乱れる星々が示す、知らぬ恋と不穏な未来
星の庭園は、夜と星々の女神アステリアの住まいであり、彼女の内なる世界そのものだった。
輝く星々が静かに舞い、池には天界の夜空が映る。ここは、彼女が未来を読み解く神聖な場所。
けれど今夜、星々は静かではなかった。
「おかしい……」
星図が揺れ、星の軌跡が不安定に乱れる。普段なら穏やかに示される未来の光が、まるで何かに阻まれるようにかすかに震えていた。
アステリアは息を詰めた。
未来が……見えない?
そんなはずはない。星々は常に、未来を正しく示すはずなのに。
それなのに、今夜は違う。
光の中に影が浮かぶ。
イグニスとリリス。
けれど、次の瞬間には霧のように消えた。
それだけではない。
揺れる星々の光が、新たな影を映し出す。
ファリオン……!
胸の奥が疼く。
彼は、天界の光そのものだった。白金の髪、夜明けを映した瞳、まっすぐな眼差し――。その笑顔は、星々よりも心を揺らす。
けれど、今回は違う。
星々が、彼を照らしていない。
光は曖昧に揺らぎ、まるで彼の運命そのものが見失われているようだった。
それだけではない。
未来視で見えたはずの「道」すらも、今はぼんやりとしている。
まるで、未来そのものが消えかけているかのように。
アステリアは思い出す。
過去にも、未来視が乱れたことがあった。それは、かつて風の神ゼピュロスが代替わりする直前だった。
星々は警告していた。けれど、そのときも未来を変えることは許されなかった。
結果――天の風は一度止まり、新たな神が目覚めるまでの間、世界の均衡が崩れた。
ゼピュロスの代替わりによって生まれた新たな風の神は、まだ幼く、すべての神力を受け継いではいなかった。その未熟さゆえに、しばらくの間、風は安定せず、大地の恵みもまた滞った。
あのとき、未来視は不安定になり、星々の示す軌跡が乱れた。
そして今夜も、同じように――未来が見えない。
まさか、また誰かが代替わりするの……?
未来視の異変は、これまでにも何度かあった。だが、これほど明確に揺らぎ、何も見えないのは初めてだった。
アステリアは、焦る気持ちを抑えながら星図に手を伸ばし、指先で繊細な光をなぞる。
イグニス、リリス、そしてファリオン。
彼らの未来は絡み合い、行き先を示さず、ただ曖昧に揺れている。光が定まらない。
「どうして……」
星々が震え、光が弾ける。
アステリアは驚いて目を開けた。けれど、新たな光景は現れない。ただ、不安とともに、確信が芽生える。
「彼らに何かが起こる――それだけは、確かだわ」
星々はアステリアに未来を囁く。
けれど、たとえそれを知ったとしても――未来を変えるために手を貸すことは許されない。神は、運命に干渉してはならない。それが、天の理。
なのに、じっとしていられない。
何もできない自分が、悔しくて仕方がない。
指先に、無意識に力がこもる。
何もしなければ、未来はそのまま流れていく。たとえ彼らが危機に陥ると知っていても、手を伸ばすことはできない。
――それが、どれほど残酷なことか。
でも、過去に同じことを見過ごして、私は何もできなかった。
あのとき、せめて誰かに警告できていたら――。
直接手を貸せなくても、導くことはできる。言葉をかけ、警告し、未来に気づかせることは――。
でも、それすら許されないのなら?
私は、ただ見ているだけなの……?
アステリアは星々を見上げた。
星の輝きは、まだ不安定なまま。けれど、必ず再び導いてくれるはず。
「星々よ、どうかもう一度、私に示して……」
夜の庭園に、静かな祈りが落ちた。
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