第43話 魔力出力
「は~い、ではみんな~、本日の実技の授業を始めま~す」
ルミル先生が相変わらずの癒やしボイスでそう宣言した。
「本日は~、魔力出力について教えま~す。魔力出力とは~、魔術師が一つの魔法や魔力障壁などに込められる魔力の量のことで~す。この魔力出力を変化させることで~、一つ一つの魔法の効果も変化しま~す」
やはり、今日の授業の内容もおれには知っている内容だな。とは言っても、おれだってなんでもは知らないわよ。知ってることだけ。
「では~、具体的にどう変化するかですが~、魔法の威力~・速度~・大きさ~、この三つが変化しま~す。ではここで~、一度例を見せますね~」
そう言うと、ルミル先生は両手を前に突き出した。そして、両方の手で<岩石砲>を発動し、的に向かって放つ。すると、右手で放った<岩石砲>は的を完全に破壊したが、左手で放った<岩石砲>は的を半壊させる程度だった。
「このように~、同じ魔法でも~、魔力出力によって威力が変化しま~す。次に~」
先ほどと同様に、ルミル先生は両手を前に突き出し、両方の手で<岩石砲>を発動して的に放つ。その結果、右手で放った<岩石砲>よりも、左手で放った<岩石砲>は明らかにその速度が遅かった。
「これが~、魔法の速度変化の例で~す。では最後に~」
今度のルミル先生は両手を左右に広げて上に向け、とある魔法を発動する。すると、ルミル先生の両手には違う大きさ……、ではなく同じ大きさの岩石が浮かび上がった。その後、それを見た生徒の一人がルミル先生に疑問を投げかける。
「……あの、どちらも同じ大きさの<岩石砲>見えるんですが、なにが違うんですか?」
「ふっふっふ~、そうですよね~。そう見えますよね~。でも~、ちゃんと違いがあるんですよ~」
ルミル先生はその大きな胸を張りながら、やや自慢げにそう言った。どうやら、今の魔法を発動する際の魔力出力の調整が上手くいったことが嬉しかったのだろうが、そんなルミル先生も非常に可愛らしい。
そして、ルミル先生がその二つの魔法の違いを口にする。
「では~、答えを発表しますね~。左手で発動しているのは~、土の下級攻撃魔法である<岩石砲>ですが~、右手で発動しているのは~、土属性の中級攻撃魔法である<巖岩石砲>なんです~」
「えっ? 見た目は同じ大きさなのに、魔法のランクが違うんですか?」
「そうですよ~。実は違うんですよ~。そして今のが~、魔法の大きさの変化の例で~す」
ふむ、魔力出力の調整、特に出力を下げるほうは難易度が上がるのだが、さすがは八星魔術師であるおれ達のルミル先生だな。特に、最後の<巖岩石砲>を<岩石砲>に見せかけたのは見事だった。
そして、そう感じたのはおれだけで無いようで、他の生徒、特におれと同じルミルの民のみんなは盛り上がっていて、ルミル先生に拍手を送っている。その際、ふと自分の両手を見ると、いつの間にかおれもルミル先生のことを拍手で讃えていた。
「では~、最後にもう一つだけ~。魔術師のランクが高い人ほど魔力量が多くなるのと同様に、魔力出力も基本的にはランクが高い人ほど多いんですよ~。だから~、高ランクの魔術師ほど魔法の威力などが高くなりま~す」
「基本的にってことは、違う場合もあるんですよね?」
「その通りです~。魔力出力の大きさ次第では例えば~、八星魔術師の魔法より七星魔術師の魔法のほうが威力が高い場合もありま~す」
その後、ルミル先生は生徒全員を見回し、他に質問が出なさそうなのを確認するとパンッと両手を叩いて口を開いた。
「では~、みんなで実際に練習してしましょう~。魔法の威力~・速度~・大きさ~、最初はどれでもいいので、まずは魔力出力を上げることを意識して、魔法を使ってみてくださ~い」
ルミル先生のその言葉で生徒達は魔法の練習を開始する。だが、やはり説明を受けただけでは難しいようで、ルミル先生に具体的なやり方を質問している男子生徒がいた。それを受け、ルミル先生は以前見たように身振り手振りを交えながら、いつものようにルミル語で質問に答える。
「そうですね~。威力を上げるときは、はあ~~~~~ってやって、速度のときはやあ~~~~~ってやる。そして、大きさのときはたあ~~~~~って感じかな~」
「ありがとうございます! 大変勉強になりました!」
なんかやたらといい返事をしているのできっとあの男子生徒はルミルの民なんだろう。そして、その近くにはルミル先生の説明を必死になってノートに書き留めている男子生徒もいた。あいつは間違いなくルミルの民だな。
そうして、ルミル先生のほうに視線を向けていたおれのすぐ側で、リミアとサフィアが話し始めた。
「今日の練習は難しそうですね……」
「そうね。今回のはあたしもあまり自信がないわね」
ふむ、いつもは自信満々なサフィアにしては珍しく弱気な発言だな。まあ、以前の授業でも気になったが、サフィアはまだ魔力出力のコントロールが苦手みたいだしな。というか、おそらく今まではそのことを意識せずに魔法を使っていたんだろう。
「やっぱりレインさんは出来るんですか?」
「ああ、出来るぞ。とりあえず一つだけ例を見せてやろう」
おれは魔法陣を二つ同時に描き、的に向かって<疾風刃>を放つ。その二つの風の刃は時間差で的を切り裂いた。
「今のが速度変化の例だな。まあ、いきなりは難しいからルミル先生の言う通り、この授業では魔力出力を意識して魔法を放つくらいでいいだろう。後はまたいつものように、放課後に特訓しよう」
「はい、分かりました」
「ええ、やってみるわ」
こうして、リミアとサフィアの二人も魔法の練習を開始した。
さて、魔力出力のことを授業でやったのならちょうどいいな。今日の放課後の特訓では、是非とも一度はやってみたかったアレをやろう。