②
三笠の甲板に残された二人は東郷さんの行き先を目で追った。
バースにいつの間にか伊号潜水艦は接舷されておりラッタルが掛けられていた。そのラッタルの先、陸側に東郷さんはいた。
サクラとヨシはお互い見つめ合うと申し合わせたかのようにその場から走り出した。そして東郷さんの元へと駆け寄った。
「おぉ、別に甲板で待ってもろおてよかったのに」
少し驚いた感じで彼はそう言った。そして二人から視線を伊四〇〇に掛けられたラッタルに移した。
先ほどまで気がつかなかったがその先には白い軍服をまとった男性が一人の立っていた。
「お、現れたごたるの」
東郷さんはそう呟くと軽く微笑んだ。
カンカンカンとリズミカルにラッタルを降りてくる音がする。
東郷さんはその彼を少し頼もしいような、まるで息子でも見るような愛おしい目で眺めていた。
「お久しぶりです東郷閣下!」
そしてその彼は東郷さんを目の前にすると挙手敬礼をした。
「ん。久しいの山本君」
東郷さんはそう言いながら答礼をする。
「ん?山本…」
サクラは東郷さんの背中越しに山本と呼ばれた男性をまじまじと見た。
「あ、イソ君じゃん」
「イソくん!?」
ヨシの放った言葉にサクラは素っ頓狂な声をあげた。
「おう、ヨシじゃないか」
彼女がイソ君と呼んだ彼はどうやらヨシと顔見知りの様子だ。
「苗字が山本で名にイソが付く帝海の人物なんてあの人しかいないじゃないの」
何か興奮するような感じでサクラはその人物を改めて見た
「イソ君も確か海軍の偉い人なんだよねー」
そんなサクラをよそにヨシはまるで友達のように山本なる人物に接した。
「まぁ、偉いというかなんというか…」
彼は東郷さんの前なのか?少し気まずそうにヨシの問いかけに応じた。
「あなたその人は連合艦隊の司令長官、山本五十六よ!!」
「おいもそうなんだがな…」
東郷さんがポツリとつぶやく。
「トーゴーさんも海軍の偉い人。イソ君も海軍の偉い人。偉い人が二人もいるってなんか凄いね」
興奮し、まくしたてるサクラを尻目にヨシはひょうひょうと言ってのける。
「ま、軍人でもない限り我々の事は気にする事はありもはん」
「ですな」
そういうと二人の長官はサクラの方を見た
「明治帝海の司令長官と昭和帝海の司令長官が私の前にいる…」
感動に震えるサクラ。そんな彼女から一旦視線を外す東郷平八郎と山本五十六。
「ところで山本君?ちと頼みごとを聞いてくれんか?」
「ハッ。なんなりと」
東郷さんはチラリとサクラとヨシを見ると言葉を続けた。
「彼女達を乗せていってはもらえないか?」
「お安い御用で」
山本五十六は即答した。
「やった!これなら移動する間は寝てられる」
ヨシはパチンと指を鳴らす。
「え?伊号潜水艦に乗れるんですか?」
「あぁ、そうだよ」
サクラの問いかけに優しい口調で答える山本五十六。
「ささ、どうぞ」
山本五十六はサクラを伊四〇〇へ繋がるタラップに促すが、サクラの足はそちらへは行かなかった。
「乗りたいのは山々なんですけどバイクが…」
サクラは戦艦三笠が停泊するバースの脇に止められたバイク。ニンジャの方に視線を向ける。
「君の単車かい?」
そう言うと山本さんもサクラと視線を重ねる。
「確かにアレを置いていくのは忍びないわね」
ヨシもそちらを見やる。
「なら、載せていけばいい」
山本さんはサラリと言ってのける。
「えっ!?大丈夫なんですか!」
サクラがそう言った瞬間だった。伊四〇〇の艦橋の下と思われていたところの先端が大型のハッチのように開き始めた。
「伊四〇〇の艦橋と船体の間には戦闘機をしまう格納筒がある。単車一台運ぶ位わけない」
山本さんがそういうとさらに艦尾付近にあるクレーンのブームがバースに向かって伸びてきた。
サクラはバイクに駆け寄る。ブームの先端かフックがスルスルと降りてきた。サクラはそれを受け取ると慣れた手つきでハンドルからグラブバーへと掛けた。
「へー」
ワイヤーの掛けられたニンジャはヨシの感嘆の声と共に闇夜に浮かんだ。
そしてそれは甲板の上へと降ろされた。




