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41話 青年、双頭の流星と相見える

 男性陣の目にはとても華やかな景色が広がった。五人の女性が水着姿で立っていたからである。サマエト、デスカントは呆れてしまうほど鼻の下が伸び、今にも鼻血が出そうで――と思っていたら、タラタラと流れ始めている。


「別に海で遊んでいても良かったのにぃー」


「お前が入るなって言うから……」


「あははは、ごめんってばキキョウ」


 豪快に笑って誤魔化そうとするセルフィは――男達からすれば目に悪い。それは良い意味でだった。彼女の着用している三角ビキニは髪の色と同じように燃え盛る赤色だ。バストを覆う三角形の布は、面積がやや小さいので、魅惑的、挑発的、あまりにも大胆である。


 彼女の豊満な部分がかなり強調され、胸元にぶら下がるネックレス状のリングにも自然と目線が向いてしまう。このリングはセルフィが誕生日にキキョウからプレゼントされた品である。あの日から毎日身につけて、彼との絆を大切にしているようだ。


 セルフィの後ろでは、少々控えめな胸を持つ四人が男性陣をギロリと睨みつける。セルフィも背中で感じ取ったのか、突如キキョウの腕をとり、思いっきり抱き寄せた。キキョウの腕がセルフィの腕に埋まり、鬼は顔を真っ赤にして「ばっ!」と声を上げるが、続かない。


「キキョウ! あっちでボール遊びでもしましょう!」


「お、おい! 引っ張るなよ!」


 予め用意していた遊び道具が詰まったボックスからボールを取り出して、2人は砂浜を走り出す。取り残されたサマエトとデスカントは羨ましいっ! と声には出さず踏ん張り、遠ざかる背中をただぼーっと見つめていた。宮兎はセルフィが走り出した理由わけも知らず「なんじゃあれ?」と疑問を声にした。


 後ろから咳払いが聞こえ、男3人は振り向く。セルフィは居なくなってしまったが、美しい花はまだ目の前にいる。宮兎を除く2人は改めて残された女性陣を見て、可憐さに胸が引かれる。


「殿方はお胸の大きな方が大好きですものねっ」


「いやー、ティルブナ! そんなことは無いぞ。男ってのはな、可憐な花は大好きだ」


「あら、デスカントはまず鼻血をふき取ってから発言をお願いしますわ」


 冷たい視線を向けられ、デスカントは慌てて鼻血をふき取る。隣のサマエトは誰にも気づかれないうちにふき取っていたらしく、綺麗な顔に元通り。キラキラとした笑顔でティナに話しかけた。


「相変らずお美しいですね、ティルブナ嬢」


「ありがとう。貴方も似合ってますわ」


「恐縮です」


 上手く誤魔化せたつもりになっているが、ティナにはお見通しである。サマエトの下心が丸見えだった。ティナは深く溜息をついたあと、先ほどからいまいちリアクションの薄い宮兎をちらっと見て、頬を染めながらくるりと一回転する。


「ミヤト、貴方はどう思うかしら?」


「え? ああーいいんじゃん。うん、可愛い可愛い」


 やはりどこか適当な受け答えだが、ティナは満足だったようでニヘエと表情を変えた。隣に立っていたツバキとナノがちょっぴり引くほど笑顔が眩しい。


 改めてティナの水着を見てみると、ホルターネックと呼ばれる水着だ。彼女をイメージした緑色の水着は、胸元で一度、布が結ばれたようなデザインとなっておりそこから更に首と腰の辺りで紐が結ばれている。大胆に背中が見えていた。下もヒラヒラと太ももの辺りまで薄いレースが伸びており、彼女の動きに合わせて揺れる。


「ナノちゃん、馬鹿はほっといてウチ達も遊びにいきましょう」


「あ……先輩も……」


「仕方ないわねえ。ほら、ティナも行くぞ! それとウサギ屋、適当に借りるよー。リャーミャちゃんも、ほら!」


「ああ、ちょっと!」


「うん、いくー!」


 ツバキがナノとティナの腕を引っ張り、これまたボックスから浮き輪を3つ持っていく。どうやらセルフィ達と同じ方角へ向かったようだ。今まで違和感なく宮兎の背中にぶら下がっていたリャーミャも飛び降りて、後を追いかけて行った。


 ツバキは上半身にパーカー――ラッシュガードを羽織り、その下は黒と白のストライプ模様のビキニを着ている。なんだか肌を晒すのはあまり好きじゃないから――などと言って、宮兎に急遽作らせた品である。


 ナノは同じような桃色のビキニを着ているが、腰にパレオを巻きつけている。南国のイメージを強く印象付けるが、そのままつけて泳ぐのだろうかと疑問に思った。


「では、師匠。僕達もお先に」


「ああ! おい待てサマエト! てめえさっき裏切りやがったな!」


「はて? 何のことでしょうか?」


「……この野郎」


 唐突に走り出す男2人も段々と遠くなる。


 結局残ったのは宮兎と――少し恥ずかしそうにしながら彼の横に移動するアスティアだ。


「私、はじめて海へ来ました」


「そうだったな。どうだ? でっかい水溜りだろ?」


「そんなわけないじゃないですか。あの水平線の向こう側――まだ、私の知らない世界がどこまでも続いている。それだけを考えると――とてもワクワクします」


「……ああ、そうだな」


 視線を下げれば、アスティアが視界に入る。彼女はホットパンツ型の水着で、宮兎とお揃いのオレンジ色だ。嬉しそうな少女の顔を見て、連れて来て正解だったと思う。最初は海へ行くことを躊躇っていたアスティアは、「海を見たことがない」と言っていた。


