第29話 一木支隊の残兵
七人の敗残兵が椰子の根元に寝転び星を見ている。
関元曹長が、
「星に成りてえなあ」
木原少尉、
「星に成れば俺の家も見えるしな」
福原軍曹、
「森、今日は何日だ」
森 二等兵、
「分りません」
大宮上等兵、
「戦争なんてバカらしいですねえ」
河野上等兵が懐かしそうに、
「内地はどうなってるのかなあ」
砂を踏む音がする。
木原少尉が、
「シッ! 誰か来るぞ」
関元曹長は体勢を立て直し38銃を構える。
七人が息を殺す。
関元曹長が小声で、
「ヤマ!」
黒い影が小声で、
「・・・タニ」
関元曹長、
「タニ? おい、何処の部隊だ」
声、
「一木!」
木原少尉が、
「イチキ? 一木支隊か!」
声、
「そうだ。キサマ等は」
木原少尉が、
「丸山師団、早坂中隊だ」
声、
「丸山師団? おおッ! 迎えに来てくれたのか」
嬉しそうに立ち上がる人影。
木原少尉は人影を見て、
「違う。俺達は残兵だ」
月明かりに照らされ、三人の影が近づいて来る。
髭がのび、南京袋(麻ブクロ)を手にしている。
三人とも丸腰である。
木原少尉は立ち上がり挙手の敬礼をして、
「早坂中隊 木原猛夫 少尉ッ!」
影の兵士の一人が木原少尉の前に進み出て、
「一木支隊 三上八郎 上等兵です!」
三上上等兵は階級章の無いボロボロの軍装の木原少尉を見て、
「・・・少尉殿でいらっしゃいますか?」
「うん? うん」
「あ、失礼しました!」
「・・・オマエ等、三人だけか」
「いえ、自分等入れて十二ッス」
三上上等兵は「北海道の部隊(東北弁)」だ。
木原少尉が、
「十二? よく生きてたな」
三上上等兵は恥ずかしそうに、
「飛行場の近くの穴グラに待機スてたんス。『野ネズミ』ッすよ」
「野ネズミ? ・・・俺達も同じ様なものだ。飛行場で川口の部隊が最後の突撃した事は覚えているか」
「ああ、雨の夜でスたね。覚えてます」
木原少尉達七人と三上上等兵達三人が砂浜に座る。
三上上等兵が、
「いや~、俺達も突っ込もう思ったんスけど武器は揃ってねえし、何スろ腹が減って、気合が入らねえんスよ」
木原少尉が、
「何を喰っていた」
「最初はネズミです。その内、たまらなくなってアメ功のテントにもぐりこみ・・・コレです」
三上上等兵が人指し指を曲げて「コソ泥」の表現する。
木原少尉、
「ハハハ、考える事は皆な同じだのう」
三上上等兵が(一木支隊・三上八郎 上等兵・旭川第28連隊)、月に照らされた海を見ながら、
「・・・一木隊長殿が、敵が攻めて来た途端、通信兵に玉砕を打電させ、お先に拳銃で頭を撃ち抜いて逝っちまったんです。これじゃあ、指揮が取れる訳が有りませんよ。後に残された兵隊は、皆ばらばらにトンズラです。トンズラって云っても何処へも行く所もねえス・・・」
木原少尉が、
「まあ、この島じゃ一木隊長殿の方が良かったかも知れんの。生きてりゃ地獄、死ねば天国だ」
「ところで、少尉殿達はどうスて此処に?」
「エスペランサと云う岬に行くんだ」
「エスペランサ? この先は断崖で、ジャングルを通らなければ行けませんよ」
「おまえ、『エスペランサ岬』を知ってるのか」
「勿論す。あそこには米軍の小さな見張り台が有りまスてね。土人が日本軍の艦船を見張ってるンす。無電機を置いてね。・・・また何でエスペランサに?」
「『援軍』が救出に来るんだ」
三上上等兵達三人がどよめく。
「えッ! ほ、本当っすか。いつ?」
「分らない。・・・だが確実に来る」
「何処ッからの情報ですか」
「オマエ等に言っても分らん」
三上上等兵は改まって、
「 でも、それは早く皆に知らせなければ」
「オマエ等の部隊以外に、残兵は居るのか」
「まだジャングルの中に沢山居る筈です。時々、仲間が情報を持って来ますから」
木原少尉は驚いて、
「何! 本当か。オマエ等だけじゃなかったのか。で、この情報は全員に伝わるのか」
「そんな話スは直ぐ伝わりますよ」
「そうか。・・・俺達は此処に当分居る。オマエ等も時々此処に来るな」
「勿論スよ。餌はここにしか有りませんからね」
「よし、連絡を取り合おう。その日が分ったら直ぐに伝える。残兵達全員に知らせてくれ」
三上上等兵は元気よく、
「分りまスたッ!」
姿勢を立て直し木原少尉に敬礼をする三上上等兵。
「よしッ! 早く餌を持って部隊に戻れ」
「ハイ! 失礼スます」
三上上等兵達三人が急いで蓋の開いたドラム缶の食料を南京袋に詰め込む。
続く




