムードの2人をみてどうしていいか分からない。リレンズは黙って笑っていた。


 握手――ガレウスは今ので宮兎を試していた。もちろん本気ではなかったのかもしれない。だが――レベル290ほどの人間では拳が砕けるほどの力だったのだ。ガレウスは躊躇なく、宮兎の右手を粉砕するつもりだった。


 しかし――それができなかった。


「そうだ。お昼を食べたら僕達と一戦しない? もちろん模擬戦さ。君の実力――興味が湧いてきたよ」

「生憎、装備は置いてきたんでね。断らせてもらう」

「おや? 逃げるのかい? 元冒険者が聞いて呆れるね」

「言ってろ。悪いがアルムントの所に婿にいく予定もつもりもないからな」

「ふむ……では、こうしようか」


 ガレウスはおもむろにアイテム覧を開き、アイテムを取り出した。


「こいつは……っ!?」


 ガレウスの取り出したアイテム――それは小さな歯車だった。黄金色に輝く歯車を、宮兎は目を見開いて凝視した。


「【ル=デウス】の【黄金の欠片】。元冒険者の君なら知っているだろう」

「ああ、知ってる。知ってるが――なんでそんなものをっ!」


 黄金の欠片――ル=デウス――赤い*(ほしいん)が描かれた破滅の歯車。


 宮兎は頭が痛くなった。


「……わかった。俺と勝負をしよう」

「良かった。君ならそう言ってくれると思ったよ。良いね、良いよ。君が勝ったらコレを贈呈しよう。別に君が負けても何も奪わない、何も影響はない」


 歯車をアイテム覧へ元に戻し、くるりと後ろを振り向く。


「じゃあ――また後で」

「バイバイ、ミヤトくん、アスティアちゃん」


 歩いていく双子を3人と3体はじっと、何が起こっているのか、むしろ先ほどの会話に意味があったのか、宮兎以外は戸惑っていた。


「ミヤト、先ほどのアイテムは?」

「運が悪かった。あんなもの――この世にあっちゃいけない品なんだ」

「この世に………」

「リャーミャ、わかんない」

「知らなくても当然かな。【ル=デウス】――モンスターなのか、はたまた機械なのか、兵器なのか、それとも人間なのか、もしくは英雄なのか――姿かたちは関係ない。その名前があればこの世の全てを【破壊】できるおぞましい【神】の産物――それが【ル=デウス】だ」


 宮兎は――苦虫をかじった様な――このバカンスがどうでもいいような――そんな詰まらない事を考えながら、双子に対してどのように戦うか作戦を考え始めた。


「くっそ、嫌な予感が当たっちまったな」


 青年は――呟いた。

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