第45話 褒めて伸ばすタイプ
おれがサフィアに対し、次元の違いを見せつけた後。
とりあえず、リミアとサフィアに魔力出力を意識して魔法の練習をしてもらっている。こうして見ていると、リミアのほうはかなり筋がいいな。田舎育ちで魔法について学ぶ機会がなかっただけで、魔法に関する才能は高いようだ。
ついでに言うと、頭もけっこう良いみたいだし、もちろん見た目は非常に良い。さすがは、おれの人生の一人目のメインヒロインだ。付き合いたい……。
そういう観点で見ていくと、サフィアのほうは魔力出力の操作はやや苦手なようだが、魔法に関する才能自体は高い。頭の良さに関してはリミアに比べれば劣るが、見た目のほうは負けず劣らずで非常に良い。さすがは、おれの人生の二人目のメインヒロインだ。付き合いたい……。
それと、見た目に関しては胸が劣っていると思う人もいるかもしれないが、その考えは誤りである。なぜなら、胸の大きさというのはあくまで個人の好みの問題だからだ。ゆえに、大きかろうが小さかろうがそこに貴賤はなく、その全てが尊く素晴らしい存在である。
さて、そんなおれの純粋にして歪んでいる願望や趣味嗜好のことはいったん置いといて真面目にやるか。
「リミア、ちょっといいか?」
「はい、なんですか?」
「リミアは魔力出力の操作自体はけっこう出来ているほうだ。だから、魔力出力を上げる練習より、新しい魔法の練習をしたほうがいいな」
「それなら、光の中級攻撃魔法の<輝閃光矢>ですか?」
「ああ、それにしよう」
「分かりました」
リミアは色々な魔法の魔法術式が書かれている教本を見て、<輝閃光矢>の魔法術式を確認し始めた。さすがのおれも、自分が使えない上に希少な光魔法の魔法術式はちゃんと覚えてないからなあ。
しかし、そんな光魔法でも過去に使い手はいたようで、魔法術式の記録が残っていて助かった。やはり、王都にある魔法学院は伊達じゃないな。
さて、リミアのほうはこれでいいとして、次はサフィアのほうだな。おれは魔力出力の向上が上手くいかず、その可愛い顔を歪ませているサフィアに声をかける。
「苦戦してるみたいだな」
「ええ、これってどうやったら上手くいくの?」
「そうだなあ……。まずは、体内の魔力の流れをもっと意識して、それを右手に流し込むようにする。その後、すぐに魔法を発動せず、右手に魔力が溜まってから発動するのがいいかな」
「……難しそうだけど、分かった。やってみるわ」
サフィアはおれのアドバイスに従い、魔力を右手に溜め始めた。
「……こ、こんな感じでいいかしら?」
「ああ、出来てるな。ただ、もう少し魔力を溜めてから魔法を発動してみろ」
「分かったわ」
「………………よし、そろそろいいな。その状態で<火炎弾>を発動してみろ」
「ええ。いくわよ、<火炎弾>!」
サフィアは的に向かって<火炎弾>を放つ。的に命中した<火炎弾>は以前と比べ、明らかに強い勢いで的を燃やしていた。
「ねえ、これって上手くいったってことよね!?」
「ああ、そうだ」
「やった!!」
サフィアは見てるこちらまで嬉しくなるような笑顔をして喜んできた。よし、こういうときはもっと褒めてあげたほうがいいだろう。おれは褒めて伸ばすタイプの人間だからな。そう思い、おれはサフィアの頭を撫でて褒める。
「すごいぞ。サフィア」
「なっ……!」
サフィアはおれから勢いよく離れ、頬を朱に染めながら自分の頭を右手で抑えた。……しまった。なんか、無邪気に喜んでいるサフィアが子どもっぽいと思って、つい頭を撫でてしまった。
「わ、悪い。嫌だったよな」
「……いきなりだったから驚いただけで別に嫌じゃないわよ。だから……」
「だから?」
「……もっと褒めなさいよ」
そう言って、サフィアはおれに近づき頭を差し出してきた。……え、いいの? いや、これはどう考えてもOKだよな。そう考え、おれは再びサフィアの頭を撫でる。
「改めて、すごいぞ。サフィア」
「……うん。ありがと……」
今度のサフィアはおれから離れたりはせず、口元を緩ませて素直に喜んでくれていた。女の子は頭を撫でられるのが好きだという話を聞いたことがあるが、あれは都市伝説ではないようだ。
……まあ、さすがに全ての女の子がそうだとは思えないので、きっとサフィアは頭を撫でられるのが好きなのだろう。ほら、子どもって頭を撫でられるのが好きな気がするし、その点でいくと、サフィアって体型の一部が子どもっぽいからな。だが、それは決して彼女の欠点ではなく、魅力の一つである。
さて、ずっとこの触り心地のいい髪に触れていたい気分だが、そろそろやめておこう。やりすぎると、嫌われるかもしれないしな。
「……じゃあ、さっきの感じで練習を続けてみてくれ」
「ええ、頑張るわ」
サフィアは的のほうに向き直り、魔法の練習を再開した。よし、サフィアのほうはとりあえずこれでいいだろう。じゃあ次は、リミアの様子を確認するか。そう考えておれがリミアに視線を向けると、リミアのほうもこちらをじっと見ていた。
……なにか魔法について訊きたいことでもあるのだろうか? まあ、本人に確かめてみればいいか。そう思い、おれはリミアに近づいて声をかける。
「リミア、なにか魔法について訊きたいことがあるのか?」
「……いえ、それは無いですけど……」
「そうなのか? でも、なにかありそうな感じだよな。遠慮しなくて良いから言ってみてくれ」
「……じゃあ、その、……さっき、サフィアさんをすごいって褒めてましたよね?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「……わたしはすごくないんですか?」
リミアにしては珍しく、少し不満げな目でおれを見た。……なるほど。その話し方や体型の一部の大きさからつい大人っぽく感じるところがあるが、リミアもまだサフィアと同じ十五歳の女の子だしな。つまり、褒めて欲しいということか。
「リミアもすごいぞ。魔法の才能があるし、よく頑張ってる」
「……それだけですか?」
「え? それだけって……」
どういうことかと思ってリミアのほうを見ると、頭を少し下げているように見える。……これはつまり、そういうことなのか? ……まあ、もし違ってもちゃんと謝れば許してくれるだろうし、大丈夫だろう。そう思い、おれはリミアの頭を撫でた。
「改めて、リミアもすごいぞ」
「……はい。ありがとうございます……」
先ほどのサフィアみたいに、リミアも笑顔になって喜んでいる。どうやら、リミアも頭を撫でられるのが好きなようだ。だってほら、今も「えへへ……」って言って喜んでるもん。なにこれ、超可愛い。
よし、これから二人を褒めるときは積極的に頭を撫でていこう。可愛いリミアの可愛い頭ナデナデタイムが終了し、魔法の練習を再開したリミアを見ながら、おれはそう決意した。