-11『不屈の心』
「リズ……」
自信満々に言った私を見て、クルトは驚いた風に目を丸めていた。
不安が見て取れる。
しかしそんな彼に反して私は自信満々だった。
私がイビルを止めてみせる。
それをできる確信があるわけではない。封印だってやったことがないのだ。けれど、やるしかない、と自分の気持ちに発破をかけている。
その自信は張り子のように急拵えで脆い。本当ならこんなことはやりたくないし、責任感で胸が押しつぶされそうになる。
けれども、足が震えそうになっても虚勢を張れるのは、何よりリルが頑張ってくれているからだろう。
やる気に満ちあふれた私と、諦めたように肩を落とすクルト。
まるで少し前までの私達が正反対になったみたいだ。
いつもと違う弱気なクルトを見ていると、私の心はむず痒くなってきた。
「……もう、調子が狂うわね。学園一の優等生様がそんな調子じゃ勝てるものも勝てないわよ」
わざとらしくふざけた調子で私は言う。
「落ちこぼれの私よりも先に諦めるなんて。それでも本当に、選抜競技で優勝しようとしていたのかしら。だっさいわね」
「リズ、お前……」
「これだから自分を完璧超人だと思ってる人間はイヤなのよ。自分がちょっと蹴躓いただけで他の誰にも無理だって思っちゃう。そんな心がヨワヨワじゃ、学園を首席で卒業なんて夢のまた夢の話ね」
煽るだけ煽る。
クルトの怒りを焚きつけるように。
案の定、クルトは条件反射的にかっとなって私に言い返そうとする。そんな彼に私はふっと微笑み、
「もっと私に頼りなさい」
リルにまたがりながらクルトに向かってそう言い切った。
「私だって貴方の眼中に入りたいんだから」
「リズ……」
これまで誰からも頼りにされたことなんてなかった。なにをやっても優秀なクルトとはまるで住む場所が違う。見ている景色もきっと違う。
隣で歩くにはあまりに不似合いで、相応しくない。そんな日向と日陰の対極にいた。だからずっと近づくことを避けていた。比べられることも辛くて、そんな惨めな私をクルトに見られることもイヤで。
けれど心は離れられなくて、でも強がって自分からは近づけなくて、まるで幼い子供のように、彼の関心だけは引き留めたいと嫌がらせのようなちょっかいだけは続けていた。
そんな、臆病な私。
けれど今は。
今だけは彼の隣にいるに相応しい。私なら彼のためになることができるのだ。
ご先祖様の力を使って。
私の『やり遂げたい』という自信は、リルだけじゃない、クルトのためでもあった。
ふっ、とクルトの口元が急に緩む。
「なんだか最近変わったな、リズ」
「え? なによ」
いきなり言われ、私は思わずたじろいでしまった。
「別に背も伸びてないし太ってもないわよ。結構気にしてるんだから」
「そうじゃない」
クルトはそっと首を振る。
「小さい頃、ワズヘイト家の落ちこぼれって言われていじめられていたお前を見て、俺はずっとお前が心配だったんだ」
「い、いきなりなによ」
こんな時に昔話を切り出すだなんて。
「お前はすぐ落ち込むし、へそを曲げるし。そんなお前を他の連中から守るには、俺が強くなって誰にも文句なんて言わせないようにするしかないって思ってた」
そんなことを思っていたなんて。
クルトはいつの間にか勉強ばかりするようになっていた。当時から成績の悪かった私はそんな優等生といることが息苦しくて距離を取った。
昔はとても仲が良かったのに、それからずっと、私達の間には微妙な距離感があった。
まさか勉強を頑張っていた理由がそんなことだったなんて。
「そ、それって。もしかして、私のこと……」
気づいた瞬間、私は思わず顔を真っ赤にしてしまっていた。
私のためにずっと頑張ってくれていた。というのはつまり、そういうことなのだろうか。
気恥ずかしさがこみ上げ、頭がのぼせそうなほど熱くなる。なんだか照れくさくなって、いじいじと指先を遊ばせながら俯いてしまった。
いや、確かに昔はクルトととても仲が良かった。本当の家族のように親しかったし、いつも一緒にいた。
まあ、私だってクルトを他の男子とは少し別格に見ていた節もある。同級生の男どもはまったく眼中になかったし、クルトと比べれば虫けらもいいところだ。
けれどそうなるとクルトが特別良いという訳でも――いや、それはまあ運動もできるし勉強も完璧、外見も整っていて、それでいて困ったときは助けてくれるし。
凄く頼りになる。
クルトがいると安心する。
でもまさか、そんなクルトが私のために動いてくれていただなんて。
私は別にクルトが好きというわけではないし、そんなことを思ってことなんて一度もない。断じて。
でもクルトから言われたのだとしたら、まあ多少は考えてあげなくても――。
「くくく、く、クルトは、私が、好きなの?」
情けなく舌を噛みながら、私は恥ずかしさをこらえながらクルトの顔をちらりと見やった。
まさか本当に。
そんな淡いドキドキを浮かべた私の顔を、しかしクルトはふと見つめ、それをぶち壊すように息を噴き出して笑ったのだった。
「ふふっ。ははっ」
「な、なに笑ってるのよ!」
「いや、珍しい顔を見れたって思ってな」
言われ、私は自分の顔がとろけたよう緩んでいたことに気づいた。おまけに真っ赤で顔が熱い。
「そんな顔をするんだな。まさかリズが女の子みたいな顔をするなんて」
「ななな、なに言ってるのよ。私は女の子よ!」
「ははっ、そうだな。いや本当。なんというか、疲れが吹き飛んだよ」
爽快に笑いながらクルトは顔を汚れを拭う。そうして顔をぴしりと叩くと、覚醒したように目を大きく開かせた。にっと口角が持ち上がる。
「いつも嫌がらせしてきてたお返しだ」
「ちょ、ちょっと。もしかして今の、私を陥れるための嘘だったって訳?」
「――ははっ」
クルトはまた意地悪にはにかんでいた。
そのまま私への返事はせず、バーゼンへと向かいなおる。
「バーゼン。決着をつけよう」
「なんだ。ようやく俺に負ける準備ができたのか?」
「いいや、勝つさ。俺と――リズとリルでな」
とうに満身創痍だというのに、その言葉は力強く、クルトの精悍な顔つきがバーゼンを鋭く刺していた。




