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『シンデレラの足跡:ガラスの靴を履き潰すほどの努力で、私は世界の中心へ』   作者: たい丸


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第一章:ガラスの靴を履き潰すまで

運命を穿つ光

 夏。ドームを埋め尽くす五万人の熱気と、肌を焼くような照明が、十四歳の陽葵ひまりを包んでいた。  周囲の観客たちが総立ちになり、地響きのような歓声の中で名前を叫んでいる。その狂乱の中で、陽葵だけが座席に沈み込むようにして、丸めた背中をさらに小さくしていた。

 当時の陽葵は、体重が八十キロを超えていた。  学校に行けば体型を冷やかされ、街を歩けば誰かの笑い声がすべて自分に向けられているような気がして、常に下を向いて歩くのが癖になっていた。親戚から「余ったから」と譲り受けたチケットを手にここへ来たのも、ただ現実から逃げ出したかったからに過ぎない。

 だが、その瞬間。  ステージの中央に、伝説のスター・ひびきが姿を現した。

「私は、最初から愛されていたわけじゃない。才能がないって言われたし、見た目が悪いって笑われたこともある」

響の言葉が、スピーカーを通じて陽葵の鼓動に直接突き刺さる。

「でも、私は自分を諦めなかった。――自分のことを一番に愛せるのは、自分しかいないから!」

 アンコール。響を乗せたフロートが、陽葵の座る端っこの席のすぐ近くを通った。  周囲が絶叫して手を振る中、陽葵は自分の醜い体が恥ずかしくて、精一杯顔を伏せた。

 ふと視界に、眩いばかりの光が割り込んできた。  顔を上げると、そこには自分をまっすぐ指差し、最高の笑顔でウィンクを送る響の姿があった。

 その笑顔は、「あんたもこっちに来なよ」と誘っているようでもあり、「今のあんたも悪くないよ」と全肯定しているようでもあった。雷に打たれたような衝撃が、陽葵の体を貫いた。

 ライブが終わった後の規制退場中、陽葵は周囲の観客が「明日からまた頑張れる」と涙を流して笑っている光景を目にした。  その時、彼女の中に猛烈な感情が湧き上がった。 「私も、誰かに『生きててよかった』と思わせる側になりたい」

 ドームを出てすぐ、陽葵は目の前にある自動販売機に向かった。いつも買っていたコーラをスルーし、無糖の炭酸水を買った。それが、彼女の長い戦いの「第一歩」となった。


呪いという名の努力

 その日から、陽葵の生活は一変した。  大好きな揚げ物や甘いお菓子を完全に断ち、毎日鳥のささみとブロッコリーだけを貪る日々が始まった。    運動経験のなかった体を引きずり、夜の公園で血を吐くような思いで走り込みを続けた。ダンスの教則動画を擦り切れるまで見返し、足の裏に血豆ができては潰れるまで、何度も何度もステップを踏み続けた。    鏡を見ては、まだ残る脂肪を呪い、執念という名の「自分磨きノート」に食べたもののカロリーと自分への叱咤激励を書き殴った。

 周囲の反応は、最初は冷ややかだった。 「どうせ三日坊主だろ」「あいつがアイドル? 笑わせるな」  そんな陰口が聞こえてきても、陽葵はもう下を向かなかった。彼女の視線の先には、いつもあの日のドームで見た、響の眩しい笑顔があったからだ。

 一ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ、一年が経つ頃。  陽葵の体からは余分な肉が削ぎ落とされ、埋もれていた鎖骨が鋭く浮き出てきた。冷笑していた同級生たちの視線は、徐々に驚愕へと変わり、やがて畏怖へと変わっていった。

 そして中学を卒業する頃。  鏡の前に立っていたのは、誰もが振り返るほどの美貌を手に入れた、一人の少女だった。  かつての「八十キロのデブ」の面影はどこにもない。誰もが認める美人。それが、死ぬ気で手に入れた陽葵の新しい姿だった。

けれど、理想の姿を手に入れたはずの陽葵の心には、魔法の輝きは宿っていなかった。   「私は、本物になれたのかな……」

 美しくなればなるほど、心の中には「デブだった頃の自分」が劣等感としてこびりつき、今の自分を「綺麗な皮を被っただけの偽物」のように感じさせる呪縛となっていた。

高校入学。  陽葵は、その美しい指先でスマートフォンの画面を操作した。  目指すのは、あの光の真ん中。ガラスの靴を履き潰す覚悟で、彼女は世界への挑戦状を叩きつけようとしていた。


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