第44話 次元の違い
放課後になり、リミアやサフィアと魔法特訓の時間になった。
「今日は授業で習った魔力出力に関して教えてもらっていいですか?」
「ああ、いいぞ。だが、そのためには一つ確認したいことがある。サフィア」
「なにかしら?」
「<灼熱火炎弾>を発動してみてくれないか? <神聖不死鳥>を発動出来た今のお前なら使えるはずだ」
なんたって、<灼熱火炎弾>と<神聖不死鳥>は魔法術式の内、形状を決めてる部分が違うだけだからなあ。
「出来るとは思うけど、なんで<灼熱火炎弾>を使う必要があるの?」
「いいからやってみてくれ。これには……、とても大切な理由があるんだ」
「あなたがそこまで言うならやるけど……」
サフィアは魔法陣を描きそこに魔力をを込める。すると、見事に<灼熱火炎弾>の発動に成功し、サフィアの右手に大火球が浮かび上がった。
「よし、出来たわ。それで、この<灼熱火炎弾>をどうするの?」
「じゃあ、今からおれもある魔法を放つから、その魔法とお前の<灼熱火炎弾>をぶつけ合うぞ」
そう言って、おれは魔法陣を描き、魔力出力を調整してある魔法を発動する。その結果、おれの右手には小さな火球が浮かび上がった。
そして、それを見ていたリミアがやや戸惑いながら疑問を口にした。
「……え、ちょっと待ってください。その小さな火球とサフィアさんの<灼熱火炎弾>をぶつけ合うんですか? それはさすがにレインさんが危ないんじゃ……」
「心配してくれるその気持ちは嬉しいが大丈夫だ。なんたって、お前達の目の前にいるのはこのおれだぞ」
「……確かに、レインさんに心配なんていらないですよね」
「ああ。だから、遠慮せずこい。サフィア」
「分かったわ。じゃあ、いくわよ。<灼熱火炎弾>!」
思い切り右手を前に突き出して魔法を放ったサフィアに対し、おれは強者の余裕を持って、人差し指一本で魔法を放った。
そして、サフィアの放った<灼熱火炎弾>とおれの小さな火球が激突する。その結果、おれの火球は<灼熱火炎弾>を突き破って消滅させ、そのままサフィアのほうにゆっくりと向かう。
「う、嘘でしょ……。あたしの<灼熱火炎弾>があんなに小さい火球に負けたの……」
おれとサフィアの実力差を考えればそこまで驚くことではない気がするが、仮にも上級攻撃魔法が小さい火球に破れればその衝撃は大きいようだ。そして、その衝撃のせいで、おれの放った火球が迫っているにも関わらず、サフィアは微動だにしない。
このままでは、サフィアに魔法が当たってしまうため、おれはサフィアの前に魔力障壁を展開する。火球はその魔力障壁にぶつかることで力を失い消滅した。
「サフィアさん、大丈夫ですか?」
「……え? あ、ええ、平気よ」
リミアの言葉で落ち着きを取り戻したサフィアは、先ほどの魔法のぶつかり合いを見て感じた結論を口にした。
「でも、してやられたわ。つまり、さっきあなたが放った小さな火球は、魔力出力を調整して極限まで小さくした<灼熱火炎弾>だったってわけね。それなら、あたしの<灼熱火炎弾>が一方的に負けても仕方ないわ」
完全に間違っているがまさに理想的な結論を述べたサフィアに対し、おれは厳かな声を出して真実を伝える。
「……今のは<灼熱火炎弾>では無い……。<火炎弾>だ……」
「!!」
「……同じ魔法といえども使う者の魔力出力によってその威力は大きく異なる。つまりおれの<火炎弾>とお前の<灼熱火炎弾>ではおれの魔法のほうが威力が大きいということだ……」
「そっ……、そんなっ……!!」
「……仕方の無いことだ。次元が違いすぎる。ここまで差があるとはな……」
おれの言葉を聞いたサフィアは明らかに狼狽していた。……いかん、ついカッコつけたくなってやりすぎたかもしれない。まあ、さっきおれが使ったのは<火炎弾>で合っているので、問題点は別にある。
「悪い、驚かせすぎたな。確かにおれは強いが、だからといって別にお前が弱いってことじゃないぞ」
動揺した影響か、サフィアはおれの言葉に対して声を出さない。そんな様子を見て気を遣ったのか、サフィアの代わりにリミアがおれに問いを発した。
「……どういうことなんですか?」
「サフィアは魔力出力のやり方が悪いんだよ。一つの魔法に込められる魔力を百とすると、サフィアが込められている魔力はせいぜい五十だ。さらに、先ほどのおれの魔法は速度も大きさも最小限にして、九十以上の魔力を威力に振った。ここまで条件に差があれば、ああいう結果になるのは当然のことだ」
「……そ、そういうことだったのね」
どうやら、おれの説明を聞いてサフィアも会話をする余裕を取り戻したようだ。では、元気を取り戻せるように良いことを教えてやろう。
「そういう意味だと、むしろサフィアはすごいぞ。魔力出力のやり方が悪いのに、現時点でも魔法の威力がかなり高いからな。魔力出力のやり方をきちんと学べば、いずれはおれや師匠に匹敵する程の威力で魔法を放てるようになるだろう」
「ホ、ホントに? あたしってそんなにすごいの?」
「ああ、お前はすごいぞ」
「そ、そうなのね。……うん、ありがと」
そう言って、サフィアは口元を綻ばせていた。うんうん、やはり美少女には笑顔が似合うな。まあ、魔法の威力や速度が同レベルになるだけで、魔力量や使える魔法の数が違うから、総合的にはおれや師匠のほうが明らかに上だ。だが、そんな水を差すようなことは言わないでおこう。
そんなことを考えていたおれに対し、リミアが疑問を投げかけてきた。
「そういえば、なんで<神聖不死鳥>ではなく、<灼熱火炎弾>を放つ必要があったんですか?」
「言われてみればそうね。別に、<神聖不死鳥>を使っても同じ結果になったんでしょ?」
「確か、最初にとても大切な理由があるって言ってましたよね? それってなんなんですか?」
ふむ。やはり二人とも分からなかったか。まあ、仕方がないな。
「理由は一つだ。それは……」
「「そ、それは……?」」
リミアとサフィアは息を呑んでおれの言葉を待つ。そして、おれはそのとても大切な理由を大きな声で言い放った。
「上級攻撃魔法でカッコイイ<神聖不死鳥>が、下級攻撃魔法である<火炎弾>に破れるカッコ悪い瞬間なんて見たくなかったからだ!」
「はあ……。なにかと思ったらそんな理由なのね……」
「でも、レインさんらしいですね」
「そうね。レインらしいわ……」
残念ながら、二人ともその理由には共感できなかったようだ。だがまあ、理解はしてもらえたようなのでよしとしよう。




