「hell and heaven」⑥
「Wow!ステイツのハイウェイみたいデス!」
シンディが一番に声をあげた。
「おほ~、極楽浄土とはこの事かな?」
「これは見事なものね」
「これが降るような星空…」
各々が声をあげる。自然の織り成す万華鏡のような夜空。その中に吸い込まれそうになる感覚が彼女達の乗るバスを包み込む。
「ルート66…」
シンディがそうポツリと呟いた。
普段の彼女とは違う感じに隣に座るおケイが彼女の顔をそっと覗きこむ。
夜空と道路の間辺りに視点を定めないボンヤリとした虚ろな視線。
本国に馳せる思いが彼女の中で寄せ返して来たのか?その意外な表情がおケイの瞳に映る。
「あちらが懐かしい?」
おケイはシンディと視線を合わせず問いかけた。
「アチラ?ステイツの事ですか?」
「そう。故郷の事」
二人は見合う。
「あなたがどのような理由で日本に来たかは聞かないわ。でも思う事ところがあるなら言ってもらって構わないわよ」
「サンクス…」
シンディは静かに答える。そしておケイから顔を反らし再び車窓に視線を向ける。彼女の横顔が月明かりに照らされる。
「そう」
何も言わぬシンディに対してあえて素知らぬ素振りでおケイは顔をバスのフロントウィンドウに向けた。
バスはやまなみハイウェイをゴトゴトと進んで行く。
ヨシとサクラは車窓の景色に釘付けで二人の間に漂う微妙な雰囲気に気付いていない。
シンディは、はしゃぐ二人を一旦見ると微笑をたたえながらゆっくりと口を開いた。
「ワタシ日本の映画で見ました。四国は死の国と繋がっているッテ」
「そういう言い伝えがあるわね」
おケイは淡々と答える。
「ワタシのフィアンセはアーミーにいました」
「!」
おケイは思わず目を丸くしてシンディの方を向いた。
「ステイツは常に臨戦体制デス、彼が戦地に行くのは当然の事デシタ。ワタシはいつもの様に送り出したのですが、彼は冷たくなって帰って来ました」
「ごめんなさい!私酷い事を…」
おケイの声が当然車内に響き渡る。
「ノープログラム。ワタシは確かに戦争を知りませんから。戦争の事を知っているのは彼」
彼女とは逆にシンディは静かに答えた。
「よー。おっきい声出してどうしたの?」
異変に気付いたヨシがおケイとシンディの座るシートに近づいてきた。
「その…。彼女の婚約者が」
気まずそうな感じでおケイが口を開く。
「あんたが今さら人の生き死に驚く事ぁ無いでしょ」
予想に反してヨシは飄々と答えた。
「でも…」
自責の念にかられたおケイは言葉を濁す。
「ほうじゃほうじゃ。これからの事や」
その騒ぎを聞きつけた油屋がヒョコヒョコ近づいて来た。
「嫌な事も、辛い事も湯ん中に溶かちまえ」
「熊八!鼻ん下伸びちょるで」
「社長。相変わらずやの~」
「あいた~」
アヤメと運転手にそう言われた油屋は自分の頭をピシャリと叩いた。
「HAHAHA!アリガトウ、元気出ました」
シンディの笑い声が車内に響いたが、どこか社交辞令めいた感じだった。
「ねぇヨシ?あなたのスマホでシンディの彼氏と連絡ってとれないの?」
サクラがヨシに問うた。
「あー。アレはお互いに連絡先を交換してないとできないんだよ。私は従軍看護婦やってた関係で軍人が多いけど、それも明治、昭和の頃しかいないんだ。最近のになると…」
「そう」
ヨシの歯切れの悪い答えに車内の空気が再び重くなる。
「さぁみんな、着いたで」
そんな雰囲気の中、運転手・後藤は目的地に着いた事を知らせた。




