一、桃色注意報 1、
「お初にお目にかかります。アーサーズ公爵子息。わたくしは、ドレイク伯爵家が長女、アイリーンと申します。お願いします。死にたくないんです。私との婚約は、嫌だと言ってお断りください。この通りです。お願いします」
その日。
婚約者との顔合わせのため、アーサーズ公爵邸へ赴いたアイリーンは、婚約者となる相手と顔を合わせるなり、見事な九十度お辞儀をして、一息にそう捲し立てた。
何となれば。
え!?
生身のブラッドフォード様!?
いやだ。
未だ、幼さも残っていて可愛い!
それなのに、もう格好いいとか、流石我が推し!
・・・あれ?
でも、ちょっと待って。
ということはつまり、私、断罪される!
出会った、というか、ひと目姿を見たその瞬間、一瞬にして前世の記憶を取り戻したアイリーンは、目の前の美少年・・ブラッドフォード・アーサーズ公爵子息が、かつて自分が、すべてのグッズを網羅するほどに惚れ込んだゲームの攻略対象であると認識できてしまったのだから。
それにそもそも、アイリーンはこの婚約に乗り気ではなかった。
凡人の中の凡人である私が、公爵家に嫁ぐなんて、有り得ない。
だけど、公爵家からの申し出を、断るなんてことも、考えられない。
容姿も中身も平凡を絵に描いたようなアイリーンは、もとより目立つことがあまり得意ではなく、公爵邸へ来るまでの間も、まるで売られていく子牛のように怯え、戦々恐々たる思いで馬車のなかを過ごした。
そして今、前世の記憶が戻ったことにより、この婚約は絶対回避しなければならない案件であることが、アイリーンのなかで確定した。
それなのに、格下の自分から断るなど出来ない絶体絶命の状況で、どうかこの縁談をそちらから断ってほしいと、死にたくない一心で、九十度お辞儀の態勢で懇願し続ける。
「ちょっ・・・いきなり何事!?まあ、とにかく座って・・って!ソファーに!なに、床に座ろうとしているの!」
九十度お辞儀で受け入れてもらえないならば床に正座かと、迷いなく実行に移そうとしたアイリーンは、ブラッドフォードの叫びにより仕方なく床に正座を諦めた。
そうよね。
他所のお邸。
しかも、土足仕様の部屋の床に直接座るなんて、有り得ないわよね。
辛うじて思いとどまったアイリーンは、それもそうだったと恥ずかしく思いながら、ソファーに座った。
靴を脱いで、正座で。
~・~・~・~・~・
ありがとうございます。




