②
軽トラから誰か降りてくる気配をそこにいる全員が感じた。
「バタン」というドアの閉まる音がしたかと思うと軽トラの影から鮮やかな金髪が月明かりに照らされて現れた。
「で、オネーちゃん。調子悪い単車は?」
少し気だるそうな感じでその金髪は言葉を発すると姿を露にした。
サクラはその容姿に思わず息をのんだ。
なんと、その金髪の主はヨシと瓜二つの顔をしていた。
そして首から下は何と整備士が着るような白いツナギ姿だったのだ。しかもそのツナギは所々にオイル染みやらなにやらで結構汚れていたが、それがかえってベテラン整備士のような雰囲気を醸し出していた。
彼女はポリポリと後頭部を掻きながらボンヤリとした目付きで周囲の様子を伺うと、何かを見つけたように無言でバイク、ニンジャの元に歩み寄った。
「ほーっ!結構攻めてるじゃん」
そう細い目を丸くして叫ぶと、しゃがみ込みリアタイアに食い付かんばかり顔を寄せてその様子をマジマジと見た。
「いやー渋いねぇ!タイアの端まで溶かすなんて」
さらにそう言うとリアタイアを撫でるように触りまわした。
「公道でここまで使えるんだ。もうちょっと固めにセッティングを変えてもいいかも…ブツブツ」
なにやら要件そっちのけで夢中になり始めた様子だ。
「ちょっとアンタ。早くバイク直しなさいよ」
その様子に呆気とられていたサクラ達とは別にヨシが自分の分身のような整備士に言い放つ。
「あぁ、悪ィ」
彼女はそう言うとリア周りからフロント周りへと身体を動かした。
「あー、コリャ一発死んでるね」
開口一番そう言い放つ。
「なんで解るの?」
サクラはエンジンを始動させてもないのに故障箇所を言い当てた彼女に問うた。
「わかるも何も。エキマニ一本だけ渇いてねーじゃん。これで解らなきゃそのメカ、バカかヘボだね」
そう痛烈に言い放つとフロントフォークの辺りにしゃがみ込んでエンジンを見た。そして手を伸ばし集合管を素手でつかんだ。
「ほらやっぱり。つめてーもん、ちょっと待ってな」
彼女はバイクに背を向けると軽トラの荷台を漁りはじめた。
その様子を伺うサクラ。
ZX-12Rの影になって見えなかったが軽トラの荷台には工具と思われるローラーキャビネットが積まれていた。どうやら出先でもそれなりの整備ができる位の量がありそうな感じだ。
「んーと、ディープソケットとエクステンション、ラチェット…」
と独り言を言いながらローラーキャビネットの引き出しを引く。
「プラグレンチなら車載のをつかったら?」
サクラ軽トラのアオリ越しに工具を漁る彼女の後ろから話しかけた。
「あー。オネーさん、気持ちはありがたいけど、そのバイク車載積んでないから」
「えっ?そうなの」
「そりゃそうさ、ヘビーチューンのマシンだと車載工具じゃどーにもなんない事の方が多いっしょ。……とこれでよし」
彼女はそう言うとなれた手付きでそれぞれの工具を組み上げていく。ラチェットのラッチ音をキリリと一回鳴らすとバイク、ニンジャに身体を向けた。
「~♪」
鼻歌混じりに彼女はニンジャの左側。いわゆるクラッチレバーのある方に片膝を立ててしゃがみ込んだ。タンクの下。エンジンヘッド。カムカバーに手を添えると、そこから伸びてる一番近いテンションコードに手を伸ばした。この位置が丁度一番シリンダーだ。
「よっと」
そう軽く言うとポンっという気の抜けた音と一緒にテンションコードはプラグホールから抜け出た。
そこにディープソケットを突っ込むと手探りでプラグを引っ掛ける。
キリキリとリズミカルにラチェットのラッチ音が辺りに響く。しばらくするとスルスルっとプラグがソケットに引っ付いて出てきた。
彼女はプラグを取り外すとそれをマジマジと見て「ふうん」と唸った。
そして、ツナギのポケットを漁るとオイルライターを取り出した。
キンっとカバーの開く音の後に火がともる。その火はプラグの電極部分へと当てられた。
ジジっと何かが一瞬焼け焦げる音をそれは発する。
「こんなモンね」
彼女はそう呟くとオイルライターをツナギのポケットにしまった。
「お次は…」
と、言いながら立ち上がると彼女の視界にサクラが入った。
「ほい」
彼女は持っていたプラグをサクラの前に突き出すと、サクラはそれを受け取った。
サクラは受け取ったプラグを思わずマジマジと見た。
「いい感じで焼けてるよ。あんたがうまい具合に乗ってるから」
彼女はサクラに背を向けながらそう言うと、軽トラの助手席側のドアを開けてそこに顔を突っ込んだ。




