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最終防衛ライン・カゴシマ  作者: ユキトシ時雨
12/33

ちょっとの憩いと、新たな予兆

 ・ 八月二日 午前十時三〇分

 ・ 〈ケロベロス小隊〉隊舎

 

「止まりたまえ、鋼太郎くん。ここであったがなんとやらだ。紅音隊長と良好な関係を築くのもいいが、私のことも忘れないでおくれよ」


 ガレージの前を通り掛けに鋼太郎は、やけに上機嫌なエノンに捕まってしまった。


〈ケロベロス〉小隊に訪れてからは、既に一週間が過ぎようとしていた。それなりに本部基地での生活にも慣れて、今朝も早々に午前の訓練プログラムをこなした後。隊舎へ戻ろうとしているところで、ホクホク顔の彼女に呼び止められたわけだが……


「その異様なテンション……まさか今日は朝っぱらから飲んでるんじゃ……」


「おいおい、人の機嫌がちょっといいからって、そうやってすぐに飲酒を疑うのは止めてくれないか。私だって人並には傷付くんだぞ」


「なら少しは日頃の言動を省みたらどうだ?」


「うぬぬ……ぐうの音もでないとはこのことか」


 エノンがサングラス越しにこちらをジッと睨む。


 彼女の背後。奥のガレージの暗がりで静かに鎮座するのは、整備のために装甲を引き剥がされた〈フミツキ〉と〈ハツキ〉だ。


 二機のフレームを構成するパーツには多くの共通点が見られる一方で、〈フミツキ〉の改修機(カスタムモデル)に当たる〈ハツキ〉にはより高出力のジェネレーターを搭載している点が目立つ。


 二丁拳銃を構えながらに近接戦闘を行うという、一見矛盾したような紅音のスタイルを支えるのもこれらのパーツ群である一方、過剰なまでの性能の追求はかえって機体の出力バランスを崩す要因にもなり得ていた。例えるならば、自動車にジェット機のエンジンを組み込むようなものだ。


 だからこそ、そんな欠陥機を手脚のように操ってみせる紅音の異常性もより際立った。


 彼女の強さはハッキリ言ってイカれているのだ。たった一人で戦場を掻き回し、最後には覆してしまう存在など異分子と言う他ない。


 恐らく並の部隊では彼女の強さを持て余してしまうだろう。


 いつだったか、西郷隆月が「手段を選んでいらないのはボクらだって同じ」だと口にしていたことを思い出す。〈ケロベロス小隊〉はそんな彼女が実力を最大限に発揮するための設備や人材を整えた部隊でもあるのだろう。


 では、その小隊の一員に相応しい強さが自分にはあるのか? 


 その疑問に鋼太郎はまだ頷くことが出来なかった。


「それで? 先生はどうして、そんなにハイテンションなんだよ?」


「ふっふふ、私の後ろの〈FG〉たちを、もっとよく観察してみろ」


 そう言われて鋼太郎もすこし目を凝らす。


〈フミツキ〉と〈ハツキ〉。その両機のコックピットからは何やらコード類が伸びていて、エノンのPCに繋がれていた。画面上には「データ解析中」ともある。


「先日の肥薩山脈での戦闘データを引き上げてるのか?」


「そうさ。遠征任務以外であれだけの数の吸血鬼とやり合うことも滅多にないからね」


 エノンの金髪からは寝癖が跳ねていた。きっと、休息も忘れてデータの解析作業に没頭していたのだろう。


「特に鋼太郎くんの〈フミツキ〉からは良いデータを取ることが出来たよ」


「俺から? ……紅音隊長の〈ハツキ〉じゃなくて?」


 先日の一件でほとんどの吸血鬼を殲滅したのは紅音だ。〈ハツキ〉の兵装は二丁のハンドガンと殊更に珍しく、〈刃血〉を織り交ぜた特殊弾頭まで使用する。


 その一方で鋼太郎は新しい戦い方のヒントを得ながらも、ほとんど活躍の場を彼女に持っていかれたのだ。機体に蓄積された戦闘データだって彼女の半分に及ばないはず。


「はぁ……これだからダメダメ素人な鋼太郎くんは」


「どうでも良いけど、ダメダメは言い過ぎだろ……」


「いいかい? 私は〈ハツキ〉の戦闘データを嫌というほど見てきたんだ。〈サツマハヤト〉で採用されている戦闘OSだって、元はあの娘の戦闘データを参照して、私が組み上げたくらいなんだから」


 しれっとエノンが凄いことを言う。


 要はそれだけ紅音の戦闘データを見飽きたということだ。だからこそ技術者視点の彼女には、新たに〈ケロベロス小隊〉へと加わった鋼太郎のデータの方が新鮮に映るのだろう。


「紅音隊長の無茶苦茶な戦闘に追従できるパイロットなんて、正規隊員にも殆どいないんだ。それに君は思い切りが良い。迷いを切り捨てるのが早いと言えば良いのかな?」 


 東京育ちながらも、父に示現流を教わっていたのが要因だろうか。身体に染みついた剣術のノウハウは、操縦のクセとして〈FG〉にも反映される。


 示現流は初太刀に全て込め、一撃のもとに敵を斬り伏せるという剛剣だ。その精神性が鋼太郎の在り方にも直結しているのだろう。


「けど、確か〈ケロベロス小隊〉にはもう一人のメンバーがいるんだろ? その人の方が俺より先輩なんだし、紅音隊長の無茶にも付いて行けるんじゃないか?」


「あぁ、彼女か。……彼女かぁ」


 エノンの表情がずんと曇った。ため息混じりに彼女は答える。


「彼女の機体もまたちょっと特殊だからね。君も時間があれば戦闘記録を見てみるといい。新しい兵装のテストにも積極的だし、悪い子じゃないんだけどな。────彼女もなかなかの変人だから」


 彼女が白衣から差し出したのはUSBメモリだ。日本語ペラペラ、お酒大好きアメリカ人のエノンに「変人」と言わしめる隊員がどんな人物なのか? 考えるだけで、また頭痛がしてきた。


「ま……まぁ、気が向いたら」


「よろしい。それで少し本題から少し逸れてしまったが、君にはコレを見て欲しいんだ」


 次いでエノンが差し出したのは、一冊のスケッチブックだった。


「まだロクな図面も引けてないんけどね、気に入ったものがあれば教えて欲しいんだ」


 彼女に促されるままページを捲れば、その中には新たな兵装やそれに伴う〈フミツキ〉の改修案が、描き殴られては綴られていた。


 兵装の増設やセンサー類の強化。近接特化の為の脚部見直しから、追加装甲のプランまで。そのどれもが機体のスペックを、鋼太郎の戦闘スタイルに合わせて、大きく向上させるものである。


「はぁ……やっぱりアンタは凄い人だよ。どれも使えそうなアイデアばかりだ」 


「それは光栄だね。ところで、呼び止めた私が言うのも難だけどさ。君はこんなところで油を売ってても良いのかい?」


 今日の訓練は午前中で終わる。今日の鋼太郎には特別な用事もなかったはずだ。心当たりがないか脳内を検索するも、空振りに終わる。


 それでもエノンは、まるでたった今思い出したかのように首を傾げた。


「────だって君は今日、紅音隊長とデートに出かけるんだろう?」


ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。


気に入って頂けたなら、フォロー&コメントを是非! ユーザーページより、そのほかの作品を楽しんでもらえると、さらにうれしいです!

読了ツイートで拡散、宣伝なんかもして貰えると、もう感謝が尽きません。……っと、今回はここで幕引きです。

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