ヨタばなし③
由布院を後にした四人は九州の何処かを走っていた。
しかし、いつまでも走り続ける訳にはいかない。
シンディの素性はアメリカ人であるという以外に解ってないし、サクラに至っては仕事をバッくれたままだ。
とある夕暮れ海岸。サクラは砂浜に腰を落とした。まだ昼間の太陽の熱を溜め込んだ砂はほんのりと温かった。
「ふうっ」
サクラは思わず溜め息を吐いた。
「ハイ、どうしたのですカ?」
彼女の視界にシンディのウェスタンブーツが入った。ウェイビーなブロンドが海風になびいている。
「これからどうしようかな…。って」
サクラはそう言うと視線を海原へと移した。
「F u…」
シンディは軽く息を吐くと自らの右手を腰に当てた。それと同時に彼女の重心が両足から右足へと移り砂浜が僅かに「ジャリ」っと鳴った。波の音が二人の間の沈黙を埋めていく。
彼女の視界には入らないがヨシとおケイが浅瀬ではしゃぐ声が聞こえる。
サクラはそちらを見やると「ふっ」と吐息を漏らした。
「二人とも仲がいいデスネ」
シンディがふと漏らした言葉に何か羨ましさが滲んでいた。
「本当」
サクラもシンディの意見に同調したが、やはり彼女と同じように素直にそれを認める事が出来なかった。再び訪れる沈黙。それを埋める波の音。
「シンディは仕事に行き詰まりを感じたらどうするの?」
サクラは少々思い詰めた感じで問うた。
シンディは鳶色の瞳を一瞬だが白黒させると海原を見ながら口を開いた。
「サクラの走りに迷いがあったのはそういう事だったのデスネ」
「え?」
「トボケてもダメです。機械はウソをつきまセン」
シンディはそう言うと人差し指をヒラヒラと振った。
「そう…。ね」
サクラは溜め込んだ何かを吐き出すようにそれを認めると、体育座りの膝にアゴを載せた。
由布院の夜にヨシの放った一言がサクラの心に引っ掛かったままだった。
「で、アンタはどーすんの?」
軽く放たれたジャブがいつの間にかボディブローの様に効いてくる一言。
彼女はヨシが只の妖ではない事を今更ながら悟った。
タイミングいい、言い回しといい、その全てが絶妙でサクラの心にズシリと響いた。
そしてその事に答えの出ない歯痒さに思い切りツーリングを楽しめない自分がいた。
バイク乗りなら明日の事は考えるな。と言い聞かせてみるが、正直そんな事で今の心境に変化が訪れるなど到底思えなかった。
その時だった。不意に携帯の着信音が海岸に鳴り響いた。
シンディが慌てた様子で革ジャンのポケットをまさぐる。
「Yes 」
彼女は電話に出ると流暢な英語で会話を交わす。
サクラにはその光景がまるで映画のワンシーンの様に見えた。
いつの間にかヨシとおケイも寄ってきた。
「sorry、ワタシ用事が出来ました。これからヨコスカに行きマス」
会話を終えたシンディは皆が揃うのを見計らうとその事を坦々と伝えた。
「あら、残念ね」
おケイが一番に口を開いた。
「ま、しゃーない」
ヨシも微笑みながらシンディの事情を悟った。
「そう…」
少々煮え切らない表情で答えたのはサクラであった。
「ったく、何だそのシケたツラ。シンディは死ぬンじゃないんだぞ」
「そうですわ。今生の別れでもあるまいし」
「そうデス。ワタシが軍人だからって死ぬ訳じゃ無いデスよ」
シンディが一際明るく言い放った言葉に一同は目が一瞬、点になった。
「えーっ!」
サクラが素頓狂な声をあげる。
「ま、言われてみれば当然かもね。婚約者が軍人なら」
「つーかおケイ。したり顔で言ってるんじゃねーよ」
そんな三人をよそにサクラは慌てシンディの愛車。ハーレーの方に駆けて行った。
日本車とは違いリアフェンダーに対して平行に、しかも取って付けた様な感じで乱暴にあるナンバープレートとブレーキランプと併用しているナンバー灯。
ナンバーの標記は英語と数字の羅列でどう見ても日本の車検を通した車両では無いのは一目瞭然だ。
「う、外交官ナンバー…」
呻くように呟くサクラだった。