 憧れと共に、海へのちょっとした偏見を持っていたようで、恐ろしい巨大海中モンスターが襲ってくる! と騒いでいたほどだ。しかし、一度見てしまえば、海への恐怖心など忘れ、神秘さと無限に続くような水平線の向こう側へ興味を抱いてくれた。


 喜ばしいことはそれだけではない。外の世界へ出てみる――アスティアは旅行という手助けをもらい、スタイダスト周辺から始めて抜け出せたのだ。シスターという職業は土地に縛られる。彼女の母親もそうだったように――だが、気にしなければどうってことないのだ。


 決まりごとに縛られていては何も変わらない。


 アスティアの笑顔だけでも見れて、とても満足だった。


「私達もいきましょう。クロ達も手を振ってくれてます」


「そうだな。じゃ、行こう」


 ボックスを抱え、肩を並べて海ではしゃぐ御一行と合流することになった。





 しかし――彼らは忘れていることがある。


 この島――所有主がアルムント家――神の一族。


 ティナはその三女――五人兄妹の末っ子だ。彼女以外のアルムントがこの島へ訪れても――可笑しな話ではない。


 それは海で泳ぎ、はしゃぎ、セルフィが疲れてしまってキキョウとツバキと一緒に別荘へ帰った。残されたメンバーは次、何をしようかと考えていた時だった。異変――最初に気がついたのはアスティアだった。レイン・ゴーストと一緒に浜辺でビーチバレーをしていると、動きを止めて姿勢を伸ばす。顔は海――水平線の向こうへ視線を延ばして、パラソルの下で寝転がっている宮兎へ口を開いた。


「ミヤト……誰かが、来ます!」


「んにゃ?」


 居眠りこけていたのか、アスティアの言葉に猫のように返事を返した。よく聞こえなかったのか、体を起こし、中途半端に開いた目でアスティアを見つめた。


「ふわー……なんだって?」


「だから誰かが来ます! この魔力は人間のものだと思いますが――推定でもレベル350以上。ものすごい速さで――海を渡っています」


「……海を?」


 言葉の意味が理解できていない――いや、理解できているのかもしれないがソレはあまりにも現実離れしたことだったからだ。海を渡る――船で移動しているのか、それまた移動スキルで浮遊でもしているのか、宮兎が疑問に感じたことは、レベル350以上の冒険者がこの島になんの用で向かっているのか、だった。


「ティナさん、他の皆さんも集まって!」


 呼びかけにこたえるように4人は集まり、何事かと質問をアスティアにぶつける。


「アスティア、いったいどうしたの? そんなに慌てたように叫んで」


「誰かが――冒険者がこちらに向かっています。推定レベルは350以上。この島へくる目的――ティナさんは心当たりがありますか?」


 逆に質問を返されたティナは右手を唇にもって行き、左手で右腕を支えるポーズをとった。考えているのであろう。彼女の頭の中に思い浮かんだのは、まず誘拐だった。


 アルムント家の三女を誘拐できれば、良い脅迫材料となる。どこかで情報が漏洩し、暗殺ギルド、もしくは人攫い、南区のようなならず者達が襲いかかってきている――そう考えた。


 二つ目は――もちろん身内である。だが、長男と長女は王都で仕事をしているはずだ。休む暇もないと伺っている。噂ではレベル500の冒険者達の付き人をしているなんて話も。多忙を勤しむ2人にここへ来ることはまずないだろう。


 なら――あの2人しかありえない。


 結論に至った。


「心配しなくても大丈夫ですわ。多分、わたくしの――」


 言い終わる前に、彼らが集まっていた場所から5mほど先の岩場に何かが衝突する。大きな音、地響き、砂煙をあげたのだ。誰もが雷鳴――天変地異――神が降り立ったのではないかと錯覚したくなるほど突然の出来事だった。宮兎ですら、見ることはできなかったのだ。


「ごほごほ……おいおい、なんだってんだ?」


 宮兎の問に誰も答えず、ティナだけが平気な顔で歩き出して、すぐさま跪く。彼女が何故このような行動を始めたのか――答えはすぐに分かった。


「ティルブナじゃないか! 久しぶりだな!」


「あら、ほんとう。ご機嫌はいかがティルブナ」


「体調は良好です、リレンズお姉様。ガレウスお兄様もお久しぶりです」


 砂煙の中から二つの影が出てきた。ナノ、サマエト、デスカントは顔を見た瞬間にティナと同じく跪く。宮兎とアスティアだけが彼らの顔を見て――動くことができなかったのである。


 2人――まったく同じ顔。どことなくティナと雰囲気が似ているが、そんなことよりも前者の方が衝撃が強く、反応を示せない。リレンズとガレウスと呼ばれた2人の冒険者は全身を白銀のプレートに身を包み、左に立つリレンズは巨大な盾を背負い、右に立つガレウスもまた背丈を越える大剣を背中に装備している。


 宮兎とアスティア――リレンズとガレウスの視線が交わる。


「ティナ、彼らは?」


「紹介がまだでしたね」


 ティナは立ち上がり、頭を下げた。


「このお2人こそ、わたくしの双子のお兄様とお姉様――ガレウス・F・アルムント、リレンズ・F・アルムントですわ。お兄様とお姉様は2人で1人・・・・・――【双頭の流星】の異名を持つ冒険者なのです」


 これが宮兎と――【双頭の流星】――アルムント家の【異端能力者】と呼ばれている2人との出会いだった。

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