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おケイのZ3はニンジャのテールを確実に捉えた。
GPZ900R・通称ニンジャ。その他の別排気量の同名車種と区別する為、900ニンジャと呼ばれる事もある。
そのリアビューは実に特長的だ。細長い長方形のテールランプ。その両端に突き出たウィンカー。跳ね上がったスポイラー形状のリアカウル。
そして何よりその全てが直線を主体に形成されていてその姿は機能美という言葉を忘れさせる位に無骨だ。
Z3の有機的な曲線で構成されている車体とは対局をなす無機質的なデザイン。
しかしそれがかえって機械のみが持つ絶対的な力を誇示してくる。いや、押し付けてくるといったほうがいいような気さえする。
「漢カワサキ」
そんな汗臭い言葉が頭をよぎる。思わず付いて出た言葉に、ワタクシとした事が。と頭の中で吐き捨てるとおケイは前方の視界に集中した。
常軌を逸した速度。前方を走る車がまるで誰かに投げつけられているような速度で突っ込んでくる。Z3のステアリングをわずかに動かしてそれを右に左にかわす。
車列に見え隠れするバイクのテールをつつきながら地を這うような視線から彼女達を眺める。
彼女は一体何の為に走っているのだろうか?
一抹の疑問が脳裏を掠めた瞬間、その疑問が自分に返ってきた。
彼女はその質問の答えを振り切らんとシフトノブに手を伸ばす。
一般車の車列がばらけ始めてきた。もうすぐ前方がクリアになる。そうなるとサクラの乗るニンジャは自分を一気に引き離しにかかるだろう。バイクの圧倒的な加速にものをいわせて。
バイク…
車輪にエンジンをくくり付けただけの原始的な乗り物。生まれはドイツではなかっただろうか?おケイはあやふやな知識ではあるが思考を巡らせた。常識外れの速度の中で。
自動車に比べると圧倒的に少ない排気量。それを補うためにエンジンは自ずと高圧縮、高回転仕様になる。一分間に一万回転などザラだ。その為出力特性がある回転域から突然わいてくる。そこから絞り出された出力は有に軽自動車二台分あり、それを一本のタイアがハガキ一枚分の接地面積で受け止める。
しかもライダーは剥き身だ。その体一つで狂気のマシンを操る。ロールゲージの一本も無い。己の身を守るのはプロテクターとヘルメットだけだ。
正直割に合わない。
しかしなぜそのような物にまたがる。なぜそのような物でスピードを追い求める。なぜそのような物で勝負を挑んでくる。
考えれば考えるほどバイクという乗り物が解らなくなっていく。
おケイはまどろみにも似たその感覚に我を見失いかけたが、自分の隣から聞こえてくる金属とプラスチックの野獣の雄叫びを聞くと我に帰った。
「バイクごときに」
ポツリと出た言葉に何か割り切れない思いが滲んだ。
一般車が走る中、狂ってると思われかねない速度で走り抜ける。
Z3は四つタイアでがっしりアスファルトをつかむと後輪はエンジンから発せられた強烈なトルクを叩き付ける。何かに引っ張られてるような感覚。それとは対象的に己の身体はシートにジワリとめり込んでいくがそれをレカロのバゲットシートが優しく包み込む。
車外には恐らく猛烈な走行風があるに違いないがおケイの乗るZ3のコックピットにはそよ風程度の風しか入ってこない。
長い黒髪はその風を受けて艶やかに後ろへと流れていく
さすがは元航空機メーカーのBMW。このあたりのエアマネジメントが一味違う。
おっと、となりのバイクも確か航空機メーカーが関連企業にあったはず。
そう思った時にニンジャがやや前に出た。
ライダーはアッパーカウルにその身を小さくまとめるように収めていた。前方から襲い来る走行風から身を守るのは自分の眼前にあるプラスチックでできたカウルのみ。
油のように粘っこい空気を裂くように進んでいくバイクの姿と、それにしがみついているライダーの姿は四輪車のドライバーから見ると正直滑稽だ。
それゆえに常に思う。
一体何の為に走っているのか?




