第二十話「中流国家ミディアムール」
中流国家ミディアムール。
人口は数万規模、ペシミールの10倍クラスとなる。
そのため、街の賑わいはハブ町の比ではない。
更に、今はオリンピーア開催期間。
ここが、今回ベルナルドたちが参加するオリンピーアの最寄り国家である。
長い旅路の末、ペシミール一行はミディアムールへと到着する。
「ここが、ミディアムールか。初めて来た……」
「中流国家っていうのは、やっぱり違うね。美味そうな匂いが漂ってる」
「なんか、眩暈がしてくる……」
「匂いが違うな……」
ニック、ヒッチ、メッテ、ベルナルドは、それぞれミディアムールの空気を身体で感じとる。
「それでは私は、ひとまず会場でエントリー手続きをしてきます」
「私は、先に宿の確認をしてきます。宿までの地図をお渡ししておきますので、チェックインの時間になってから到着するように調整してください」
そう言って、キパールとマリアは足早に去っていった。
オリンピーアにあたりミディアムールへ来たのは、ベルナルド、ニック、ヒッチ、メッテ、マリア、キパールの6名。
本来であれば、国の代表である国王も来るのが通常だが、持病があるため遠征が難しく不参列。
大臣の方は、高齢であるため同様に不参列。
ベルナルドは選手として、ニックとヒッチは毎度のことながら案内と身辺警護役。
マリアとキパールは手配や手続き周りなどを担当、そしてメッテは国民代表としての同行となる。
「手続きなどは彼らに任せて、私たちは町を観光しましょう。早くこの雰囲気に慣れておく必要があります」
「役割の違いってやつだな。メッテも気にせず観光しろよ」
「そういうことなら、少し町を見てみようかな……」
「うむ」
4人は、田舎者そのものといった感じで、キョロキョロしながら観光客で賑わう道路を歩いていく。
都会とはこういうものなのだと言わんばかりに道は広かったが、オリンピーアとはこういうものなのだという圧力を避けながら歩かなければならなかった。
中流国家ともなると2階建て3階建ての建物も多く、町に立体感がある。
そこに大イベントによる彩りや賑わいが合わさると、刺激に慣れていない者が眩暈を起こしてしまうのも無理はない。
実際、網膜を通して次々と入り込んでくる情報を、3人は処理しきれていなかった。
「メッテには、ガルド国王からお小遣いが出ているから自由に使うといいよ。自分の代わりにたくさん楽しんで来てってさ」
「遠慮するなって、折角のお祭りだからな。ちなみに、お土産を買うのは最終日にした方がいいぞ」
「え、本当にいいの?なんだか悪い気がするけど……というか、本当にこんな金額使っていいの!?」
「ふむ」
メッテへの配慮として、ガルド国王のポケットマネーからお小遣いが出されることになったが、実はベルナルドもポケットマネーを出したため、お小遣いは2倍になっていたのだった。
メッテの後ろで、3人は親指を立ててコンタクトする。
立ち眩みを起こしてしまいそうな刺激に少し慣れてきた一行は、本格的に観光を楽しみ始める。
4人が最初に目をつけたのは、やはり食べ物。
ペシミールともハブ町とも全く異なるラインナップ。
小国では珍しい、新鮮な肉や魚や果物などがここぞとばかりに並んでいる。
ベルナルドたちにとっても、この機会を逃すと食べられないかもしれないものばかりであったため、完全に需給がマッチした。
其処彼処から、愉快な音楽や目を惹く食べ物や甘美な誘いの香りが漂ってくるが、やはり一番に気になるものは肉だった。
タレが塗られ、程よくこんがりとした串焼きの羊肉。
肉を見て、お互いの顔を見て、全員一致で頷き屋台へ歩み出る。
串焼き肉を手に入れた者から順番に、目を大きく輝かせ子供のような表情でかぶり付く。
モグモグモグモグ……。
赤身肉は歯応えがあるが、干し肉とは比べものにならない程柔らかく、噛めば噛むほど肉汁が出てくる。
肉汁の旨みとタレの旨みの化学反応を堪能するため、夢中で咀嚼する。
これは、全員にとって強烈なファーストインプレッションとなった。
これを皮切りに、貪欲に次の屋台を探し始める。
一瞬で脳の全てを食べ物に占領されてしまったのだ。
4人が次に見つけたのは、肉団子。
現物を見て、迷わず硬貨を差し出す。
ホグホグホグホグ……。
豚肉につなぎを加えてあり、香辛料も使われている。
茹でられてはいるが、ソースが染み込んでいるタイプではなく、味付けは殆どがスパイス。
それでも、スパイスの刺激とひき肉の食感が大変心地よい。
そして、人だかりができていたのがソーセージ。
明らかに香りが違うだけでなく、ジュージューと音を奏でながらのパフォーマンス。
周囲の人間は、もはやエンターテイメントとしてソーセージの屋台を囲んでいた。
これも貴重なアイテムであるかのように手に入れたが、無くなるのは一瞬だった。
漂っていた香りと期待値と一致する味わい。
トドメに茹でと焼きの調理コンボで、脳はノックアウトする。
食としての完成度はこれまでの中でもダントツで、少なくとも国内でこれを超えるものはないと確信できる代物であった。
シャクッ、ムシャ、モグ、シャクッ、ムシャ、モグモグ、モグモグモグモグ。
1本だけしか購入していなかったニックとメッテはもう一回並ぼうかと思ったが、いつの間にか出来上がっていた行列のため断念する。
しかし、これを見越していたのかソーセージを12本ほど購入していたベルナルドが分けてあげて、みんなでシャクムシャしながら観光を続ける。
一旦、食に関しては欲求が満たされたのか、他のものにも目を向け始める。
衣類、武具、工具、工芸品、本。
そして、大道芸など各自が気になる所へ寄っていく。
しかし、それも一時のことであり、最終的には食べ物へと回帰してしまう。
4人にとっては、食べ物が一番刺激的なエンターテインメントだったという訳だ。
観光を続けながらも、肉と野菜のスープ、新鮮な魚を使用したフライ、ミートパイ、野菜のパイなどを堪能し続けた。
……
「皆さん、口の周りがやけにテカテカしていますね」
宿にたどり着いた4人を、少し呆れた表情をしたマリアが出迎えてくれる。
露天で食べすぎたので、夜ご飯はスキップする3人。
しかし、ベルナルドはきちんと夜ご飯も食べます。
そして明日は朝早いため、皆早々に部屋で過ごします。
「初めてくる中流国家。この中で一番緊張しているのは僕かもしれない。なんだかソワソワする……」
「はぁー、やっぱ中流国家は違うなー、うまいもんだらけだ。明日は何食おう?」
「さてと、明日のスケジュールをおさらいしておかないと……」
「初めてのオリンピーアへの参加、どこまでいけるのかはわかりません。ベルナルド様は大丈夫でしょうか……?」
「実際、ミディアムールの町を見てみると、とても楽しかったわ。明日のオリンピーアは一体どんな感じなのだろう……」
(ワクワク、ドキドキ)
皆それぞれの思いを胸に、オリンピーア開催を迎える……。
次回より、いよいよオリンピーアの競技が始まります!




