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001⚫️次の冒険

彼は妻の実家へ引っ越す前に、念願だった焼肉屋へ向かった。


教員として働き始めた四十三年前。

通勤路沿いにあった、小さな焼肉屋。

いかにも風情があって、ずっと気になっていたのに、

いつも横を通り過ぎるだけだった。


三月二十日、祝日。

しかも、妻は前乗りで実家に住み始めて、不在である。

今がチャンスだ。


古ぼけた愛用のミニバイクに跨り、本人のイメージでは’颯爽と’出かけた。


初対面の店の主人は、喜寿だという。

四五年間、店を守り続けてきたのだそうだ。

彼は舌鼓を打ちながら、来店までの経緯を包み隠さず話した。

アルコールはないが、ふたりの会話は弾んだ。


そう、そうでしたよね、あのころ!

あそこにあったお寿司屋さん!知ってる、知ってる!

まるで何十年も前からの馴染みのように、

記憶のピースが次々と噛み合っていく。

それは、何物にも代えがたい豊かなひとときだった。


会計を済ませて外へ出ると、空はまだ、ほんのりと明るかった。

日が長くなっている。

もうすぐ、長年暮らしたこの地を離れる。

数えきれない思い出の場所。彼は心の中で呟いた。

・・・そうだ。ここから、「次の新しい冒険」が始まるんだ、と。


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