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「わははは!!おまはんどこで飯を食うつもりやった?」
そう東郷平八郎が笑い飛ばした瞬間に戦艦三笠に明かりが灯り始めた。三笠は軍艦だ。派手な電飾は勿論無い。しかし艦内を照らす明かりが船窓から漏れると月明かりと相まって別の表情を表す。
「わぁ…」
サクラは思わず声を出す。戦艦三笠を見つめる彼女の瞳はキラキラと輝く。
「さすが粋だねー。トーゴーさん」
「おごじょの喜ぶことは戦に勝つより難しいでごわす」
東郷さんは照れ臭そうに言うと三笠の方に身体を向けた。彼の足は既にタラップに掛かっていた。それに気づいたヨシが慌ててサクラを促す。
「ほれ、戦艦に乗るんじゃないの?」
ヨシはサクラの背中をポンと押す。彼女は完全に夢うつつの状態でハッと我に帰り彼の後を追う。
タラップを登り終え甲板に出ると艦橋脇の扉から艦内へと入っていった。
旗艦が旗艦である事をならしめる船室。士官室に通されるとその内装の豪華さに驚かされる。
その雰囲気はとても戦艦。戦闘をする事のみに特化された船とは思えない位に豪勢だ。
何も知らされずここに突然連れて来られればここが船の中。ましてや軍艦の中とはとても思えないだろう。
例えれば、高級ホテルかレストランと言っても何ら問題はない。サクラはその雰囲気に圧倒された。彼女はおもむろにヨシの方に首を向けた。
「ねぇ?」
「なに?」
「これって夢?まさか目が覚めたら肥溜めに浸かってるって事はない?」
「…ぶッ!!」
少し間をおいてヨシはお腹を押さえて噴きだした。
「アハハハハ!あなたいつの時代のこと言ってるの!?そんな事してたのはすごく古い話よ!!」
笑いをこらえながらヨシはサクラの言うことに答える。
「ちょ、ちょっと。そんなに笑わないでよ。私がなんだか痛い女みたいじゃない!」
サクラは気まずそうに顔を真っ赤にする。
「いや、まさかアナタみたいなコから肥溜めなんて言葉が出てくるなんて思ってもいなかったから…プッ。ククククク」
「なかなか愉快な方でおわすな」
「ちょ、東郷さんまで…」
少し立場の無くなったサクラであるが士官室に漂ってくる芳醇な香りに二人とも心を奪われてゆく。
「さ、食事の準備が整いもうした」
東郷さんはそう言うとサクラとヨシを席へとエスコートした。しばらくすると、彼女たちの前に底の深い皿に盛られた料理が出てきた。
サクラとヨシの喉が思わず鳴る。
「戦艦三笠の士官室でこれが食べれるなんて…」
感動なのか?サクラの肩がフルフルと震えていた。
「あなたの時代でもこれってご馳走?」
ヨシが少し不思議そうな表情で隣に座るサクラの顔を覗き込む。それと同時にどこからともなくクラシカルな音楽が聞こえてきた。サクラが思わず天井に視線を泳がせる。
「ささ、冷めないうちに」
「いただきまーす!」
サクラの感動をよそにヨシは東郷さんの促すままスプーンを持ちその手を合わせる。そしてドミグラスソースに浸かる牛肉の塊、ジャガイモ、ニンジン、タマネギを器用にスプーンで切り分けては口の中へと放り込んでいく。
「ちょっと、あんた。そんなにポンポン気軽に食べてるんじゃないわよ」
ヨシとは対照的に静々と口にするサクラ。
「どうですかな?口に合いますかな?ビーフシチューは」
東郷さんはそんな二人に優しい視線を送る。
「局悦至極に存じます!!」
「あなた時々平成のニンゲンとは思えない言葉を口にするわね」
サクラの口にした時代錯誤な言葉に若干引き気味になるヨシであった。




