第37話 帰還と新たな強敵
誘拐犯に勝利したおれは念のため、魔力感知で周囲を観察した。
……よし、新しい敵がこの建物に入って来たとかはないな。そして、おれの目の前にいる奴もサフィアが倒した男も気絶しているだけでちゃんと生きている。
これで安全の確保は出来たので、おれはリミアのほうに視線を向ける。すると、リミアは部屋の入り口で両手を組み、目をつむってまま立っていた。その様子はまるで神様に祈りを捧げているようだった。
「リミア、終わったぞ。もう完全に大丈夫だ」
「レインさん、良かった!」
おれのその言葉を聞いたリミアがこちらへと走ってくる。そして、そのままおれに抱きついてきた。
「……待たせて悪い。ごめん、不安だったよな」
「……はい。レインさんにもしものことがあったらどうしようと不安で……」
「……そっちか」
まあ、リミアから見れば途中まではおれが防戦一方に思えてただろうしな。とはいえ、怖い目にあったのは自分のほうだというのに、その状況で他人の心配をするとか本当に優しい子だ。こうして、無事に救出することが出来て良かったと心から思った。
「……あの、助けに来てくれて本当にありがとうございました」
「いや、別にいいよ。ただ、後でサフィアにも礼を言ってやってくれ。実はあいつも一緒に来てたんだ。あ、けど、サフィアもちゃんと無事だから心配はいらないぞ」
「……そうでしたか。わたし、サフィアさんにもご迷惑を……」
「今はそういうのはいいから。とりあえず、さっさと帰ろう」
と、その前に誘拐犯達を警察……、じゃなかった。この世界では警察的な仕事は騎士団がやってるみたいだからそこまで運ばないとな。
もし、こいつらが女性であれば多少は丁寧に運んでやってもいいが、男だしな。首根っこでも掴んで、普通に地面を引きずって歩こう。悪党にそこまで気を遣ってやる必要もないだろうしな。
おれとリミアはここまで来た道を引き返し、まずはサフィアのところへと戻った。すると、サフィアはリミアの姿を見つけた瞬間、こちらへ走ってきてリミアに抱きついた。
「ミア、無事で良かった……」
「……あの、サフィアさんもありがとうございました。それと、ご迷惑を――」
「もうっ、そういうのはいいの。 あたし達は友達でしょ。だったら、これくらいは当然よ」
「っ! はい……、ありがとうございます……」
リミアとサフィアは二人とも目を潤ませて、しばらくの間、抱擁を続けていた。
*****
誘拐犯二人を騎士団の詰め所みたいな場所に連れて行き、軽く事情聴取を受けた後、おれ達は解放される。こちらは色々とあった後ということもあり、本格的な事情聴取は後日にしてもらえた。
そして、今のおれ達がいるのは学生寮の近くにある大通り。つまり、女子寮と男子寮の分かれ道だ。
「じゃあ、帰りましょう。ミア」
「あ、すいません。わたしはレインさんに話したいことがありまして……」
「あら、そうなの? それなら、あたしは先に帰るわね。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
「……あ、サフィア。ちょっと待ってくれ」
おれは帰ろうとしたサフィアを呼び止め、すぐ近くまで歩いて行って語りかける。
「もし、今後お前が危険な目に遭うようなことがあったら、今日みたいに絶対におれが助けてやるからな」
「……な、なによ、急に。不吉なことを言わないでちょうだい」
「悪い。でも、あんなことが起きた後だから、言っておきたくなったんだ」
「……そう。まあ、無いとは思うけど、万が一のときはお願いするわ。その……」
「どうした?」
サフィアは頬を軽く赤らめながら、言葉の続きを口にした。
「……あなたのことは信頼してるから」
「ああ、任せろ」
「ええ、任せるわ。じゃあ、ミアを待たせるのも悪いし、あたしは帰るわね。おやすみ、レイン」
「おやすみ、サフィア」
サフィアの後ろ姿を見届けたあと、おれはリミアに話しかける。
「待たせて悪かったな。それで、話って?」
「すいませんが、一つお願いがありまして」
「なんだ?」
「……その、わたし、まだ恐い気持ちが残ってて。だから……、その……、今夜はずっと一緒にいてもらえませんか?」
なん………………だと………………!?
リミアは今なんて言った!? 今夜はずっと一緒にいてもらえませんかって言わなかったか!?
え、ちょっと待って!? 今夜はずっと一緒にいてもらえませんかってことはつまり、今夜はずっと一緒にいてもらえませんかってことだよな!?
お、お、お、落ち着け。リミアの先ほどの言葉から分かる通り、その言葉に他意はない。そのまんま、額面通りに受け取ればいい。
いやでも、今夜はずっと一緒っていうけど、じゃあ眠くなったので今日はそろそろ帰りますってことにはならないよな? ということは事実上、明日の朝まで一緒ってことだろ。それって、普通にやばくない?
だが待て。一緒にいるってことは、せいぜい同じ部屋の中にいればいいってことだ。以前の宿屋のように一緒のベッドで眠るってことじゃない。であるならば、なにも問題など起きはしない。うん、全然大丈夫。
いや、本当にそうか? あの誘拐犯のアジトでリミアに何度か抱きつかれたけど、実は邪念が少し湧いちゃったんだよなあ。さすがのおれもあのときは空気を読んで、そのことは考えないようにしていたけど、意識せずにやり過ごすのはおれには無理だった。
その程度には健全な男子であるこのおれだ。一晩一緒にいて、またリミアに抱きつかれたりしたら、残念ながら問題を起こさないとは言いきれない。
……そうだ。そもそも不安があるってだけなら、別に一緒の部屋にいる必要はない。リミアには部屋の中でゆっくりと休んでもらい、おれは部屋の外で見張りでもしていればいい。
このおれは当然、眠りながらでも見張りは出来るし、なんだったら一晩くらい寝ないで見張りを続けるくらい朝飯前だ。
よし、そうだな、そうしよう。リミアのためを考えたらそうしたほうがいい。
こうして結論を出したおれは、それをリミアに伝えるために口を開……、開こうとしたら、すでにおれの口は開いていた。そして、リミアのほうがおれに話しかけてくる。
「……では、よろしくお願いします」
「………………ごめん、おれ今なんて言ったんだっけ?」
「『もちろんいいぞ。また、ベッドで一緒に眠ろう』って言いましたけど……」
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思っていたこととは真逆のことがおれの口から勝手に出た。いや、今回は気付かないうちに勝手に出ていた。
ああ、やっぱり今回も駄目だったよ。




