③
格納筒に運び込まれたバイク・ニンジャはサクラの手によってラッシングと輪留めで固定された。
それにしてもサクラの淀みのない一連の動作にヨシをはじめ一同思わず呆気にとられた。
「これでよし」
そんな事になってるとは知らず彼女はガッシリと固定されたバイクを見ると満足気な表情を浮かべた。
「ほー」
山本さんは感心した声をあげるとサクラの方をみた。
「港湾作業に従事しているのかな?」
「ホント。鮮やかな手つきだったわよ」
山本さんとヨシの彼女を見る目が何か違う。
サクラはそれを読み取ると特にこれといった表情を浮かべる事もなく淡々と口を開いた。
「昔、倉庫でバイトしてた時に積込みもできるようになったの」
「はぇー」
ヨシは思わずのぼせた声をあげた。
「では、出港準備よろしだな」
山本さんはそういうと伝令管に身体を向けた。
「艦長、出航準備よし」
山本さんがそう伝令菅に向かって叫ぶと船体はまるで身震いするように「ドルン」とエンジンの唸りをあげた。
サクラの足元に船体の振動が軽く伝わる。
「さ、東郷閣下に別れの挨拶をしようか」
山本さんはそういうと二人に背を向けた。それについて行く。サクラとヨシは艦橋にでた。
岸壁から徐々に離れていく伊四〇〇潜。バースでは東郷さんが帽子を振っていた。
サクラとヨシもそれにならって手を振った。
それにあわせて伊-四〇〇は徐々に船足を早めていく。
戦艦三笠が、東郷さんが、更に小さくなる。そしてそれらは沖合に出るとほとんど見えなくなった。
漆黒の海原には白い航跡が残るだけだった。
「あーあ、見えなくなっちゃった」
ヨシが気の抜けた声をあげる。
「どれ、我々も中にはいるか」
山本さんはそう言うとハッチの梯子下っていった。二人もあとに続く。
「長官、入ります!」
一人の水兵がそう声をあげる。艦橋のハッチから伸びている橋子はそのまま指令室へと繋がっており、サクラとヨシはそこに降り立った。
「これが伊-四〇〇の司令室」
サクラはそう呟くと息を呑んだ。
無数に巡らされたパイプ。壁のように立ち並ぶメーター。
「潜航深度三十!!」
艦長の号令が飛ぶ。次の瞬間に伊-四〇〇が全身に海水を吸い込みタンク内にある空気が移動する音が「バシュー」と轟いた。
やがて艦内に聞こえていた波を割く音は聞こえなくなり異様な静けさが辺りを支配した。
「深度十」
副艦長が深度計を読み上げる声が静かに司令室に響く。
「深度二十」
主機がディーゼルエンジンからモーターに切り替わっているので船内にはヒューンというモーターの駆動音しか聞こえない。
「深度三十潜舵水平」
「潜舵水平よし!」
操舵手の復唱が艦内に響くと船体は心なしか水平を取り戻したような気がした。
「これが潜水艦の中かぁ~」
サクラは思わず声を漏らした。
「いささか、狭いがこう見えても伊ー四〇〇は世界最大の潜水艦だ。ゆっくりしていってくれ」
山本はそう二人に声をかけた。そして艦長に目配せをする。それを受けた艦長は「甲板士官、案内を頼む」と一人の青年をサクラとヨシにあてがった。
「どうぞこちらへ」
甲板士官の彼は彼女達を艦尾方向の水密扉の方へと促す。
彼女達は屈まないと通れない水密扉を潜る。細く狭い艦内を搭乗員とすれ違いながら移動していく。
そして、ベッドの立ち並ぶ所を過ぎると、とある扉の前で甲板士官の彼は立ち止まった。
「こちらをお使い下さい」
彼はそう言うとそのドアを開けた。
中は何とか二人位は居れそうなスペースがありベッドのような寝台が一つあった。
「潜水艦にゲストルーム?」
サクラはその部屋に顔だけを突っ込むとそう呟いた。
「へー、そんなのあるんだ」
ヨシがサクラの後ろから話しかける。
「いや、潜水艦にそんなのが有るって聞いたことがないわ。個室が宛てがわれるのは艦長だけよ」
「よく、御存知で」
「ほえー。って事は普段は何につかっているの?」
ヨシが話しながら甲板士官の方に顔を向ける。
「医務室です。我々、死んだ人間には必要有りませんので」
「へー。強がっちゃって」
ヨシが甲板士官の彼をからかうような口調で言葉を飛ばす。
「本当にお借りしてよろしいんですか?」
サクラは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「構いません。どうぞごゆっくり」
力強くそう言い放つと彼は回れ右をした。
その後ろ姿を見送るヨシ。彼女は「フーン」と軽く白けた感じの言葉を吐いたが、それとは裏腹にその表情は何かを見守るような優しい感じだった。




