第38話 安心
おれは今、おれの部屋のベッドの中でリミアと一緒に寝ている。
この言い方だと意味深に聞こえるかもしれないが、別にやらしい……、じゃなくてやましい……。なんかこの状況だと、やらしいもやましいも大して変わらなくない? おれの気のせい?
……まあ、いいや。気を取り直してやましいことはしていないし、する気もない。……な、ないよ。うん、ない。たぶん、おそらく、ない、と思われる様な気がするくらいにはない。……いや、これだと全然だめじゃねえか。
い、いや、大丈夫だ。落ち着け、おれ。魔法学院の入学試験のときにリミアと二人で宿屋に泊まったときだっておれは別になにも……、してたね、うん。いやでも、あれは事故みたいな物だから。別におれの理性が暴走してああなったとかじゃないし。
そもそも、今のおれとリミアはちゃんと距離を取った状態だ。これなら、同じベッドの中とはいえ、問題はないだろう。
「……あの、レインさん」
「どうした? やっぱり眠れないのか?」
「……はい、寝付けそうにありません。なので……、もう少し近くにいってもいいですか?」
「………………まあ、少しくらいなら」
「では、失礼します」
リミアはおれのほうへと近づいてくる。そして、おれの身体にピタリと密着してきた。
……!? いや、ちょっと待って!? リミアさん、近いって! リミアさんあなた、「少し」の意味分かってる!?
それとも、この世界の「少し」と日本の「少し」って実は意味が違うの? なにこれ、言語の違いなの? いや、言語の違いは関係ないな。だって、おれが喋ってるのは日本語じゃなくてこの世界の言語だし。
というか、これはマジでヤバイって! リミアさんあなた、男はみんな狼って言葉を知らないの? しかも、ここはおれの部屋のベッドで時間帯は夜であることを踏まえると、このままじゃおれは七つの最強種の一体に倣い、夜襲のレイオーンさんになっちゃうよ!
だいだい、宿屋のときはちゃんとリミアと逆方向を向いていたのに、なんで今回のおれはリミアのほうを向いてたんだよ! そのせいで、リミアに正面から抱きつかれたよ。背中に抱きつかれるより、このほうが明らかにやばいよ!
しかし、そんなおれの内心など知るわけもないリミアはおれの胸のあたりに顔をうずめながら、口を開く。
「……やっぱり、こうしていると安心します」
「……そ、そんなに安心する?」
「……はい、します」
……そ、そうだ。こうやって、リミアとの会話に集中すれば、今おれに触れている身体の感覚から意識をそらせるかもしれない。
「……な、なんでそんなに安心するんだ?」
「……だって、レインさんは出会ったときからずっとわたしに優しくて強くて頼りになって。わたしが入学試験の前日に不安になっていたときや、今日だってわたしのことを助けてくれて。そんなレインさんがこうして近くにいてくれたら、安心するに決まってますよ」
「……そうか」
「はい、そうです」
うん、そうか。それは良かった。リミアが安心できるなら、それは本当に良かったんだけど……。
おれは全然安心できないけどね! やっぱ無理だわ! 会話してても体の感覚から全然意識をそらせない! え、マジでどうすんの、これ!? もしかして、この状態で一晩を過ごすの!? いや、無理でしょ!! 絶対、そのうちおれの理性が暴走するよ!!
だって、リミアの身体の温かさとか柔らかさが思い切りおれの身体に伝わってきてるんだよ! 特に、おれのお腹の辺りにすごい柔らかくて大きい二つの膨らみとか感じるんだけど!
なんか、ラブコメ作品とかで主人公がヒロインにこれよりもっと過激なやり方で迫られてるのに耐えてる奴とかいるけどさ。おれにあんなダイヤモンドのように硬い理性はないよ! 無理だよ!
い、いや、冷静になれ、おれ。主人公という言葉で思い出したが、このおれとてある意味では主人公だ。そう、リミアと初めて会った日に考えたように、おれの人生の主人公はこのおれだ。そして、目の前にいるのはおれの人生のメインヒロイン改め、おれの人生の一人目のメインヒロイン。
そう、ゆえにこの状況にまったく耐えられないってことはない。おれだって、それなりに精神力の強いほうだ。そこに、おれの主人公力を加えて計算すると、この状況におれの理性が保てる残り時間は算出できた。
その時間とはズバリ、四分。……え? 四分しかないの? いくらなんでも短すぎない? おれの精神力と主人公力低すぎない、これ?
い、いや、だが、大丈夫だ。なぜなら、このおれの頭脳を持ってすれば、この危機的状況を脱する策を考えることは出来る。
そして、そのためには、四分もあれば充分……!! (つーか、これが限界)
そう、限界だ。
おれの理性が限界を迎えるまで約四分……。考えるんだ……。四分以内でこの状況を解決する方法を!